IMG_42492019- 8-11 Vol.320

【概要】

「入社3年で年収3000万円?」なる帯のついた本書。
 外資系企業の話かと思いきや、これはユニクロを運営しているファーストリテイリングが「入社後最短3年で子会社の経営幹部には年収2000万円~3000万円を提示する」という報道を受けてのこと。https://www.nikkei.com/article/DGXMZO46464260S9A620C1MM8000/

 外資系企業のみならず国内企業ですら、人事制度を大胆に改めようとする背景には、優秀な社員の確保が企業の浮沈を左右することにあります。そして必要とされる優秀な社員の定義も変わりつつあります。

 従前は、MBAホルダーなど経営を担うマネジメント人材層の厚みを増すことが、競争力につながるとされていましたが、今や先進企業を含め確保に走っているのは「クリエイティブクラス」の人材。
 クリエイティブクラスとは、知識労働を主体とした学者やアーティスト、エンジニアなど、創造性によって価値を生み出すことの出来る職種や人材を指します。

 人材を集め、競争させ、そこから優秀な人材を選別するという従来の方法から、卓越した才能をもつ個人の創造性に着目し、そういった魅力ある人材をいかに集めて定着させるか。いま世界の人事戦略は大きく変わろうとしています。

 本書は、そんな最前線の事例を紹介しつつ今後の人事戦略はどうあるべきかについて考察をした1冊となっています。

【構成】

 6章で構成された本書。第1章では、人材獲得の最前線で起こっている事象を大きく総括。第2章以降では、優秀な人材を惹きつける施策、評価制度、採用方法、求められるスキルなどにつき考察。
終章の第6章では、日本企業はどうすべきかを提言した構成となっています。

【所感】

 GAFAなどテック企業の事例を中心に展開される本書。
 個人ごとの報酬の徹底した差別化、高いパフォーマンスを発揮させるための県境整備、評価やフィードバックのための密なマネジメント、客観的・科学的な採用方法の追及、必要なスキルを迅速に獲得させる組織運営など。

 社員に高い創造性を発揮してもらうため行われる各社の様々な施策。
高収益を誇るテック企業群ゆえ可能な待遇や施策とも言えますが、創造性の重要さは業種や規模を問わないのであり、今後多くの企業でも同じような流れにシフトしていくことは想像に難くありませんね。

 こういった前提を踏まえ、著者はこれからの日本企業は3つの軸で人事戦略を行うべきと提言しています。3つの軸とは、創造性の軸、専門性の軸、多様性の軸を指しています。

 創造性の軸とは、創造性をどう評価するのかという課題であり、組織貢献をベースに個々人に則した、より丁寧な評価と柔軟な処遇の重要性を説いています。

 専門性の軸とは、社内では育てられない卓越した人材を、どの程度外部から調達すればよいのか、そのバランスをどう考えるかという課題であり、それに合わせてマネジメントやマネジャーをどう変革していくのかが記されています

 最後の多様性の軸とは、組織内で創造性が発揮されるためには、優れたアイデアを幅広く取り込む姿勢が大事であり、そこで活躍する人材も多様であることが前提になります。そのためには公正な評価が不可欠と説かれています。また価値観やモチベーションのあり方も人それぞれであり、個を尊重し、その内発的動機に働きかけるマネジメントが大切と説いています。
 
 高い報酬や福利厚生、確かに優秀な人材を引き寄せ、定着させるためには有益な一手かもしれません。しかし一方で人は報酬の多寡や待遇の良さのみを求めているものではないとも説きます。

 ならば組織への帰属意識や貢献意識はどうすれば高まっていくのでしょうか。
結局、組織の描くビジョンや社会に与えようとしているインパクト。そういったメッセージをきちんと打ち出し共感してもらうことに尽きるのかもしれません。

 高報酬の提示や、本書で紹介されている様々な施策の実施。そんな表面上のことではなく、様々な価値観を持つ多種多様な個々人を大切にしつつも、組織としての一貫した価値観にベクトルを合わせさせること。そんな一見矛盾した命題へのチャレンジが、今後企業が生き延びる鍵となるのかもしれません。そんな読後感を抱いた1冊でした。    


                  日本経済新聞出版社 2019年7月19日 1版1刷