2022-12-18  Vol.49677227F59-1218-4C6A-9BC5-BF4BAAC3F732

【概要】

 昨今の諸物価高騰はあるにせよ、総じて物価は安く、給料も安い日本。気づけば日本の平均給与は、シンガポールや韓国などアジアの国にも追い抜かれています。

 それでも日本はいまだGDPで世界第三位の経済大国であり、貧困問題、格差問題など諸課題はあれど、国民の暴動どころか政権交代すら起こりません。低成長、ゼロ成長でも、文句も言わずまじめに働く日本人。

 そんな日本を支えてきたのが、100均に代表される激安ショップの数々。たとえ給与は上がらなくとも、生活は困らない。世界を見渡しても、こんな稀有な経済の形はありません。これを「100均資本主義」と銘打ち、その考察を試みたのが本書です。

【構成】

 全5章で構成された本書。第1章では100均ショップのビジネスモデルを詳しく解説。第2章では、コロナウィルス感染症の流行が、我々の生活様式を大きく変え、さらに100均ショップの躍進を促した点を指摘。第3章以降は「100均資本主義」の定義を試み、今後の日本の行方や、我々の生活の在り方を考察し、取りまとめています。

【所感】

 立教大学経済学部教授にして前総長である著者が、本書執筆に至った経緯は、低成長ながら生活水準が維持出来ている現在の日本に対するモヤモヤとした気分だったそうです。
 著者のみならず、日本全体を覆っているかのように見える、このモヤモヤ感の正体を明らかにしなければ、今後の日本経済を再生する処方箋は描けないとしています。

 日本はデフレ経済であり、その脱却を政策目標とし、過去の経済学の教科書に倣い「〇〇〇ミクス」「〇〇〇資本主義」なる施策を実施してきましたが、その効果は限定的でした。
 今や日本は、従来の経済学では説明の出来ないモデル(不況なのに人手不足それでも株価は高いなど)に突入しており、著者はそれを「Dのない社会」と称しています。

「D」とは「Dream(夢)」「Desire(欲望)」「Demand(需要)」を合わせたものであり、別の見方をすれば、それは「物欲が減少した社会=縮小再生産化した社会=縮小均衡社会」「100均資本主義」とは、まさにこの「Dのない社会」が生み出した新たな経済概念と言えるのではないでしょうか。
 
 従来の経済価値の尺度で見れば、「Dのない社会」でる日本は、更なる停滞を余儀なくされ、社会が衰退する暗いイメージしか描けないかもしれません。
 しかし
決してそのようなことはなく、新しい価値観の創造を通じ、物欲から解放された人間性豊かな社会が実現するのではないかと著者は推測しています。事実、100均ショップの台頭を通じ、給与が増えなくとも、日常を楽しく快適に過ごす術を実感していますよね。
 
 より創造力を発揮し、これまでの延長戦上にはない新たな価値観を形成がされるために、必要なキーワードは「納得解」と「自己肯定感」。
 我々が何か、新たな課題に直面した際に他者に解を委ねるのではなく、自分自身で考え答えを出すこと。他者の考えを尊重し、他者と自身を比較しない寛容さをもつことで、自己肯定感は高まるとしています。
 100均を引き合い新たな経済の台頭を解説しつつ、著者が真に伝えたかったのは、我々一人一人が
「納得解」「自己肯定感」を抱ける社会であってほしいということ。創造力を掻き立てて行動してほしいとの思いなのでしょうね。失われた30年下において100均という新たなビジネスモデルが生まれたように。

                         プレジデント社 2022年12月1日 第1刷発行