2022-12- 4  Vol.49473D22AD0-1C0B-45AB-A7E6-C0DF875CF699

【概要】

 経済学と心理学が融合した経済学である「行動経済学」。2002年にダニエル・カールマン氏のノーベル経済学賞受賞で、にわかに脚光を集め、すでに同分野では、3名ものノーベル経済学賞受賞者が誕生しています。

 従来の経済学では、全ての人や企業や政府は、完全に合理的であるという前提が置かれていたのに対し、行動経済学は、感情や気分で判断や意思決定を行い、様々な情報に左右される人々が、どのような経済行動を起こし、結果社会へどのような影響を及ぼすのかを探求する学問領域であり、関連する書籍も多く出版されています。
 
 本書も同じ類の書籍ですが、今回、本書を紹介させていただいた理由は、新書で手に取りやすいこと、日常の身近な事例をテーマにしつつ、コンパクトに整理され親しみやすかったことにあります。
 帯に「軽座学は役に立つ!」とあるように、いかに普通の人々に経済学に馴染んでもらい、その有効性を知ってもらうか。そんな著者の工夫と思いが詰まった1冊となっています。


【構成】

 全6章で構成されています、第1章で、これまでもよく知られた、日常の事例を取り上げた後、コロナウィルス感染症対策やテレワークの進展、最低賃金や雇用の多様性など、以降の章では、旬の話題を織り交ぜながら展開しています。

【所感】

 概要でも記しましたが、著者が本書で、もっとも伝えたいことは「経済学は役に立つ」ということ。
日常生活でも使える有益な学問領域なのに、なかなかそれが理解されない理由として、世間の常識と経済学の常識との間にある5つのギャップを挙げています。

 ①経済学の常識が直感的理解と異なる 
 ②経済学の常識が従来と変わっていることが知られていない 
 ③経済学の常識が世間に十分に理解されていない 
 ④経済学の常識であることが、世間では経済学の研究対象と思われていない 
 ⑤経済学は冷徹な人間を前提にしていると世間で思われている

 著者は、このギャップを埋め、経済学の常識が世間に広がることで、社会は、よりよくなる可能性が
高いこと。経済学と言えば、とかく金銭に関わることと一般的には思われがちですが、意外と使える領域は広く、一見場違いに思える、健康、医療、教育といった分野でも、経済学の知見が生きる分野は多いことを強調。本書内でも実例を挙げながら、解説を行っています。

 個人的に印象に残ったのは「ナッジ」という考え方。これは、我々の意思決定に予測可能な形で合理的なものからの「ズレ」が存在するなら、その「ズレ」を逆に利用し、適切な意思決定を促そうとするもの。
 何事も先延ばしにする傾向がある人なら、先延ばしにすることが面倒にする「ナッジ」を考えればよいとしており、先延ばし出来ないように、将来の行動に制約をつけてしまったり、将来の楽しみを現在の楽しみに変換すること等を提唱しています。
 この先延ばし事例の様に、合理的な意思決定の方法からのずれを行動経済学の世界では「バイアス」と呼ぶそうで、本書でも代表的なバイアスが、いくつか紹介されています。

 何か迷った際には、自身は(一般の人は)こんな傾向があるのかと、このバイアス例を思い出すだけでも、かなり納得感、満足感の高い意思決定が出来そうで、「(確かに案外)経済学は役に立つなぁ」と実感する方が増えることが、著者の言うギャップを埋めることに繋がりそうです。

                             中央公論新社 2022年11月25日発行