2020- 1-12 Vol.342IMG_4669

【概要】

 戦後、驚異的な成長を遂げアジア経済を牽引した日本。しかしいまや失われた20年とも30年とも言われる長期停滞
に陥り、かつての輝きも霞んでしまったかのように思えます。
 一方成長発展著しいのが、中国を筆頭にASEANなどアジアの国々。
 戦後、欧米から積極的に先進技術を取り入れ、工業大国の道を歩み、かつてはMade In Japan 製品が世界を席巻した日本。
 その発展のプロセスは、アジアの国々にも影響を及ぼし、ことモノづくりにおいては、日本でピークを迎えた産業分野が、低コストを求めアジアにシフトしていくパターンが多く、長らく日本がアジア地域の経済をリードする立場であったことは疑いのない事実です。

 今や経営環境は大きく変わり、アジア地域におけるリーダーとしての存在感は希薄化。今後はアジア地域を構成する1プレーヤーとして、いかに存在価値を高めていくかが重要な課題となっています。

 アジア経済はどのように発展をし、その要因はどこにあったのか。今後そこに死角はないのか。長期低迷が続きアジアの中で徐々に存在感を失いつつある日本は今後どうすればいいのか。そんな考察を試みているのが本書です。

【構成】

 全6章で構成された本書。第1章では、主として日本を軸にした20世紀のアジア経済の発展史を振り返ります。第2章では21世紀以降のアジア経済発展の特徴を考察。3~4章では経済発展の鍵であるモノづくりに着目をし解説。5章では華々しい経済発展の裏で進展する格差拡大など負の影響に触れ、終章では今後日本の進むべき方向性についての提言で締めくくられています。

【所感】

 アジア経済が著しく発展を遂げる中、相対的に日本の存在感が薄まった理由として、著者は下記の2点を挙げています。

 ①アジアの国々が豊かになり、国内市場が拡大、地場企業が台頭してきたこと
 ②モノづくりのあり方が大きく変わったこと。中国企業などがイノベーションを牽引したり、新しい比較優位分野を築き始めていること。

 ①については、各国とも経済発展に伴い購買力をもつ中間層が拡大しているほか都市化が進展し、現地消費市場が拡大していること。内需増加によるビジネスチャンスは当然、情報入手や物流などの面からも地場企業に有利であり、旺盛な消費意欲に応えることで事業拡大に成功しています。

 ②は、モノづくりが、これまで日本がお家芸としていたような「摺り合わせ(インテグラル)型」から「組み合わせ(モジュラー)型」へ移行し、新興企業でも参入が容易となってきたこと。この辺りは日本の家電メーカーの凋落ぶりを見るに顕著かもしれません。
 グローバル・バリューチェーンを構築。全世界から部品を調達し、消費地に近いところで最終製品を組み上げる。そんなメーカーがアジアのあちこちで生まれ、自国の市場に投入されていく。
 かつてその主役だったのが日本企業ですが、いまや主体となるのは、各国の現地企業。日本もそんなバリューチェーンの一部に過ぎなくなっていますし、製品によっては日本製品すら必要ではなくなっています。

 もはや日本は凋落していくしかないのでしょうか。どこに活路を見出せばいいのでしょうか。

 本書で著者は、経済複雑性指標(ECI)という概念を紹介しています。これは成長ポテンシャルの高さを見る指標であり、一国の経済の持つ生産的知識の多様性と、その能力の偏在性、希少性に着目したものです。実は日本は1984年からずっとこの指標で世界一を維持しているそうです。
 つまり日本には、もっと成長出来る潜在能力があるということ。
ならばこの成長ポテンシャルをどう活かすのか。著者は下記の様な取り組みを提案しています。

 ①グローバル・バリューチェーンの特定の工程・機能について代替の効かないポジションを築く
 ②他社との協働を通じたイノベーション
 ③多様性の受け入れ
 ④暗黙知を活かす

 冷静に現在のアジア諸国の発展、経営環境の変化を受け止めること。過去の成功体験を捨て、日本企業のもつ強みは何かを今一度定義し直し磨き上げること。
 新書ながら、豊富なデータを引用し、戦後から現在までのアジア経済発展をコンパクトに総括した本書は、そんなことを考えるのに非常に参考になるものでした。

 
                        中央公論新社 2019年12月25日発行