2022- 4-24  Vol.462DFF500FC-0E22-4237-B9AE-B9D28334F091

【概要】

 ペンシルバニア大学ウォートン校教授であり、組織心理学者であるアダム・グラント氏。本書は、「GIVE&TAKE」「ORIGINALS」に続く3作目。前2作とも日本語訳されており、好評を博しています。

 心理学の理論や原理を組織における人間の行動に応用しようとするのが著者の専攻する組織心理学ですが、本書で著者が取り上げるのは「メンタル・フレキシビリティ(思考柔軟性)」をもつ重要性。

 端的に言えば、自身がもつ信念や信条、知識や考え方を新たな観点から見つめ直す意識を持つということでしょうか。

 本書の意図を明確に記したのが、冒頭で紹介されるのは米国の森林火災の事例です。
15名の消防隊員のうち12名が亡くなるという悲惨な状況下で、あえて自身の行く手に火を放つという、一見常識外れの行動(実は理にかなったものだったのですが)をとることで生き延びた同消防隊隊長の話を通じ、既存の考え方に囚われることがいかに危険であるかを問いかけ、著者は我々を本書へと誘います。

 豊富な事例を紐解きながら、個人や組織が再考するメリットやその方法について考察をした本書。いくつかのユニークなキーワードも相まって、読み進めやすい体裁となっています。 

【構成】

 全4パート(部)11チャプター(章)で構成された本書。
パート1~パート3では、それぞれ「自身の考えを再考する方法」「相手に再考を促す方法」「学び再考し続ける社会や組織を創造する方法」を充てパート4で総括をしています。
 巻末には「再考スキル」を磨く30の秘訣を紹介する他、著者の日本語版全てを監訳してきた楠木建氏のあとがきも掲載されています。

【所感】

 本書の内容で、まず目を惹くのは、人の思考は「牧師」「検察官」「政治家」の3つのモードに切り替わるというもの。

 自身の信念がぐらついている時は「牧師」の思考モードとなり、理想を守り確固としたものにするために説教をする。他者の理論に矛盾を覚えれば「検察官」の思考モードとなり、相手の間違いを明らかにするために論拠を述べる。多くの人を味方につけたいときは「政治家」の思考モードになり、支持層の是認を行うためキャンペーンやロビー活動を行う。
 これらの思考モードには、いずれにおいても、人は「自身の見解が間違っているかもしれない」と再考をしない潜在的な危険性があるそうです。なるほど分かる気がしますね。

 そこで持つべきは「科学者」の思考モードだと著者は説きます。
科学者は、仮説、実験、結果、検証を通じ再考を繰り返します。なぜなら科学者の役目は自分の理解の限界を常に意識することが役割だから。
 
 また知性の高い人ほど、自身の獲得した知識や概念を大切にし、確固たる信念を形成しがちな点にも警鐘を鳴らします。
 人の思考には、自分が予測するものを見る「確証バイアス」と自分が見たいものを見る「望ましさバイアス」がかかっており、常に冷静な判断を下しているようにみえても、自身の感情を揺り動かすような事態に陥った時には、これらのバイアスが邪魔をし真実を見落としがちになると説きます。

 なるほど、自身の考えには何らかのフィルターがかかりがちだし、万事科学者の様に、常に疑問をもって物事に対峙しなさいということね。と考えてみたところで、それは非常に困難な行動であることは想像に難くありません。誰もが自身の信念や価値観を有するから、様々な判断が出来るのであり、それすら手放してしまえば、そもそもの思考のとっかかりすら失ってしまうようにも思えてしまいます。

 そこで我々が意識すべきは、いかに自身の思考がどのモードにあるのかということかもしれません。
 著者は、人の思考はループで循環していると言い、二つのサイクルを取り上げています。
 一つは「過信サイクル」と呼ばれるもので、自尊心→革新→確証バイアス&望ましさバイアス→是認を繰り返すもの、先ほど記した「牧師」「検察官」「政治家」思考モードが該当をします。
もう一つは「再考サイクル」と呼ばれるもので、謙虚さ→懐疑→好奇心→発見を繰り返すもので、先ほど記した「科学者」モードが該当をします。

 要は、自身の思考が、現在どのモードにあるのかを意識することなのかもしれません。特に
「牧師」「検察官」「政治家」思考モードでどのサイクルにいるのかを意識し、その立ち位置が内包する危険性を考え自身を「科学者」思考モードに切り替えれるか。そこに本書の要諦があるように感じました。

 自身のモードを意識し、再考を進めるための実践的な方法や、個人レベル、組織レベルで活かす方法などは、是非本書をご参照いただきたいと思いますが、個人的には「間違えたことや知らないことに出会ったときに、素直に受けとめ(正しい知識を得ることが出来たのだから)喜びに変えれるか」との問いが一番印象に残りました。

 この(知的)謙虚さこそが「再考」や「思考の柔軟性を維持する」ために一番必要な姿勢なのかもしれませんね。
 
                            三笠書房 2022年4月30日 第1刷発行