2022- 9-18  Vol.483 B1D0FAA9-32FB-44D9-A81B-75BF2E6EC9F9

【概要】

 ニトリHD(ホームファニシング)、ツルハHD(ドラッグストア)、アークス(スーパーマーケット)、イオン北海道(総合スーパー)、DCMHD(ホームセンター)、コープさっぽろ(生協)、アインHD(調剤薬局)。
 2020年度国内小売業売上高100位以内に入った北海道発小売チェーンは7社にものぼります。
 ファーストリテイリングやヤマダHDなど、地方発の全国チェーンは珍しくありませんが、これだけの数が並列する地域は全国に類を見ません。

 またこれらのチェーンストアに加え、セブンイレブンすら勝てないと言われるコンビニエンスストア「セイコーマート」を展開するセコマという企業も道内にはあります。

 北海道の総面積は83424平方キロ、人口は522万4614人(2020年国勢調査)、九州と比較した場合、面積は約1.8倍ですが、人口は約4割に留まります。都市間の距離は離れ、間には人の住まない地域も多いため、店舗展開、物流こはコストや手間がかかります。また雇用者報酬も相対的に低いため、消費者の購買力も決して高いものではありませんでした。
 
 そんな決して経営環境には恵まれているとはいえない、この地で、なぜこれほどの小売チェーンが誕生し、発展してきたのか。
 その理由を明かそうというのが本書の目的。長らく北海道新聞の経済記者を務めた著者が記しています。

【構成】

 全6章で構成された本書。1997年北海道拓殖銀行破綻。地域経済への多大な影響が懸念される中、それに反するかのように「北海道現象」と呼ばれた北海道発小売チェーンの台頭が始まります。
 第1章でこの「北海道現象」に触れた後、以降の章では、概ね2社程度を順に取り上げながら、その発展の様子を記しています。最終章では、北海道小売業の未来に触れ総括しています。

【所感】

 新書ながら350ページを超えるボリュームですが、豊富なエピソードに飽きることがありません。
 1997年、北海道拓殖銀行の破綻。2001年、北海道開発庁の廃止。長らく北海道経済を支えた2つのパトロンが消滅し、北海道経済はどうなってしまうのか懸念したという著者。

 拓銀や公共事業への依存度が高かった老舗企業が破綻する一方で、ニトリ、ツルハ、ラルズ(現アークス)、マイカル北海道(イオン北海道)、ホーマック(現DCMHD)といった企業の台頭が始まります。

 共通するのは、経営コンサルタント渥美俊一の提唱した「チェーンストア理論」の徹底した実践。
 商品の販売回転日数と仕入先への支払勘定支払回転日数差を利用した「回転差資金」の活用により銀行融資に頼らない資金調達を図る。多店舗展開による販売ボリューム増により、メーカーへの交渉力を高める。主事業への集中と徹底した商品管理を図る。

 基本原則を守り通す一方で、北海道固有の現象が起こっている点も興味深いところでした。
 本州からの距離。また道内の広大さもあり、多くの協力業者を傘下に抱えることが難しいため、物流や商品開発など、自ずと自社グループ内に抱える事業が多いこと。
 結果として、自社開発製品を道外へ販売していくことで、事業を拡大していく企業がある一方。スーパーマーケットなど道内に基盤を置かざるを得ない業態では、寡占化が進み主要3社で、市場の8割を占めているそうです。
 これら総じた特徴に加え、個社ごとの戦略が合いまって「北海道モデル」とでもいうべき事業モデルが構築されています。
 
 これは北海道という地域ゆえの成功事例。そう読まれる方も多いかもしれませんが、果たしてそうでしょうか。少子高齢化と過疎化は、日本全国で進展し、「買物難民」などという言葉も生まれています。
 広大な面積に比し、各地域人口の少ない北海道では、以前からこの問題に直面しており、本書で紹介されている企業も、過疎地でも成り立つ出店形態や、独自の物流網を使った宅配の仕組みなどを構築しています。
 特に昨今のコロナウィルス感染症による外出自粛下では、結果、宅配モデルの有益性を知らしめることとなっており、先行する北海道企業から、学ぶ点は多いのかもしれませんね.

  ニトリHDやセコマなどは、経済誌や経済ニュースなどで目にし、その出自が北海道にあることは、よく知られるところと思いますが、あまり知られることのない、それ以外の「北海道企業」や、そもそもの「北海道経済」につき、広く教示してくれる本書。新書価格ということもありますが、満足度の高い1冊でした。

                             講談社 2022年8月17日 第1刷発行