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【概要】

 iPhone 言わずと知れたアップル製のスマートフォン。普段お使いの方も多いのではないでしょうか。

 2007年に発表。本格的に市場投入されたのは2008年のiPhone3Gから。現在同社は販売台数の公開をやめていますが、2017年に発表された統計サイトStatistaの調査によれば販売開始から10年で12億台以上を販売。7380億ドルを売り上げたと推測されています。

   ある識者によればiPhoneは資本主義誕生以来もっとも成功した製品ではないかと述べられていますし、またある識者は、人が一度手に入れたら二度と手放さない製品というのは皆無に等しく、衣服、メガネ、そして携帯端末ではないかとも述べています。

 そんなiPhone。我々はそれがアップルの製品であること。巧みなプレゼン映像と相まって、あたかも故スティーブ・ジョブズが発明したかのような印象を植えつけられていますが、iPhoneは決して彼の発明によるものではありません。
 ではiPhoneを発明したのは誰なのか、そしてiPhoneはどうやって出来ているのか。
徹底した秘密主義で知られるアップルゆえ、iPhoneに関して当事者のインタビューや情報提供などが得られないなか、著者の丹念な取材でiPhone誕生の真実に迫った一冊。iPhone、アップルファンならずとも興味を惹かれる内容となっています。

【構成】

 章立てのある3部+1部で構成された本書。章立てのある3部は14章からなります。
 それぞれの章では、iPhoneで使われている要素技術の出所から、構成素材であるアルミニウムやリチウムイオン電池のリチウム採掘場所。はたまた悪名高きiPhoneの組立工場、深圳のフォックスコンまで。要素技術の歴史を巡る縦の線(時間軸)と、世界各地を巡る横の線(エリア)で描かれるiPhoneの実態。章立てのない1部では、その集大成として2007年のiPhone誕生直前の様子を描き、締めくくられています。

【所感】

 著者が使用する自らのiPhoneが破損したシーンから始まる本書。秘密主義のアップルゆえ、基本的に簡単には解体は出来ないiPhoneですが、大胆にも解体をしてみる著者。そしてその構成された主要なパーツにフォーカスしながら本書は展開されていきます。

 ところでなぜ著者はこのような書を上梓したのでしょうか。

 本書内で著者はある歴史家のこんな話を引用しています。「この情報化時代、この知識社会においても、発明に関する最も古い神話が広く信じられている」と。
 その神話とは「たった一人の人間が地道な努力を果てしなく重ねたあげく、ついに歴史を変えるほどの大発明をなす」といったものです。iPhoneで言えば、それはスティーブ・ジョブズ。でも現実には、そんなことはあり得ませんよね。
 iPhone発表時「本日、アップルが電話を再発明します」と語ったスティーブ・ジョブズですが、著者はアップルは何も発明はしていないと指摘しています。

 iPhone含めスマートフォン操作の代名詞ともいえるマルチタッチ。搭載されたバッテリー、カメラ、CPU、指紋センサー、加速度センサーと言ったハード面に加え、音声認識やセキュリティといったソフト面まで。各要素技術の誕生の経緯などを丹念に解説しています。
 何より驚くのは、iPhone誕生から15年も前にIBMが発表していた「サイモン」という携帯端末の存在。当時既にスマートフォンというコンセプトはほぼ完成していたことに驚きを感じ得ません。

 思えば著者の意図は、本書を通じiPhone誕生に極めて重要な影響を与えつつも、あまり日の当たることのなかった技術や技術者たちを明らかにすることにあるのかもしれません。
 またどんなに優れた技術であろうと世に出るタイミングを逸すれば、決して日の目を見ることなく埋没していってしまう残酷さ。しかしそれでもそういった技術の蓄積があってこそ、時に圧倒的なブレークスルーを生み出すことがあること。そしてiPhoneとはその典型的な事例であることを伝えたかったのかもしれません。

 たしかにiPhoneを構成する要素技術には、アップル独自のものは乏しいのかもしれませんが、その要素技術をまとめ、極めて利用しやすい形にしたこと。また細かなディテールの一つ一つまで徹底的に配慮し、ある意味崇高さを感じるまでの製品化に成功している点で、アップルとスティーブ・ジョブズの功績に異論を唱える人はないかと思いますが。

 冒頭でも記しましたが、直接関係者への取材が、ほぼ困難な中、丹念な取材でiPhone誕生のストーリーに迫った力作。アップル、スティーブ・ジョブズ関連本は多数出版されていますが、iPhoneという単体の製品のみに着目した稀有な本書。iPhone、アップルファンならずとも一読の価値ある内容、お薦めです。
 個人的には個々の要素技術開発史に非常に関心を抱いた1冊でした。
 

                   ダイヤモンド社 2019年7月10日 第1刷発行