5EFFB1C0-A350-447C-A79C-3796D2CED0FC2021- 2-14  Vol.399

【概要】 

 数年前、世間を騒がせた「かぼちゃの馬車事件」。株式会社スマートデイズが展開していた、女性専用シェアハウスのサブリース事業が破綻。物件を所有していたオーナーへの賃料が未払いとなった事件でした。

 そもそもスマートデイズ社は、サブリース事業で収益を上げていたわけではなく、物件を紹介し建築業者から受け取るキックバックが収益の柱でした。つまり次から次へとオーナーを探し、新たな建物を作り続けなければ、破綻してしまうことは明らか。はなから詐欺目的と言われても仕方のない脆弱なビジネスモデルでした。

 その被害をさらに大きくしたのが、スルガ銀行の存在です。
 主として横浜東口支店を舞台に行われた不正融資の数々。建築業者などへの多額なキックバックを含むため、不当に高額な物件と知りつつも融資を実行。与信力の低いオーナーへの審査を通すために行われる書類の偽造。抱き合わせで実行される積立定期預金による資金拘束に希望しない1,000万円ものフリースタイルローンの強制。おおよそ信じがたい行為が横行し、オーナーはひとりにつき1億円以上の債務を背負うことになりました。
 
 追い詰められたオーナー達。
紆余曲折の末、被害者同盟を結成。辣腕弁護士河合弘之氏の支援を経てスルガ銀行を相手に、債務帳消しを求め戦います。
 結果、約250名の被害者(同盟参加者)が抱える債務約440億円は帳消しに。金融史上前例のない決着をみることとなります。
 本書は、そんな被害者達がスルガ銀行から「債務帳消し」を勝ち散るまでを描いた1冊。
事件発端のインパクトのわりには、以降の報道が少なく、今ひとつ解決の経緯が見えにくかった本件ですが、その全容を丹念に明かしています。

【構成】

 全7章で構成されており、事件の発端から決着までを、おおむね時系列で記しています。
ノンフィクションですが、河合弁護士など一部の当事者を除き、登場人物はほぼ仮名となっています。

【所感】

「事実は小説よりも奇なり」そんな言葉がありますが、まさにそんな印象を受けた本書。

 高齢者ならまだしも、良識や常識も備えているであろう現役のビジネスマンたちが、いとも簡単に「必ず儲かる」という不動産投資に引っかかってしまう不思議さ。不動産購入にも関わらず物件を見ることもなく、多額の融資に同意してしまう下り。スルガ銀行による書類偽造があるも「原本と相違なき証明書」に署名をしてしまっているゆえ窮地に陥りそうになる脇の甘さ。まさか金融機関がお墨付きを与えているのだから、失敗する筈はないだろうとの楽観。どんな時代になっても、この手の事件が後を絶たないところに垣間見える人の心理。

 そもそも「投機目的」でやっているのだから破綻してもそれは「自己責任」という世論。自分自身を責める要素には事欠かない中、それでも、被害者の一人、冨谷氏(仮名)の勇気ある行動から、本件は動き始めます。
 何より大きかったのが、河合弘之弁護士を、被害者同盟の弁護団に向かい入れることができたということ。奇しくも河合弁護士の婿旦那も、本件の被害者だったそうです。

 河合弁護士は、誰と戦うのか、どう戦うのか、どう決着をつけるのか、そこを明確にする大切さを被害者に説きます。スマートデイズ社を訴えたところで、債務が無くなるわけではない。ならば戦う相手はスルガ銀行でなくてはならない。しかもその決着は中途半端な和解ではなく、代物弁済による全額債務帳消ししかないと。

 訴訟をやれば、長引くし金銭負担も大きくなってしまう、デモを行い世論を味方につけること。上場企業であるスルガ銀行の株主となり、株主総会に乗り込むこと。そんな形で揺さぶりをかけながら、交渉を続ける経緯は、痛快であると共に、その戦略の巧みさに驚かされます。

 結果、被害者同盟全員の「債務帳消し」に成功をしますが、これは相手が地方銀行であり、風評による資金流出などで経営が持たないからとの判断。都市銀行などメガバンク相手では、勝てなかったかもしれないと、ご本人も語っており、実は奇跡に近い勝利だったのかもしれません。

 経済事件の都度、しばしば名前が浮上するスマートデイズ社の陰の主宰、佐藤太治氏の存在。地銀の雄と評されたスルガ銀行の実態、リテール不動産融資の危うさ。被害者個々人の置かれた背景へのアプローチと、他にも読み応え十分の本書。

 巻末で河合弁護士の語る「弁護士に頼んだからと思って安心しちゃダメだ。手を抜いちゃダメだ。一緒に戦わなければ勝てないから。」それが自身が大きな事件で勝ってきた秘訣と明かし、
様々な葛藤を抱きながらも、皆をまとめ何度もデモ活動を繰り返すなど共闘した冨谷氏のリーダーシップや奮闘を労う言葉が記されています。

 確かな戦略や当事者意識の高さ。ゆるぎない意思と実行力。どんな難局であっても屈せず戦うために大切なものは何なのか。一つの経済事件を扱った本書から、そんなことも併せて考えさせられました。

                           さくら舎 2021年2月11日 第一刷発行