9014F416-3038-40C4-831A-EDD187FB082F2022- 7-24  Vol.475

【概要】
 
 日本ゴルフツアー機構公認によるゴルフトーナメントの一つである「三井住友VISA太平洋マスターズ」
 毎年11月に開催される、このトーナメントの舞台となるのが、太平洋クラブ御殿場コースです。同ゴルフ場を保有するのが、㈱太平洋クラブ。今はなき平和相互銀行の創業者である小宮山英蔵氏が、全国に27のゴルフ場を展開することを目して
1971年に設立しています。

 しかし金融債務負担の大きさに加え、法人客数の減少、客単価低下に耐え兼ね破綻。2012年11月に民事再生法の適用申請を行っています。しかし一般会員の反発もあり頓挫。改めて会社更生法の申請を行うこととなります。

 そこでスポンサーとなったのが、パチンコホール最大手企業である㈱マルハン。
「パチンコ屋ごときに、名門ゴルフ場の経営が出来るのか」揶揄する声も少なくない中、同社は再生を果たします。
 御殿場コース含め、18コースを有する同社。2013年㈱マルハン買収時は、年間来場者は約67万3000人。売上は約88億3000万円。2021年には、コース数は同じなまま、
年間来場者は約83万2000人。売上は約123億6000万円。2014年以降増収を続けています。

 本書は、そんな㈱太平洋クラブ再生の物語。
 「ゴルフに関する書籍は、名門ゴルフ場の紹介か、技術書でなければ売れない。」という通説がある中、あえて誰も書くことのなかった「ゴルフ場再生」にノンフィクションライター野地秩嘉氏がチャレンジした1冊です。
 
【構成】

 全8章で構成された本書。第1章で太平洋クラブの沿革と、㈱マルハンによる買収の経緯を記した以降は概ね時系列で、具体的な改革の内容が明かされています。
 コースの管理や運営、レストラン、ショップの改革、人材育成などに触れる他、現場のスタッフの声も多数掲載され臨場感あふれる内容となっています。

【所感】

 ㈱マルハンが太平洋クラブのスポンサーになるのに要した金額は287億円。
本業であるパチンコホールに投資をした方が、はるかに利益率は高いのに、なぜ同社は買収に踏み切ったのか。再生の先頭に立ったのは㈱マルハン創業者の2代目である韓俊氏。 
 本書でも、いくつか買収を決意した理由を記されていますが、彼には勝算がありました。
まずは資金を惜しまず、古い設備類の更新を行い、整理整頓清掃活動を徹底させていきます。従業員の待遇を改善するとともに、教育研修にも力を注ぎます。
 ㈱マルハンでも導入済であった「イズム」を制定。「イズム」とは、経営理念、ビジョン、社訓などから構成された、社員の行動規範となるものです。

 教育研修でも特に重視をしたのはキャディ。プレイヤーともっとも長い時間を過ごす彼女(彼)たちの技術や接客サービス向上を目し、優秀なキャディには転勤を命じます。それは特定のコースのみならず、全コースのキャディのレベル向上を図るため。キャディの転勤など、一般のゴルフ場運営では考えらないことだそうです。

 一方で、太平洋クラブ全体の価値上昇のため、年会費制を導入。余計なコストを嫌い、離反した会員も少なくありませんが、韓氏は意に介しません。
 まずはきちんと収支を合わせ、経営を安定化させる。その上でクラブ全体のブランド価値を高めていくことが、会員の満足に寄与すると確信。プロトーナメントツアーを誘致する他、海外のコースと提携や相互利用を図りステイタスを高めていきます。
 
 思えば、韓氏の考えは非常にシンプルなのかもしれません。太平洋クラブは高級クラブを目す。客単価をあげるも、回転率は抑え、設備や人材に過度の負荷をかけない。結果余計なコストは下がり、その原資で、更に顧客サービスの向上を図る。ステイタスが上がれば、優良顧客を呼び込み、それが更なる好循環を生み出していく・・・・・。

 本書で紹介される再生の物語は、あらゆる企業再生の場にも通じるのではないでしょうか。
破綻企業であれば、ブランド価値は失墜し、社員も自信を喪失しています。大半の企業は資金繰りに窮していますから、再生したいと思ったところで原資もありません。
 そこに大胆に資金を投入できるか。これは相当胆力がいりますし、ボランティア活動ではありませんから、再生後の勝算が見えなくてはなりません。そしてその要となるのは人材。惜しみない人材投資を行い、薄利多売なビジネスモデルからは決別をする。それこそが企業再生の要諦ではないか。そんな印象を抱きました。

 コースや施設のカラー写真に加え、ゴルフ場やゴルフプレーに関する細かな雑学も多数記された本書。カテゴリーはビジネス書ですが、ゴルファーの方には、より楽しめる内容となっているのではないでしょうか。


                         プレジデント社 2022年7月16日 第1刷発行