2020-10- 4  Vol.3801C2C25D5-C1F4-48FF-8134-4CA27571C956

【概要】

 日本ではじめて直販投信をはじめ、たった一本の商品「さわかみファンド」という長期保有型投信を販売、運用するさわかみ投信。
 設立から21年、同ファンドの純資産は2900億円。顧客数は11万7000人を誇ります。個人的にも同ファンドのファンであり、かれこれ15年ほど毎月購入させていただいています。
 
 本書著者はそんな同ファンドの設立者にて、同投信を販売するさわかみ投信株式会社の会長職にある澤上篤人氏。

 ビジネスの場においては、経営の方向や姿勢を首尾一貫して貫けるかどうかが問われているという同氏。
 コロナ禍もあり、激変する経営環境下においても、経営者は、その対応に翻弄されることなく、自身や自社の軸をブラさないことが極めて重要であると説きます。

 投資家として、多くの企業や企業経営者を見てきた一方、自らも起業家として徒手空拳で世の中にはなかった直販投信というビジネスモデルを作り上げた澤上氏。自身の経験を踏まえ「ブレない経営」とは何か、これからの企業や経営はどうなっていくのかについて綴った1冊となっています。

【構成】

 全4章で構成された本書。第1章は「ブレない経営」の総論。第2章~第3章は「ブレない経営」を実践するための組織や商品、営業のあり方について触れ、終章では、これからの企業のあり方について考察し締めくくられています。

【所感】

 ご本人も触れていますが、本書は「ブレない経営」というものを理論立てて説明したものではありません。ただ実践や経験に裏打ちされた著者の視点は、示唆に富むものでした。

 まず冒頭で語られるのは、「新しい社会を作っていくのは、事業家と投資家」だけであり、そのためには将来構想力と行動が必要ということ。そしてこんな社会にしていきたいという目線の高さや美意識が問われているのだと説きます。自身や自社は、社会にどんな富をもたらすことが出来るのか。その原点を見失わないことが、ブレない経営の第一歩と言えるのかもしれません。また富とは単に利益を言うのでなく、雇用や顧客が自社に抱く信頼や安心感といったものもまた富なのだとも記しています。

 そんな青臭いことで経営なんかできない。そんな意見もあるかもしれません。
実は澤上氏も創業時は資金調達で非常に苦労をしたそうです。顧客からの預かり資産と、そこから頂戴する信託報酬が投資会社の収益の柱ですが、当然立上げ時にはシステム開発や諸経費が先行。金融会社ゆえ金融機関からの融資は受けられず経営は火の車だったそうです。こんな経営状況を知られたら、社員が皆辞めてしまうと思い経理は全てご自分でやっていたそうです。
 苦心の末編み出した手法が、小規模私募債の発行。500万の額面を49口発行。それを既にさわかみファンドを購入していた顧客へ販売。5回実施をしたそうですが、これにより同社は安定した資金調達に成功。創業期の危機を脱します。ピーク時には自宅を担保に入れた個人融資も含め10億円近い個人保証を負ったそうです。その際に外部資本を入れさせなかったことが、独立性を維持し多くの顧客を集めることに繋がっており、自身の意志を貫くこと、ブレないことの大切さを学んだと記されています。

 また本書では、「大きくしない経営」の効用も、何度となく語られます。
 日本の様な成熟経済下において、売上を伸ばしていくことは非常にハードルが高く、また様々なコスト増加要因につながり、資金繰りにも影響を及ぼします。結果、商品やサービスの質が低下したり、顧客の幅を広げすぎ対応に追われてしまうなど、自らの事業の本分を見失いがちです。これではとても「ブレない経営」の実現など出来ません。
 大きく売上を伸ばせる企業は、ごく一握りと考え、大きくならずとも社会に不可欠な存在にどうすればなれるのか、そこに思いをはせるべきではないかと説いています。IT技術の革新もあり、規模を追わずとも出来る事業の幅は非常に広がっており、これまでの価値観に囚われない発想も大切としています。具体的な事例については、さわかみ投信自体の施策も踏まえ、多数紹介されていますので参考になる点も多いのではないでしょうか。

 澤上氏は、本書以外にも複数の著作があります。本書も資産運用ビジネスへの言及など、多少さわかみ投信の営業的な要素がある点は否めませんが、どの出版物においても必ず触れているという点では、それもまた「ブレない」姿勢ということになるのでしょうね。


                     明日香出版社 2020年9月26日 初版発行