2022- 4-10  Vol.460E2FBFA8B-01A8-4087-8C52-05A789A4D1CB

【概要】

 全国で減少の一途をたどる書店。
公益社団法人 全国出版協会 出版科学研究所の調査によれば、2020年時の全国書店数は11024店。この20年間で、ほぼ半減しているそうです。
 特に減少著しいのは、個人経営が主体の、いわゆる「街の本屋さん」。最たる要因は、雑誌販売の低迷にあるそうです。書棚に限りがある小さな書店を支えてきたのは実は雑誌販売。
 しかしながら雑誌そのものの出版点数は減少し、コンビニエンスストアでも雑誌が販売されるようになりました。

 また一般の書籍においても、人々の読書離れが進んでおり、大型チェーンであっても、その経営実情の厳しさは否めないのかもしれません。

 さて本書の著者は、北海道砂川市にある「いわた書店」 https://iwatasyoten.webnode.jp/ 
店主の岩田徹さん。人口わずか2万人足らずの砂川市。ご多分に漏れず、いわた書店の業績も右肩下がり。2013年には閉店を考え、知人の弁護士のところへ。相談の上、あと1年だけ頑張ってみようと思った岩田さんに、ある奇跡が訪れます。

 2014年、
テレビ朝日の情報番組で同店が紹介されたのです。なぜ北海道の片田舎にある小さな書店が取り上げられたのか。それは岩田さんが2007年から、細々と続けてきた「一万円選書」というユニークな取り組みを紹介するためでした。
 ちなみに「一万円選書」とは、一万円前後の金額で、申込者のために、岩田さんが本をえ選び、送ってくれるというもの。  
 テレビに登場するや否や、全国から注目を浴び、わずか3日間で、555人もの応募があったそうです(ちなみに2007年~放映前までは、7年間で50人のみ)。
 その後も様々なメディアが取り上げ、いまや「一万円選書」は1年間にわずか7日間しか、新規の申し込み(しかも抽選)を受け付けないほどの人気となっています。

 本書は、そんな岩田さんが語った「一万円選書」や書店経営にかける思いをまとめた1冊です。

【構成】

 全3部で構成された本書。一万円選書の全容、ご自身の半生、書店の未来への思いに1章ずつが充てられています。

【所感】

 あぁなんて贅沢なサービスなんだろう。本書を読んで「一万円選書」について抱いた印象です。
だって一万円は書籍代込みなんですから。
 どうやって申込者にお勧めの本を決めているのか。それは申込者に書いてもらう「選書カルテ」から始まります。選書カルテには、次の様な設問が並ぶそうです。

 Q、これまで読まれた本で印象に残っている本ベスト20を教えてください。
 Q.最近気になった出来事・ニュースは何ですか?
 Q.何歳の時の自分が好きですか?
 Q.上手に年をとることができると思いますか? etc

 当然、年齢や家族構成、職業なども尋ねますが、何より重きを置くのは、申込者の人柄や価値観、心の内、人生設計を浮き彫りにするような設問を投げかけること。
 
 なるほど、例えばAmazonでも、過去の購買歴から「お勧めの本」を紹介してきますが、さすがに上記の様な質問を受けることはありませんよね。
 岩田さんは、それぞれの申込者の「選書カルテ」を丹念に読み込み、概ね10冊程度の本を選び、かつ選んだ本を全て連絡した上で、発送をするそうです。それは既に読んだことのある本や持っている本と重複させないため。そこまでしてくれるサービス、書籍に限らずとも、まずありませんよね。
 また申込が殺到しても、いたずらに受けることはないそうです。こと売上のことだけを考えたら、もったいない話ですが、自身がきちんと申込者に向き合って選書するためには、どうしても数は限られること、それでもお店が維持できるだけの収益があれば十分と意にも介しません。

 素晴らしいサービスですが、岩田さんが亡くなったり、選書が出来なくなったら、どうしてしまうんだろう?そんな疑問も浮かびますよね。
 実は、岩田さんは、自身が始めた「一万円選書」のノウハウを惜しげむなく、他の書店さんへ公開をしています。自身が書店経営に活路を見出した「一万円選書」で、経営が安定し1軒でも多く「街の本屋さん」が残ってくれれば、望外の喜びと語っており、頭の下がる思いです。

 書店のみならず、小売業全般が厳しい経営環境下にある中、ここまで顧客に向き合えれば、活路は開けるのかもしれない。そんな勇気をもらえる1冊でした。皆さまが関わっているお仕事の種類や内容を問わず、必ずや感じるところがあると思います。

                           竹書房 2022年2月25日初版第一刷発行