2021- 9-12  Vol.430 B74CF18B-58A5-4629-B73D-7F6DB4BB68AA


【概要】

 世界でもっとも影響力のあるビジネス書の1つに数えられる書籍「ビジョナリー・カンパニー」。
 偉大で永続的な企業になるための要件を探求した同書は、シリーズ化され、世界で累計1,000万部を超えるロングセラーとなっています。本書は、そんな同シリーズの最新作にて原点。
 
 著者のジム・コリンズ氏は、かつてスタンフォード大学経営大学院で教鞭をとっており、その際の講義を下敷きに自身のメンターと共に「ビヨンド・アントレプレナーシップ」を上梓しています。

 邦訳はされていないため、知る方も少ないかと思いますが、「ビジョナリー・カンパニー」に先立つ1992年に出版されています。本書は同書のアップデート版。そこで最新作にして原点というキャッチフレーズがついているわけです。
 
 同書をアップデートした理由について、「ビジョナリー・カンパニー」シリーズは主として大企業の事例が多く取り上げられていますが、著者自身は決してスタートアップや中小企業へ関心がないわけでなく、自身のキャリアの出発点はそこにあり、なんらその関心は冷めることなく、むしろ高まっていること。出版から年数を経て、興味深い事例が相当蓄積されてきたこと。そして自身のキャリアに多大な影響を与えたメンターにして共著者であるビル・ラジアー氏の功績について、もっと知ってほしいことなどを挙げています。

【構成】

 全9章で構成された本書。1章~2章、5章~6章は今回追加をされた章になっていますので、オリジナル版では、リーダーシップ、ビジョン、戦略、イノベーション、戦術の遂行の5章で構成されていたようです。
 新設の章以外にも既存の章には「本書の新しい視点」と称した追記が設けられ、オリジナル版との違いを明確にしている他、オリジナル版はグレー。新章や追記は白と、ページの色そのものも分けるなど、装丁にも工夫が凝らされています。

【所感】

 30年の時を経てアップデートされ生まれた本書。
その要諦は、新設された第6章に記されている「地図」にあります。自身の長年の研究によって培った知見を元に、リーダーが偉大な企業をつくるために歩むべき道筋を示したもので、本書では「ザ・マップ」と銘打たれています。

 12の原則から成り、11の原則を4段階に分け、全段階に共通する原則を1つ挙げています。
 第1段階「規律ある人材」、第2段階「規律ある思考」、第3段階「規律ある行動」、第4段階「永続ある組織」の順で展開される「ザ・マップ」。
 適切なリーダーシップのあり方。正しい人材を集める重要性。どのような思考をさせ、どう行動を促せばよいのか、必要なポイントが端的に示されています。

 興味深いのは、これらの原則効果を増幅させる法則として「運」を挙げていること。何か非科学的な印象を受けますが、これは「運に恵まれること」ではなく、「恵まれた運をどう活かすか」つまり「運の利益率」を高めること。
 著者は長年、多くの企業を見る中で、企業が見舞われる運・不運に大きな差はないが、不運に対処する備えと、その不運から何を引き出すかが、明暗を分けるとしています。

 そしてこの「運の利益率」が、著者が考える12の原則の中でもっともお気に入りだと記しています。
とてつもない不運が偉大な企業をつぶすことはあっても、とてつもない幸運が偉大な企業を生み出すことはない。永続する企業を生み出すのは運ではなく「人」。まぎれもなく「人」なのだと記しています。

 著者が本書で追記した第2章は「最高の人材がいなければ最高のビジョンに意味はない」とのタイトルが付されており、実はここでも「人」につき多くのページを割いています。繰り返し説かれるのは「正しい人材」を集めること。そのためには、何よりリーダー自身が成長しなくてはならないこと。自身のキャリアより部隊に集中し、部下を大切にすること。語り合う文化を醸成することなどが挙げられています。

 追記のみ言及してしまいましたが、オリジナル部分も、30年の時を経ているにも関わらず、その内容はなんら色褪せることはありません。ゆえにアップデート版が生まれるのであり、原著が陳腐であれば、著者がこの様な試みをすることもなかったでしょうね。

 起業家、経営者の方のみならず、リーダーと称される全ての方に読んでいただきたい1冊。「ビジョナリー・カンパニー」シリーズを読んだことのない方の入門書としても最適です。

                          日経BP 2021年8月23日 第1版第1刷発行