2021- 1-10  Vol.39434E36031-6479-4402-B2F6-E4C58830B451
  
【概要】
 
 東京一極集中を是正し、地方の人口減少に歯止めをかけ、日本全体の活力を上げることを目的とした政策である「地方創生」。
 行政主導で作成される地方創生プランや、地域金融機関により設立された企業支援ファンド。制度や資金など地方創生のための外枠は充実してきたものの、肝心の中身となる起業家人材や新事業の種は希薄であり、地方創生の現場はドーナツのような空洞化現象を起こしてしまっている・・・・・。
 
 そんな創造的起業家支援のため、2015年野村総研が開発したのが「イノベーション・プログラム」。現在全国4圏域(十勝、新潟、山陰、琉球)まで拡大しており、5年間で500名を超える起業家が生まれ、100を超える起業家支援チームが活動しています。
 本書はそんな「
イノベーション・プログラム」を創設し主導してきた野村総研、2030年研究室長の齊藤義明氏の手による1冊。「イノベーション・プログラム」の概要を紹介すると共に、5年間の活動内容を振り返る内容となっています。 

【構成】

 全15章(本書内では章という表現は使っていませんが)からなる本書。その中心となるのは、全8段階からなる「イノベーション・プログラム」の解説。各段階ごとに1章ずつを充て、プログラムの内容や実践の場での様子が記されています。加えて、同プログラムから実際に生まれた事業の紹介や、プログラムの未来に寄せた思いなどから構成されています。

【所感】

 本プログラムの最強の武器は、著者の所属する能村総研2030年研究室が進めてきた「100人の革新者ネットワーク」にあります。
 これは同室が3年の歳月をかけて日本全国の様々な事業領域から探し出した100人の革新者をネットワーク化したもの。
 革新者(イノベーター)たちには ①あたりまえを疑う。②Needsを探すのではなく、Whantsを創造する。③マイナスをプラスに変える。④同類とはつるまない。⑤負けたふりをする。といった共通した特徴がみられるそうです。

 そんな彼らのもつ「キラースキル(必殺技)」ともいえる特徴をプログラムに反映させること。時にプロジェクトの現場にも足を運んでもらい直接接触の機会を設けること。イノベーター(革新者)を刺激できるのはイノベーター(革新者)しかいないとの思いがその根底にあります。
  
 さて肝心の「イノベーション・プログラム」の内容ですが、5ケ月間で ①キックオフ ②相互理解 ③革新者刺激 ④アイデア創出 ⑤チーム形成 ⑥事業創発 ⑦スパーリング ⑧事業化支援 という8つのセッションを実行していくそうです。
 仔細な内容については、是非本書をご参照いただきたいのですが、①~③までは起業家としてのモチベーション喚起。④~⑧では実際のビジネスモデル構築が主テーマとなっているようです。

 本書では、プログラム内容の紹介以外に、よりプログラムの効果を高めるために考慮すべき参加者選定のポイントや、具体的な運営(支援)体制の構築方法にも踏み込んだ解説が加えられており、本プログラムにつき余すところなく内容を伝えたいとの著者の思いがひしひしと伝わる感じを受けました。
 
 個人的には、同プログラムの肝は ③の革新者刺激セッションにあるように感じました。
 地域の未来に不安を持ち、なんとかしたいとの思いを抱く人は決して少なくないと思います。しかし自らが当事者となり起業をするのは、大変な勇気を必要とします。
 同セッションで登壇する革新者たちは皆共通した隠れたメッセージを発信していると著者は語ります。それは「人生はたった一度きりだし短い。あなたはその生き方でいいのか?」という問い。
 プログラム参加者は、その重大な問いを感じ取り「革新者と出会って自分もまた狂えるか?それとも既存の安全地帯に戻るのか?」との決断を迫られます。

「最大の敵は自分の内側から巻き起こる。」と著者も指摘しているとおり、起業出来ない理由や言い訳はいくらでも思いつきます。事業内容の巧拙よりも、まずは起業したいとの強い思いの醸成。そしてその最大の後押しとなるのは、自らも同じ道を辿った先達の革新者たち。その連鎖の波を大きく広げることこそ、地域創生のみならず今後の日本社会の行方を決めていくのではないか。そんな思いを強く抱いた1冊でした。 
 
                            東洋経済新報社 2020年12月31日発行