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【概要】

 2016年5月に初めて放映されたNHK特集「欲望の資本主義」 反響も大きくシリーズを重ね、本年1月3日には第4弾が放映され好評を博しています。
 https://www.nhk.or.jp/docudocu/program/2443/2225647/index.html
 
 本書は同番組をベースに書籍化された1冊。

 ①GAFAを斬る起業家スコット・ギャロウェイ
 ②「仮想通貨」を開発する数学者チャールズ・ホスキンソン
 ③ノーベル経済学賞受賞の知の巨人ジャン・ティロール
 ④資本主義を読み解く歴史家ユヴァル・ノア・ハラリ
 ⑤「新実在論」で着目される哲学者マルクス・ガブリエル

 錚々たる識者が資本主義の行方について語っていますが、共通するのはテクノロジーの進展が与える世界への影響。GAFAに代表される巨大プラットフォーマーの台頭や仮想通貨の勃興、信用経済の拡大など我々を取り巻く新たな潮流にどう対峙すべきなのか。各識者が持論を語っています。
 
【構成】

 前述した5名の識者の発言を1章ずつにまとめ5章で構成された本書。結びでは本番組のプロデューサー自身の考察も添えられています。

【所感】

 経済ドキュメンタリー番組から派生し誕生した本書ですが、なかなか内容は骨太な一冊でした。
 本書副題にある「偽りの個人主義を超えて」ですが、この「偽りの個人主義」というのは、ノーベル経済学賞受賞経験もある経済学者フリードリヒ・ハイエクの記した論文タイトルからの引用だそうです。
 
「真の個人主義」が社会の存在を前提にするのに対し「偽りの資本主義」とは、孤立した個人、自給自足的個人の存在を前提にしたものであり、またそれは無政府主義を容認する側面もあります。

 様々なテクノロジーの進展により、ネットワークを介し個々人がつながり合える時代。
仮想通貨のように、もはや国家や政府の裏付けなくとも通貨すら発行ができ、まさに独立した個人を中心とした経済が成立するようになっている昨今。
 もはやそれは「偽の資本主義」ではなく、むしろこちらが「真の資本主義」となりつつあるのではないか。なのに一方では、かつてないほど富の寡占が進み、経済格差が増大し、人々の経済的不安はより深刻になっている状況をどう考えればよいのか。巨大プラットフォーマーが新興企業を次々飲み込みイノベーションの芽が摘まれ、個人情報が果てしなく吸い上げられていくような現状はまともなのか。

 副題にハイエクの言葉が選ばれたのには、そんな背景があるのではないか。そんなことを個人的には強く感じました。

 こういった体裁の書籍ですので、なんらかの結論を導き示しているものではありませんし、厳密に個々の識者の話が連続している訳ではありませんが、GAFAの台頭がもたらす問題提起にはじまり、解体是非、いや仮想通貨が抑止力になる。国家の干渉なしでは通貨など成り立たないなど。編纂でうまく一つの流れを作り出しています。
 多様な視線から資本主義にアプローチした識者たちの言葉は示唆に富み、非常に刺激的な内容でした、同番組の反響の大きさ、関心の高さにもうなずける気がします。

 惜しむらくは本書を読んだ上で改めて番組を見直したいところですが、残念ながら見れるのは有料のアーカイブ版のみとなっています。


                       東洋経済新報社 2019年7月11日発行