2022- 5-29  Vol.467AA1692B0-8699-4BE9-B80D-D1FE3EBD38A7

【概要】

 失敗とは恥ずべきものや恐れるべきものではでなく、もっと前向きに捉えるべきもの。失敗を積極的に生かすことが、創造力を高め、個人の成長や組織の発展を促していく。

 そんな内容の書籍「失敗学のすすめ」が上梓されたのは2000年11月でした。「失敗から学ぶ」という視点が当時は珍しく、著者である畑村洋太郎氏の名前が広く知られるとともに「失敗学」という言葉も広く認知されるようになりました。

 あれから20年。今の日本はどうでしょうか。失敗を前向きに捉え、新たなチャレンジを行い、創造性を発揮出来ているのでしょうか。残念ながら、前向きに捉える以前に、失敗を異常に忌避する傾向が増してはいないでしょうか。

 今や世界は大きく変わり、正解を外から探そうにも、なにが正解なのか分からない時代に突入しています。しかし畑村氏は「正解のない時代」なのではなく「正解がいくつもある時代」なのだと説きます。つまりそれは「自分なりの正解」を見つけ出すことが大切だということ。

 本書はそのために必要な思考法について考察をした1冊です。

【構成】

 全6章で構成された本書。主として前半3章は畑村氏が本書を書くきっかけとなった、いくつかのエピソードを紹介しながら、今の時代こそ果敢に挑戦をし、真摯に失敗から学ぶ姿勢が問われているにも関わらず、なかなかそのような人材が輩出されてこない要因を考察。後半3章では、「自分なりの正解」を見つけ出す具体的な思考法を紹介しています。

【所感】
 
「正解のない時代」いや「正解がいくつもある時代」ゆえ「自分なりの正解」を見つけ出す思考法を持たなければならない。  

 そのために必要なことは「自ら考えて実行し、その結果を検証すること」。いやいや「自分でなんでも考えていますよ」そんな声も聞こえてきそうですが、頭で考えることよりも、さらに大切なことは実行をすること。そこには様々な制約があり、予想もし得ない事態に陥ることは想像に難くありません。
 
 そう必ず失敗をするのです。しかし失敗をしたから、その結果を踏まえ、次の行動を起こします。また失敗。しかしその繰り返しで、そして少しずつ正解へと近づいていきます。 

「自ら考える」ために必要なことは、いかに筋の良い仮説を立てるか。筋の良い仮説を考えるためには3つのポイントがあると、畑村氏は説きます。

 ①価値について考える ②想定外について考える ③時間軸を入れて考える 

 仔細は是非本書をご参照いただきたいと思いますが、この解説のために、まるまる1章を充てており、いかに仮説の設定に重きを置いているかが、よく分かります。
 仮説を立て実行するなかで、失敗確率を下げる工夫や、メンターをもつメリットなどにも言及。また現場、現物、現人の「三現」を大切することも強調しています。

 またややもすれば批判を受けることの多い暗記を重視した詰込み型の日本の教育ですが、そもそも仮説を立てようにも一定量の知識の蓄積が自身の頭になければ、それもおぼつかないため、詰込み教育にも一定の利がある点に触れています。
 いまやなんでも検索できる時代ゆえ暗記への疑問を呈する声はありますが、設問と正解を覚える暗記ではなく、より良い思考のためにはインプットを増やしておくことが重要と考えれば、納得ですね。

 本書の中では、例えば福島原発汚染処理水の対応など、誰かに頼まれたわけでもなく、畑村氏が勝手に考察した事案がいくつか紹介されており、強く印象に残りました。
自身で関心をもったことに、自ら仮説を立て、思考することすら楽しもうとするその姿勢は、大いに見習いたいところですね。

                            講談社 2022年5月16日 第一刷発行