2022- 3-20  Vol.457 9ACD74CB-E111-4D4E-8AD5-94DD05105283

【概要】

 高い成長率が見込まれる未上場企業、いわゆるスタートアップなどに、初期段階から出資し株式を取得。将来の株式上場後に売却をし巨額のリターン獲得を目している投資会社(投資ファンド)がベンチャー・キャピタルです。

 米国には、およそ8000社、うちシリコンバレーだけで2500社を超えるベンチャー・キャピタルが存在すると言われており、その年間投資額は、3474億ドル(Pitchbook2021末データ)にも上ります。

 当然、世界第1位。2位は中国(1079億ドル)3位にはイギリス(376億ドル)と続きますが、その差は歴然としており、名だたるテック企業が、次から次へと米国で生まれる背景には、この巨額の投資資金があることは想像に難くありません。ちなみに日本の投資額は45億ドルで世界16位。GDP世界3位の日本のこの順位を、みなさんはどうお考えになりますでしょうか。

 さて、投資先の上場により巨額の売却益が期待できる一方で、そこまでの成長が出来る企業は限られており、期待した成長が出来ない、あるいは投資資金の回収すら出来ないケースも少なくありません。   
 玉石混交のスタートアップ企業の中から、いかに有望な先を見つけ出し、支援し、投資会社(ファンド)そのものの運用成績を上げるのか。その主役となるのが、ベンチャー・キャピタリストたち。

 彼らへの直接インタビューを通じ、あまり明かされることのなかった
ベンチャー・キャピタリストたちの実態に迫ったのが本書です。

【構成】

 全7章で構成された本書。1章~2章ではベンチャー・キャピタルの概要や、そのビジネスモデルを解説。3章~6章では、ざっくりした章立てをしつつ、
ベンチャー・キャピタリストたちへのインタビュー30本を掲載しています。終章の7章では、「不都合な真実」と称しベンチャー・キャピタルの負の側面にも触れ結んでいます。

【所感】

 ベンチャー・キャピタルとは黒子であり、自身の存在やその投資手法を明かすことは、ほとんどないと言われる中、専門分野や住んでいる国や地域も異なる、30名もの投資家たちへ直接インタビューを敢行した内容は、圧巻の一言につきます。
 中には、ピーター・ティール氏や孫正義氏と言った著名投資家も含まれており、繁忙を極める彼らへのアプローチには相当の苦労があったことが窺いしれます。

 ベンチャー・キャピタルそのものにあまり馴染みのない日本人は、
ベンチャー・キャピタルと聞くと、資金調達をしたい起業家が、頭を下げ投資をお願いする印象がありますが、実情はかなり異なるようです。
 多数のベンチャー・キャピタルが存在する米国では、有望な事業を営む起業家は、あっという間に資金を集めてしまいます。有望企業にいかに自社を選んでもらい、投資の機会を得るのか、起業家が頭を下げるどころか、ベンチャー・キャピタリスト自身が、起業家へプレゼンテーションをし自社を選んでもらう熾烈な競争があります。

 ゆえにいかに早い段階で、投資対象を発掘するかが重要であることは、もちろんのこと、投資後も、投資先のビジネスモデルを磨き、成功(上場)の確度を高める支援が不可欠です。
 また、天才的なセンスをもつカリスマ投資家が、起業家を見て投資を決めたなどという逸話が流れることがありますが、まったくそのようなことはなく、投資先に関する莫大な情報を集め、緻密な分析をしたうえで選定をしており、一個人の直感で投資をするなどというバカげた行為は(演出としてはあっても)断じて行われていません。

 華々しさを感じるベンチャー・キャピタルの世界ですが、実は投資効率はあまり良いものではなく、我々が自己資金を預けても、利回りとしてはさほど期待できないのではないかと著者は指摘をしています。巨額の売却益を得ることの出来るベンチャー・キャピタルは全体の1%程度。小さな上場企業をいくら生んだところで、
ベンチャー・キャピタルは、ビジネスとしては成り立ちません。

 ユニコーン(企業価値1000億円以上)、デカコーン(企業価値1兆円以上)となる企業に、どれだけ出資が出来ていたかが問われる極めてシビアな世界であり、また最近は孫正義氏の創設したソフトバンク・ビジョン・ファンドの様に莫大な資金調達をし、1社に巨額な投資を行うファンドも登場するなど、その様相も変わり始めているようです。

 本書内で、孫正義氏は「世界はいつも発明家(起業家)と資本家(投資家)の二つによって進化を遂げてきた」と語ったそうですが、さしづめ
ベンチャー・キャピタルは、現代の資本家の主役と言えるのかもしれません。迅速にリスクマネーを投下し、圧倒的スピードでイノベーションを促進させる。その様なダイナミズムのある国だけが、これからの世界をリードする企業を生み出していく。これからの日本にも、そのような風土が是非根付いてほしいですね。
 
                        ニューズピックス 2022年3月15日 第1刷発行