2021-12-26  Vol.445 725995AB-E29E-4003-A4C2-BA963AA0A146

【概要】

 2015年の国連サミットで採択されたSDGs(持続可能な開発目標)。これは国連に加盟している193国が、2030年までに達成すべく掲げた目標。17の大きな目標と、それを達成するための具体的な169のターゲットで構成されています。

 主たる内容は「貧困や飢餓の根絶」「気候変動への対策」「経済成長と生産的な完全雇用の確保」となっており、その解決に向けて期待されているのは、民間資金の投入です。

 そこで近年、話題に上がることが多くなったのが「インパクト投資」。「インパクト投資」とは、「リターン」と「リスク」という二つの軸で価値判断がされていた従来の投資に、「インパクト」という第三の軸を取り入れようとする考え方。ここでいう「インパクト」とは「事業や活動の結果として生じた、社会的、環境的な変化や効果」を指しています。

 本書は、インパクト投資の父と言われる、インパクト投資グローバル運営委員会(GSG)の会長、ロナルド・コーエン氏の手による1冊。
「インパクト投資」の概要や、事績、その将来性について記した1冊となっています。

【構成】

 全7章で構成された本書。「インパクト投資」の概要に始まり、起業家、投資家、大企業、慈善家、政府の視点から見た同投資について、1章ずつを充て解説しています。
 終章では、その未来について記し、我々一人一人が果たすべき役割について論じ、結んでいます。

【所感】

 エジプトから強制退去させられ、難民であったという著者。自らが様々な支援を得て、後にベンチャーキャピタリストとして成功を収めた経緯から、いつか社会に恩返しをしたい。そんな思いが彼を駆り立てていったようです。
 世界中で拡大する貧富の格差や、不平等を是正したい。そしてその有効な手立てとなるのが「インパクト投資」であると冒頭で語っています。

 貧困格差の是正含め、社会的課題の解決は、お金にならない。そういったものは政府や慈善家の寄付やボランティア活動で行うもの。そんな認識をもっている方も多いかもしれません。
 しかし社会的課題を解決しながら、ビジネスとしてきちんと採算が合う。場合によっては大きく成長する分野が少なくないことを、著者は説きます。
 例えばマイクロファイナンスで知られる「グラミン銀行」などは、その好例かもしれませんね。本書内でも、救急救命ドローンや、全盲者の視覚支援システム、給食支援などの事例が紹介されています。
 
 
世界的な認知も進み、投信資金もあつまりつつある「インパクト投資」ですが、著者は更なる取組が必要と説きます。
 本書では、とある科学者の言葉を引用し「人口の10%があることを真実だと固く信じれば、いずれ大半の人がその信念に従う」とし、その10%を超えるために下記提言をしています。
 
 投資家には年金基金などの規制を変更し、運用資金の一部を「インパクト投資」に回すこと。慈善家については、直接「助成」をするのでなく、一部の支援は「インパクト投資」を経由すること。起業家は10億円の企業価値をもちながら、10億人の生活を改善する「インパクト・ユニコーン」を目指すこと。大企業には期待出来ないとしつつも、従来の財務業績に加え「インパクト業績」を測定し目標設定することが転機になると説きます。最後に、政府には業務委託や対外援助の一部を成果に基づく契約に変更し、積極的に外部の投資を呼び込むことで政府支出の効率化を進めることを呼び掛けています。

 個人的には、この「インパクト投資」普及にはインパクトの成果を、どう数値表現するかが肝であるように感じました。一般の投資と比べ、社会的課題を解決するという足枷があるゆえ、その利回りはやや劣ることも考えられます。通常のリターンに加え、投資商品や投資先企業を評価する際に、このインパクト部分を合理的に算定し比較できるようにすること。また同投資については、優遇税制の適用なども不可欠ではないかと感じました。

 欧米に比し、まだまだ日本では認知度の低い「インパクト投資」ですが、社会的課題解決の有力な一手であることは間違いありません。特に富裕層やキャッシュリッチの企業には、是非積極投資を行い普及の先鞭をつけてほしいものですね。

                             日経BP 2021年12月15日 1版1刷