2021- 9- 5  Vol.429 03C9C8F0-A89C-4589-B52B-4884CB8C06CF


【概要】

 東京は吉祥寺にあるイギリス雑貨や洋服、書籍などを扱うお店「吉祥寺よろずや」。本書著者である井形慶子さんのお店です。
 長らく出版社を経営。同事業を縮小し代表を譲った後、2016年、50代後半で同店をオープンさせます。
 長きにわたり、英国情報誌「英国生活ミスター・パートナー」を発刊してきた関係から、イギリスのファッションや雑貨に造詣が深かった井形さん。いつの日か。自らの手で自身のお気に入りの洋服や雑貨を販売するお店をもちたい。そんな夢を叶えた彼女が記した奮闘記が本書です。
 しかも同店は表題にある通り、年に34日(2016年開店時)しか開けないお店。果たしてそれで経営として成り立っていくのでしょうか。そんな印象を抱き、本書を手に取りました。

【構成】

 全9章で構成。1章から2章では、自身の半生と開店までのいきさつを綴り、3章以降は物件探し、改装、開店と時系列で紹介されています。またカラー写真で、同店の様子や扱う商品。その製作者なども紹介されており、見ても楽しめる構成となっています。

【所感】

 本書を紹介させていただいたのは、本書が、一店舗の成功物語にとどまらず、今後の日本人の働き方、ビジネスの在り方に大きな示唆をもたらすのではないかと思ったことにあります。

 〇人生100年時代と言われる中、セカンドキャリア、サードキャリアをどう考えるかの参考として
 〇ネット普及下で、リアル店舗を構える小売店(特に個人店)の経営を考える参考として
 〇イギリスの様子も踏まえ、これからの個人の幸せな生き方、働き方を考える参考として

 出版社経営で成功しつつも、出版不況が続く中、持続可能な経営ができるように、ダウンサイジングを敢行した経緯や、リスクを最小限に抑えた店開きと店舗運営の工夫など、経営について示唆を得る点も多いのですが、ただ正直鵜呑みは禁物のところはあるように思います。

 井形さんは、同店開店にあたっては、当然自らの出資もありますが、自身の経営する出版社の一事業として展開しており、ご自身も相談役として在籍。また著述などもされており複数の収入源をお持ちです。ゆえに年34日という極めて短い開店日数でも運営可能な店舗を構えることが出来ており、リスク回避には相当な準備をされています。よって同店のビジネスモデルは、万人向けではないとは思います。

 ではどういった方に向いているのか。やはりセカンドキャリアや副業を考える方ではないでしょうか。著者の井形さんは50歳代で、同店を始めますが、子育て、住宅ローン完済などの人生の大きな節目は乗り越えており、自身の生活コストが下がっていることから、ある程度の収入減を受け入れることが可能となっていたと記しています。

 趣味性の高い店ですので、回転率は低く決して大儲けできる商売ではありません。そうは言っても、いざ商売となれば、たくさん売りたい、儲けたいという意欲には抗えない。でもそうしてしまうと、本来自分のやりたかった商売が出来なくなってしまうと、井形さんも自身の葛藤を綴っています。儲かることよりも、店舗の持続、自身の気持ちの充足を優先するには余裕が必要です。それゆえ専業化はリスク大きいとも言えます。また井形さん自身は、小売業は初体験ですが、前職での経験が役に立っていると語ります。井形さんのキャリアの出発点は出版業ですが、それに限らず一つの仕事を長く続けた経験は、違う業界の、はたから見ればよく分からないことも、なんとなく理解できるし、応用できることも多いと言います。
 無理矢理資格などとらなくても、どんな人にでもそういう意味での実績はあり、応用力もあるはずだから、それを生かせばいいのだと井形さんは説きます。ゆえに一定の職業経験をもつセカンドキャリア組こそ、このような挑戦をしてみるべきではとの提言をされているように個人的には感じました。

 また自身単独での開業は元より、労働人口減少で定年も伸びる中、単に嘱託による再雇用のみならず、一部出資などを通じ、この様なキャリアプランを推奨する企業が増えることで、また面白い局面が広がっていくかもしれませんね。
 

                             集英社 2021年8月31日 第1版発行