2022- 6-19  Vol.4706FDAAFAF-9C12-467C-8EAA-B5A5B6162228

【概要】

 サイクロン掃除機、羽のない扇風機など、独創的な家電で知られるダイソン社。革新的な技術、ユニークなデザインも相まって、世界中で高い評価を受けており、日本国内でもCMや家電量販店、通販などで、同社の製品をご存知の方も多いのではないでしょうか。

 本書は、同社の創業者にして、いまだ現役のチーフデザイナーであるジェームズ・ダイソン氏が、自身の半生と自らが生み出した様々な技術や製品について語った一冊。

 75歳となった今も、モノづくりへの情熱さめやらないダイソン氏が、自身の思いの丈を余すところなく記した1冊となっています。  

【構成】

 全12章で構成された本書。前半では、第1章の少年期から始まり、同社の名を一躍有名にしたサイクロン掃除機の製造販売に成功する頃までが記され、後半の第7章からは、サイクロン掃除機以降、同社が生み出した様々な製品について記している他、電気自動車、農業、教育といった同社の新たな展開も紹介されています。

【所感】

 400ページを超えるボリューム。章立てのみで節がないので、余白もなく、みっちりと内容が詰まった印象を受けます。
 根っからのエンジニアなんでしょうね。自身の発明や製品について、用いている技術などを仔細に記す他、
写真以外も図面やコンセプト画も多数掲載しており、自身が生み出した製品への熱い思いを感じます。

「サイクロン掃除機」といえば同社の代名詞とも言える製品ですが、十分な開発力がありながら名だたる著名な家電メーカーが手掛けなかったのは、技術的な難しさもさることながら、当時(現在も)主流であった(ゴミフィルター)紙パック式掃除機の存在。
 家電メーカー自らが、紙パックという消耗品を通じ、製品販売後も収益のあがるビジネスモデルを手放すことはなく、そこに勝機を見出したダイソン氏の挑戦が、本書における最大の読みどころと言えるかもしれません。

 ダイソンという企業が設立され、同社の製品が世に出るのは、1993年ですが、サイクロン掃除機の技術自体は1980年代には誕生しており、当初はライセンス供与による収益化を目していたこと。
 当時、日本のエイペックスという商社が、日本国内でライセンス生産し販売。25万円という高価格ながら、人気を博したこと。また自身がモノづくり起業家であることから、本田宗一郎氏や、井深大氏へのリスペクトを記した箇所もあり、ダイソン氏と日本との少なからぬ縁を感じます。
 
 個人的に、他に印象深かったのは、製造業を軽視するイギリスという国へのダイソン氏の憤りでしょうか。画期的な製品を生み出してきたダイソン社ですが、それでも日の目を見るまでに、資金調達では相当苦労を重ねており、投資家や銀行の製造業に対する理解や期待度の低さを嘆く場面もあります。
 かつて産業革命を起こし、世界を大きく変えたイギリスで、製造業が衰退し、創造的な製品が生み出せれなくなっていく様子を憂いてもいます。

 それが後に、自ら大学を構え、創造性に富んだ起業家の育成へと、活動の幅を広げていくことになります。「製造業こそが、その国を支える。」そんなダイソン氏の信念を見る思いでした。
 とはいえ、その思いはそう悲壮感漂うものではありません。モノづくりは、とても楽しくエキサイティングなもの。その楽しさを多くの人に知ってほしい。
 自身の経験を踏まえ、彼が一番伝えたかったのは、そのあたりにあるように思います。彼が失敗を重ねながらも、喜々として発明に取り組み様子が、目に浮かぶような、そんな1冊でした。


                             日経BP 2022年5月24日 1版1刷