2020- 9-13  Vol.377965D7392-6A3A-4312-A059-CA2558BEB638

【概要】

 コロナウィルス感染症影響で、著しく業績に影響を受けている外食や旅行、航空産業。実はアパレル産業もまた大変な苦境下にあると言われています。
 今年5月に発表された「レナウン」の民事再生申請。ギャル系ファッションを牽引した「セシルマクビー」の全店閉店。実に上場アパレル企業12社の半数は赤字転落とのこと。
 また主たる売り場の一つである百貨店も大きく売上を落としていますし、日本でも知られた海外アパレルの「ローラアシュレイ」や「ブルックスブラザーズ」も相次ぎ破綻をしています。

 アパレル産業不振は、現在に始まったことではなく、またその産業構造の問題を指摘する声も多かったのですが、このコロナウィルス感染症影響で、一気にその苦境ぶりが露呈したと言えるのかもしれません。

 本書はそんなアパレル業界にあって異色の存在感を示すブランド「ミナ ペルホネン」https://www.mina-perhonen.jp/ に着目した1冊。同ブランドを率いるデザイナーであり代表者でもある皆川明氏へのインタビュー形式で構成された本書。流通業に関する著書の多い川島蓉子氏が聞き手となっています。

【構成】

 全5章で構成された本書。第1章~第2章では、主として皆川氏の仕事観や創造への思いが語られています。第3章~第4章では、工場や店舗、組織に関する具体的な運営について、終章の第5章では経営全般に寄せる思いが語られています。
 明確に区分されているわけではありませんが、前半2章は、デザイナーとして、後半3章は経営者としての思いが反映された構成と言えるかもしれません。

【所感】

 皆川氏率いる「ミナ ペルホネン」の最大の特徴は、オリジナル生地そのものを製造することから入ること。生地全てには品番ではなく名称を付与し製作した生地は原反を全て保管。復刻版として再生産することも少なくないようです。
 半年後ごとに春夏、秋冬と新しいトレンドを提案し、計画的に陳腐化を図っていくのがアパレル業界の常道ですが、「ミナ ベルホネン」では過去に発表したものを、そのまま継続して販売していることも少なくなく、時間軸の考え方も随分異なるようです。
 単に定番商品を作って、長く売っていくということではなく、一時の「トレンド」に左右されず、長く身に着けることができること。他のブランドと組み合わせることなど通じ、買い手が自身の「スタイル」構築できるような商品作りを心掛けていること。
 協力工場を大切にし、フェアでフラットな関係を構築することや、直営店では年齢制限を設けず雇用をすることなど、既存のアパレル業界の慣習に囚われない独自の経営センスが光ります。

 かと言って全編を通じ、さほど気負いすぎることなくもなく、淡々とした印象すら受けます。
様々な経営上の取組や生む出す商品も興味深いのですが、何より第1章で皆川氏の語る仕事観、人生観に非常に心捉われるものがありました。
 「働くことの意味」を問われた皆川氏が、「人が一生をかけて心に持ち続けられる資産は『記憶』しかない」と語る部分です。人が一生で費やす時間の中で半分は労働。ならば労働を通じ、良い記憶をもつことが人生を豊かにしていく。そんなニュアンスのことを語る場面があります。

「家族や隣人など、誰かの役に立って嬉しいということが暮らしの一部をなしていて、それを生きている限り感じ続けたいというのが、人間の本質ではないか」と。

 そしてそれは同社の理念にも色濃く反映されており、皆川氏は「優れた技術をもった工場の人と信頼関係を作り、進歩を続けていくこと。お客様の喜びにつながるようなプロダクトを長きにわたって作り続けていくこと」とし、大事なことはこれを覚えることでなく、確実に実行していくことだとも語っています。 

 アパレル業界のみならず、あらゆるものづくり企業。いや業種を問わず、働く人全てにおいて示唆に富み、心に響く言葉満載の本書。ビジネス系の出版社でなく、さほど目立ちませんが、お薦めの1冊です。


 
                         リトルモア 2020年9月9日 初版第一刷発行