2021-10-10  Vol.434 C78A6812-0D37-469D-A8F5-FBC76DEBD2C1


【概要】

 2017年から、おおよそ年1回のペースで放映されているNHKスペシャル「欲望の資本主義」。放映後に未放送の内容も含め、書籍化されることが通例になっており、本書はその第5弾です。

 現代の資本主義はどこへ向かおうとしているのか。

 当初から一貫したテーマで、世界の知性たちへのインタビューを介し編成された同番組。続けてご覧になっている方も多いのではないでしょうか。
 2021年に放送された2回の番組に登場したのは、ジョナサン・ハスケル(理論経済学)、ロバート・J・シラー(金融経済学・行動経済学)、ダロン・アセモグル(政治経済学)、エマニュエル・ドット(社会思想家)、アンドリュー・W・ロー(金融額)という5名の識者たち。
 
 副題にあるように、本書の主題は「格差拡大」。世界的なコロナウィルス感染症蔓延を機に、更に拡大したと言われる「格差」につき、各人の持論が展開されています。

【構成】
 
 全5章で構成。各識者へ1章ずつを充てており、巻末で著者のまとめが付されています。

【所感】

 本書の良さは、端的に各識者の知見に触れることが出来ること。各人の著書を開かずとも、ざっくりとその主張の概略を知ることが出来ますし、番組を見られた方には、その内容を振り返る、いい材料になるのかもしれません。
 反面、本書は何らかの結論を導き出しているものではありません。資本主義の行方、格差拡大の是正への対処など、インタビューの内容は概ね同じながら、各識者のアプローチはそれぞれであり、なかなか総括してまとめることは難しいのではないか。巻末のまとめを読みつつ、そんな印象を抱きました。

 各識者、それぞれの見識は非常に興味深いのですが、個人的に特に印象に残ったのは、第1章に登場するジョナサン・ハスケル氏(理論経済学者/英・インペリアル・カレッジ・ビジネススクール教授)による「無形資産」への見解。

 特許や著作権などの知的資産、ブランド力などの市場関連資産、人がもつ技術や能力などの人的資産などを総じて「無形資産」と呼びますが、氏はこの「無形資産」がICT(情報通信技術)革命と組み合わさったことが、より格差を拡大させたと論じています。

 氏は英国在中ですので、その事例として「ハリー・ポッター」シリーズを引き合いに、「無形資産」のもつインパクトを説明しています。氏によれば、「自身が同書の著者であったなら、その小説を世界中に売ることが出来る。しかし自身が車を売っているとしたら、何度も繰り返して1台の車を売り続けることはできない。」と。

 そう「無形資産」は再生産が可能であり、しかも再生産すれば、するほどその生産コストは限りなく低くなります。例えばGAFAに代表されるネット上でのプラットフォームの寡占状況。Apple社の製品を除けば、世界中の大半の人々は、そのサービスに直接対価を払ってはいません。
 無償でサービスを享受している人々に、新たなサービスを提供するのが非常に難易度が高いことは想像に難くありません。よって更なる寡占が進むと想定される一方、後発企業が、先発企業のいいとこどりをするスピルオーバーという現象も想定され、その行方は定かではありません。

 また「有形資産」とちがい「無形資産」は、その経済効果が捉えづらく、国家の経済施策の効果測定が困難になる点なども懸念されており、今後大いに議論の対象になっていきそうです。

 個人的に「無形資産」が台頭する厳しさを感じるのは、人的資産の分野。そこで求められるのは「才能」であり、例えばプロスポーツ選手などは、特に高い教育を受けずとも、高い報酬を得ることが可能となっています。
 格差是正、貧困からの脱却の第一歩の施策に教育があることは異論のないところかと思いますが、今後は一定の教育を受けたとしても、特段の「才能」がなければ、なかなかその成果を享受出来なくなることも懸念されるため、新たな施策を講じていかなければなりませんね。

 第1章だけを取り上げても、このボリュームの所感になるほど、様々な示唆を与えてくれた本書。他の章も本章に負けず劣らずの内容であり、現在の資本主義考察の最前線として、是非一読をお勧めしたい1冊でした。

                            東洋経済新報社 2021年9月30日発行