2023- 1- 1  Vol.4989F302D8D-CBFB-4093-B7C1-16BE3751223C

 新年あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。2023年はこんな一冊からスタートです。

【概要】

 本書タイトルにある「流山」とは千葉県流山市。県北西部に位置し、茨城県や埼玉県に近い同市は、道路や鉄道整備が遅れ、かつては「千葉のチベット」と呼ばれた地域。

 2005年、つくばエキスプレス(TX)が開業し、同市内に複数の駅が設置されたことが同市の転機となります。TX開業時、約15万人程度だった人口は、2021年には20万人を超え、22年には20万人6000人を突破。2016年に総務省が発表した人口同動態調査で、人口増加率が全国の市でトップに躍り出た後、以降6年間に渡りトップの座を守ります。

 少子高齢化が進展し、大半の市町村で人口減少が続く中、人口流入が続く流山市。都心へのアクセスの良さもありますが、何より着目を浴びたのは、「母になるなら流山市。父になるなら流山市。」とのキャッチコピーに代表される「子育て中の共働き世代」への支援策でした。
 本書は、そんな支援策を含め、近年大いに注目を集めた同市の魅力や秘密に迫った一冊。著者は同市に30年在住する経済ジャーナリスト、大西康之氏です。
 
【構成】

 全10章で構成されています。第1章で、同市施策の代名詞とでもいうべき「送迎保育ステーション」について記した後、第2章では、現市長である井崎義治氏にスポットを当てるなど、全10章のうち、半分以上の章で、個人名が章のタイトルに付されており、人にスポットを当てた編集となっています。

【所感】

 所定の時間までに駅前にある送迎保育ステーションに子供を送り届ければ、市内のどの保育所でも送迎をしてくれ、流山市民なら利用料は1日100円。1ケ月の上限は2000円。17時までに送迎保育ステーションに戻ってきた園児たちを、親たちは18時までに迎えに行けばよく、難しければ20時までの延長も可。そんな送迎保育ステーションのある駅から、東京は秋葉原まで、快速で20分程度。それなら都心で働く、子育て世代の方なら、みな関心を持ちますよね。
 そんな同市の概要は、同市のサイトに詳しいので、そちらをご覧いただきたいと思いますが ttps://www.city.nagareyama.chiba.jp/appeal/1003866.html  
 前述した子育て支援以外にも「都心から一番近い森のまち」を標榜する他、市民の積極的な行政への関与を歓迎するなど、独自の取り組みがよく分かります。

 同市を大きく変えるきっかけとなったのが、現市長である
井崎義治氏の存在。米国で都市計画コンサルタントとして働くも、奥様の希望で帰国。流山市でマンションを購入したことをきっかけに移住。同市に乞われ、同市開発へ助言をするなか、いつしか自身が市長へ。市内のマンション住まいゆえ「仮市民」と揶揄され、現職の厚い壁に阻まれるも、3度目の挑戦をした2003年に当選。

 早速、流山市をSWOT分析を行い、まずは同市の知名度向上を上げることに専念。2004年には「マーケティング課」を設立。民間の方を課長に迎えるなど、市民参画の先鞭をつけます。民間出身で、海外での居住経験もある
井崎氏ゆえ、先入観に囚われない市政が功を奏してきたように思います。

 著者は本書を通じ、流山市の施策そのものよりも、意図的に施策に関わった人にスポットを当てようとしているように感じます。それは流山市の成功は「元々都心に近く、鉄道整備があったから」というインフラ整備のみにあるのではなく、あくまで施策に関わった多くの人がいたからと考えているからではないでしょうか。
 同市の施策の一部は、実はどんな市町村でも取り組めるものであり、要は「やるかやらないか」だけの違い。流山市を変えたのは「やりたい人」たちが集まったこと。やりたいことを許容する状況が整えられていったから。
 市政は面白いと感じ、関わってみたいと思う人や地域が増えることで、流山市の様な事例はもっと増え、社会はよりよくなる筈。そんな著者の思いを感じた一冊でした。

 
                               新潮社 2022年12月20日 発行