2020-11-15  Vol.386627730B4-9795-4ACA-B779-7BAB90FCA904

【概要】

 少し前にJNN系列のドキュメンタリーとして「寅ちゃんと6年1組農業部」という番組が放映されました。
https://www.tbs.co.jp/cstbsnews/lineup/jnn-doc/202008.html
 同番組は、山形県天童市の寺津小学校6年生19名が、農業部を立ち上げて、ねぎの種まき、定植、栽培、収穫、販売までの取組を追った「農業密着ドキュメント」でした。同学校で講演をしたことをきっかけに、同校農業部の支援を行ったのが、本書著者でもある清水寅氏。子供達の活動もさることながら、自らを「葱師」と呼ぶ清水寅氏の存在に衝撃を受けました。

 調べてみると清水氏は「ねぎびとカンパニー」という農業生産法人の代表であり、「モナリザ」というブランド名で、1本1万円の贈答用のネギを生産販売している知る人ぞ知る農家でもありました。
 本書は、そんな清水氏が、自身の半生と、葱づくりへのユニークな取り組み。そして農業への思いなどを語った1冊。消費者金融というまったく異業種から就農。わずか10年足らずで10町歩(10ha・100,000㎡)に迫る面積を耕作。かつネギの高付加価値に成功したノウハウを余すことなく公開しています。

【構成】

 全5章で構成された本書。第1章では自身の半生と就農までの経緯を。第2章では、ネギの高付加価値化に成功した秘訣。第3章から第4章ではネギ栽培に関する取組の様子が仔細な箇所まで明かされています。終章の第5章では、同社の運営や仕事の進め方につき言及をしています。

【所感】

 ドキュメンタリー番組を見た時には、陽気で明るい、ややもすれば能天気な「ネギ農家」といった印象を受けましたが、本書を読んで、その思いは一転。
 土づくりに始まり、栽培方法、収穫方法、販売方法と、どの過程においても、徹底的に考え様々な実践を繰り返してきた様子に驚かされます。
 
 本書タイトルにある「1本1万円のネギ」ですが、そればかりでビジネスが成り立つわけではなく、清水氏も、これは自動車メーカーがF1に参戦するようなものだと語ります。それだけの値付けが出来る生産者が作るなら、汎用品とでもいうべき普通のネギでもきっと美味しいに違いない。そう思う消費者が増えることで、自身の作るネギはブランド化し、個々の販売価額を上げていくことが出来る。
 農業とはいえビジネスである以上、付加価値を高め続けなければ、存続は覚束ないはず。販売価額もさることながら、コストを下げいかに生産性を上げていくか。
 本書では、幾度となく「常識を疑う」という言葉が出てきます。他業種からの参入ゆえ、ネギの生産のみならず農業全般においてまかり通る一般のビジネスでは考えられない「常識」について「なぜそうなのか」「本当にそうなのか」と絶えず疑問を呈し、改善に取り組んできた様子が、事細かに記されています。

 正直ビジネス書ですから、種の植え方、雑草の抜き方など農作業そのものの仔細な記述など本来は不要なのかもしれません。しかしそこまで細部にこだわってきたからこそ、書籍化に際しても、そういった過程を端折ることなど、到底出来ないという思いを強く感じました。

「農業は素敵だ」「農業は楽しい」そんなことを言う輩は「決して信じない」と言う清水氏。
農業は紛れもない3K(きつい・汚い・臭い)ですが、「それでも(農業は)恰好いい」と言わせたいと語ります。
 就業したい。農業をやりたい。そんな人を増やすため、自身を「芸能人」と呼び、メディア露出も積極的に行っており(なんと芸能事務所に所属をされています)、本書もその一環なのかもしれません。
 一見「際物」かと思いきや、実は真摯に農業を考え実践してきた「極者」。今後どういった活動や事業展開をされていくのか、期待は尽きません。
 
                            講談社 2020年10月20日 第1刷発行