FC349726-73DD-4D54-B03E-B9B271D70FFF2023- 1-22  Vol.501

【概要】

 19世紀の社会学者、カール・マルクスの主著として知られる「資本論」 書籍の名称は知っていても、原著は難解であり、実際に読んだという経験をお持ちの方は、決して多くはないことと思います。

 実は
ここ数年、この「資本論」が、再注目されています。

 コロナウィルス感染症で露わになった社会格差の深刻さ。賃金の上がらぬ状況下で、高騰する一方の諸物価。21世紀もはや四半世紀を過ぎながら、我々の生活は豊かになるどころか、逆に苦しくなっているようにすら感じます。

 我々に、自由と豊かさを与えてくれるはずだった「資本主義」。どうもその雲行きが怪しくなるなか、かつてその矛盾を指摘した「資本論」やカール・マルクスを好意的に受け止める、若い世代が世界的に増えていることが、その背景にはあるようです。

 ソ連や東欧諸国など社会主義国の崩壊もあり、カール・マルクスの思想は、もはや時代遅れとの印象もありますが、彼が描いた社会ビジョンから学べることは、現代にあっても決して少なくないと著者は説きます。とはいえ全3巻から構成される「資本論」を読み解くのは非常に困難。そこで前知識がなくても読める入門書を目し記されたのが本書。「資本論」の解釈に新たな視点を持ち込んだとされる経済思想家、斎藤の手によります。

【構成】

 全6章で構成されています。
第1章から第4章は、「商品」「労働力」といった「資本論」の基礎部分を分かり易く解説。第5章から第6章では、コミュニズム(共産主義)へと深く踏み込み、
カール・マルクスが思い描いた未来社会について考察しています。

【所感】

 本書には底本があります。それは2021年1月にNHKで放送された「100分 de 名著 カール。マルクス『資本論』」同書に5章以降を加筆したのが本書です。

 かつては誰もがアクセスできるコモン(共有財産)であった「富(自然資源など)」が資本によって独占され、貨幣を介した交換の対象、すなわち「商品」になってしまう。
 例えば地域の人が利用していた水飲み場が、突然立ち入り禁止となり、我々がスーパーなどで、ペットボトルの水を買わざるを得ない状況となるのが「商品化」、お金があるなら何でも買えるが、お金がなければ何も買えない。なぜ資本主義は、人にそんな不合理を強いるのか?
 第1章冒頭では「商品」をこのようにかみ砕いて解説をしており、十分な掴みとなっています。
また第2章の「労働」では、「労働」と「労働力」の違いを紐解きつつ、長時間労働が蔓延する仕組みに言及。

 個人的に一番印象に残ったのは、イノベーションについて触れた第3章でした。
人の労働のプロセスは「構想」と「実行」の2つの要素から構成されるそうです。
「構想」とは、ある課題を解決するために知恵を絞っている状態であり、「実行」とはその課題解決のために実際に行動を起こしている状態。マルクスは「構想」を「精神的労働」。「実行」を「に期待的労働」とし、人間の労働はこの両者が統一されたものと定義をしています。

 しかし生産性向上のため、資本家は、分業を進め「構想」と「実行」を分割しようとします。
個々の労働者から「構想」を排し、単純労働へ特化させることで、作業の無駄を無くし管理も容易くなります。しかし「構想」を奪われた労働者は限りなく「無力化」していきます。

 なるほど、人が働くモチベーションを失うメカニズムは、こういうことかと大いに納得した次第です。全編通じ、このような著者の巧みな解説で、非常に腹落ちをした本書。
  入門書ですので、かなり簡略化、意訳されている点も多いことかと思いますが、「資本論」につき本書程度の基礎知識を皆がもつことは、我々がこれからの社会を考える上で極めて有益ではないか。そんな思いを抱いた1冊でした。
 
                            NHK出版 2023年1月10日 第1刷発行