2022-11-27  Vol.4936149D896-8552-4F84-B583-164057460EAB

【概要】

 国税庁が毎年発表する「民間給与実態統計調査」によれば、2021年の給与所得者の平均年収が443万円で、平均年齢は46.9歳だったそうです。年収443万円を、大胆にもタイトルにしたのが本書。
 ちなみに、同年収は正社員では508万円、正社員以外は198万円となるそうです。
 また先ほどの平均年齢
46.9歳というのは、ちょうど就職氷河期世代と重なるそうです。

 本書著者の小林美希さんも、そんな就職氷河期世代。自身も大変な苦労の上、やっとの思いで業界紙の「株式新聞」社へ入社。その後、毎日新聞社に契約社員として転じ、経済誌「エコノミスト」の編集部記者を経て、フリージャーナリストとなった経歴をお持ちです。
 
 本書は、そんな彼女が、平均年収前後の人々、11名のインタビューを通じ、我々は今、どんな社会に生き、これから何を問い直さなければいけないかを考察した1冊です。

【構成】

 全3部で構成された本書。第1部では、平均年収の方6名、第2部では、平均年収以下の方5名へのインタビューを掲載。第3部では、この30年間を振り返りつつ、総括をしています。

【所感】

 本書、帯にあるような、生々しい言葉が多数、掲載されています。
 登場する11名の方の年収は、120万円(41歳・シングルマザー)~670万円(42歳・看護師)。世帯年収では、1,000万円を超える方もいらっしゃいますが、総じてその生活は慎ましく、将来に関し大きな不安を抱いていることは、共通しています。
 職業は介護系、看護系、保育系の方が多いようですが、大学講師の方もみえ、高学歴ながら低収入に喘ぐ様子が印象的でした。
 
 経済誌記者だった著者は、20年ほど前、企業の決算報告の取材に行く度に、どの経営者もこぞって「今後は非正社員を増やし人件費を抑制し利益確保します。」と発言するのを聞き、非常に違和感を覚えたと言います。
 取材を通じ、知り合った伊藤忠商事の社長(当時)丹羽宇一郎さんに、その思いを伝えます。
 丹羽氏は「(非正規雇用が増え)中間層が崩壊すれば、日本は沈没する」と話をしてくれ、2005年1月4日号の「エコノミスト」誌でも、同意見を発しており、当時そのような危機感をもつ経営者は、丹羽宇一郎さんだけだったと、振り返っています。
 今や、その危機感は現実となり、所得格差の拡大は進行し、日本は今や「貧しい国」へ成り下がってしまいました。

 著者はその要因を、雇用機会均等法の成立はあったものの、長らく女性の社会進出が阻害されてきたこと、労働者派遣法の快定に始まった非正規雇用の増加にあったと指摘。
 その対策とし、就職氷河期世代のリスキリングや、生活コストの低い地方での雇用拡大(富山県の取り組みを紹介)。高付加価値なものづくりへのシフトなどを掲げてはいますが、記しているご本人も、やや懐疑的な思いを抱いており、もはや失望感しか抱いていない印象が残りました。

 政府も企業に対する度重なる賃上げ要請や、優遇税制も整備を実施しつつも、昨今の諸物価高騰で、今後の企業経営の見通しも厳しい中、応じたくとも、なかなか踏み切れないという経営者の方も少なくないのでは、ないでしょうか。
(賃金を)上げたくても上げるだけの利益が確保出来ない。(賃金が)上がらないから、消費も伸びず、企業利益も増えない。そんな悪循環を延々繰り返しているのが、現在の日本ではないでしょうか。

 大変、売れているという本書ですが、これを読んで「自分の生活はまだ大丈夫、恵まれている。」と感じるのか、「自分も同じ、苦しい」と大きく共感するのか、定かではありませんが、更なる節約志向に向かうことなく、どう収入を増やすのか、という前向きなマインドを抱いてくれる方が増えることを願うばかりです。
  
                            講談社 2022年11月20日 第1刷発行