2022- 5-22  Vol.466297F723A-8B70-464D-8B2F-0DA4C5339348

【概要】

 はたして「経済学」は、我々のビジネスの現場で役に立つのか。役に立たないとすれば、どうすれば役立てることが出来るようになるのか。そんなテーマに迫ったのが本書です。

 編者の今井氏を除けば、共同著者である5名の方々は、全員が大学で研究をする経済学者のみなさん。今井氏が代表を勤める企業を通じ、先端経済学をビジネス実装する取組を行っています。
 
「世の中には、自分が直面する課題が世界初」というものはまずなく、かなりの高確率で、過去に同じか類似した事例があり、先人たちが試行錯誤しています。
 学問とは、そんな過去の経験を整理し、理屈を体系化し、未来に使える道具を拵えたもの。
それを使わないのは、あまりにももったいないこと。そう今井氏は説きます。

 すでに海外では、Googleなど、多くの企業が経済学博士を積極的に採用しており、先端の叡智を自社のビジネスにどう生かすのか、貪欲に取り組んでいると言います。
 その貪欲さこそ、現在の日本企業に欠けているものであり、それが海外企業との成長の差となっているのではないかと指摘をしています。裏を返せば、まだそれだけ日本企業には、学ぶことによる伸びしろがあるということなのかもしれません。

【構成】

 全6章で構成された本書。第1章から第2章をパート1とし、経済学がなぜビジネスの現場で必要なのかを説いています。
 パート2となる第3章から第6章では、経済学初心者でも知っているだけで、ビジネスの結果を変えることができる4つのツールと銘打ち、各章へ1つずつを充て解説をしています。

【所感】

 さて先端の経済学を、ビジネスの場に取り込むには、どうすればよいのでしょうか。
 著者の一人は、「サイエンス」と「エンジニアリング」の両面からのアプローチが必要と説きます。
学校教育などの場では、経済学の仕組みや理論、経済データの扱い方などを学びますが、それは教科書上できれいに整理された「サイエンス」の領域。それをビジネスの現場に実装するために必要となるのは「エンジニアリング」の領域です。

 そのためには、日本でも少しずつ増えつつある「サイエンス」と「エンジニアリング」の両方を理解している経済学者を、ビジネスの現場で積極的に登用していくことが、経済学をビジネスの場で生かす第一歩だとしています。
 その際、大切なことは経済学者を先生として扱い、教えを乞うというスタンスをとるのではなく、パートナーとして、共に課題解決に取り組んでもらうこと。そのためにはむしろ企業側が、自社や自社の属する業界についての基礎知識を教えることが肝要であり、成果を上げるためには、最初に双方のコミュニケーションをしっかりとることに労を惜しんではいけないと説きます。

 では具体的に、どのような領域で経済学は生きるのか。本書では初歩知識として、「FSP-D」モデル。CRM(顧客関係管理)。会計とESG。会議の生産性などを取り上げています。
 
 ただ如何せん共同著作であるため、個々の著者が自身の専攻分野を紹介するものの、本書全体としての一貫性はあまり感じられず、また会計やESGに関する記述などは、正直一般常識のレベルの内容に留まっているものもあり、やや肩透かしの印象を受けました。

 また想定される企業の規模感、レベル感もよく分からず、経済学者をビジネスの現場にと言われ、その趣旨や効用は理解できても、本書を読む限りでは、その取り組みに腰を上げることは少々難しいように感じました。
 守秘義務もあり公開は難しいのかもしれませんが、実際に日本企業で行われている具体的な取り組み事例の紹介があれば、また違うのかもしれませんが。

「使える学問」が大切であるということ。先端の学識を貪欲に学ぶ姿勢が必要との提言には、まったく異論のないところですが、正直、内容にはタイトルほどのインパクトを感じることなく、期待値が高かっただけに、読後に残念な思いを抱いた一冊でした。

                         日経BP 2022年4月25日 第1版 第1刷発行