2022- 5- 8  Vol.464D5B96484-F28C-45E4-B7D4-3DE4B1159918

【概要】

 昨年夏ごろ、大きくニュースをにぎわせた、中国の大手不動産ディベロッパー、恒大集団。
 不動産バブル抑制を目した中国当局の介入で、同社は債務不履行の可能性が高いと懸念されたことが発端でした。

 一時同社の負債総額は33.4兆円(中国のGDPの2%)にものぼったと言われており、万が一破綻することがあれば、中国経済や世界経済へ及ぼす影響は甚大なものとなる・・・・・。
 ところが、破綻どころか、最近ではさほどニュースで報じられることもなくなっており、あの騒動は一体何だったのかと思われる方も多いのではないでしょうか。

 訳者の方も指摘をしていますが、中国経済を巡る議論は、たえずこの繰り返しという印象が強く、幾度となく様々な経済危機が叫ばれつつも、なんとなく収束し落ち着きを取り戻している感があります。
 果たして中国経済の実態は、本当のところはどうなっているのでしょうか。そんなテーマに迫ったのが本書。
 WSJ紙記者として、長らく中国経済を見てきた著者が、近年の中国経済変遷を5つのサイクルに分けて詳しく解説をしています。

【構成】

 全12章で構成された本書、第1章と第12章では2017年から始まったデレバレッジ(過剰債務圧)の取組を紹介した後、第2章、第3章では主たる、貸し手と借り手の実態に迫ります。
 第4章から第9章では、著者のいう5つのサイクルを時系列で紹介。第10章では、日本のバブル崩壊や韓国の通貨危機を引き合いにし、第11章では、はたして中国発の経済危機は起こりうるのかを考察しています。

【所感】

 著者の説く5つのサイクルとは、下記の通りです。毛沢東死去後、鄧小平の主導で始まった経済政策(市場経済への移行)から現在までの概ね40年間が、取り上げられています。

  第1のサイクル(1978年~1989年) 改革開放~天安門事件
  第2のサイクル(1992年~1997年) 南巡講話~アジア通貨危機
  第3のサイクル(1998年~2008年) 朱鎔基の改革~リーマンショック
  第4のサイクル(2008年~2017年) 4兆元の刺激策~サプライサイド改革
  第5のサイクル(2017年~)     新たなサイクルへ

 誰も予想していなかった経済開放への移行。1991年、ソ連崩壊に伴い、中国もまたその体制維持が困難かと思われながらも、その流れに巻き込まれることなく成長を続けます。
 アジア通貨危機の際は、国有企業の整理と銀行の資本増強を断行しWTOへ加盟。リーマンショック時には、4兆元の経済刺激策により、この危機を乗り切ります。

 そして現在取り組んでいるのは債務の圧縮。中央政府の債務はGDPの40%、地方政府の債務を加えると65%、さらに企業と家計の借金を加えると、260%にものぼり、米国と同レベルとなります。
 借金をてこに、設備投資と輸出がけん引する形で経済成長を実現してきた中国。成長の原動力であった債務の圧縮を図りながらも、引き続き経済成長は維持できるのか。多くの識者が着目しているところです。
 
 絶えず経済崩壊の懸念を指摘され続けてきた中国。しかしいまだどれも現実には起こっていません。
崩壊について論じるには、まだ時期尚早なのか。それともこれまでの通説を覆すほどの特殊性が中国にはあるのか。著者も結論は論じていませんが、下記の様な点への着目を促しています。

 中国はまだ大きな成長の伸び代があり、何よりまだ発展途上の国であること。政策オプションを二者択一に限定しない政府当局の独創性があること。一党独裁国家ならではのリソースをもち、その力を駆使し問題に対処をすることができること。

 中国経済には5つのサイクルがあったという独自の視点。各サイクルの特徴や、当局の対処など丹念に記された本書。中国経済の変遷を理解する上では、非常によく記された本書。

 著者は、中国経済を論じる上では、対外的に発せられる情報の透明性が低いとの問題は確かにあるが、何より見るものが感情的であることが、中国経済の正確で偏見のない評価を厳しくしているとの指摘をしています。
 特に日本では、メディアでもしばしば嫌中感をあらわにした報道がされることが多いように感じます。中国は特殊な国だからと、先入観をもつことなく、冷静に中国当局の行った経済政策などについて考察し学ぶことが、極めて肝要だと感じた次第です。
 
                         ダイヤモンド社 2022年3月29日 第1刷発行