2023- 3-12 Vol.508
【概要】
ONE(Ocean Network Express) https://www.one-line.com/ja
という名称を、お聞きになったことはありますでしょうか。

【概要】
ONE(Ocean Network Express) https://www.one-line.com/ja
という名称を、お聞きになったことはありますでしょうか。
シンガポールに本拠地を置くコンテナ海運会社の社名で、実は日本企業です。同社の名前が多少知られるようになったのは、その業績にあります。
2021年度の売上高300億9840万ドル、税引後利益 167億5600万ドル。2022年度は、売上減少の見通しながら、前期と同程度の利益確保の見込みとなっています。
コロナウィルス感染症の影響から、世界的な巣ごもり需要増もあり運賃の高騰化という特殊事情があったにせよ。設立からわずか5年で叩き出した、この利益は驚愕に値します。
2009年のリーマンショック以降、世界の海運業界は、供給過剰と運賃低迷に喘いでおり、海運不況が続いています。それは我が国においても同じこと。
そこで日本を代表する海運会社3社、川崎汽船、商船三井、日本郵船が自社のコンテナ船事業を切り出し、コンテナ船事業の統合会社設立に踏み切ります。それが本書の主役である ONE(Ocean Network Express) 。
巨額のインフラ投資を必要としながらも、業績の安定に乏しく、赤字を垂れ流すコンテナ船事業は、3社にとって、もはや本体の屋台骨を揺るがしかねない頭の痛い存在に過ぎず、半ば各社から切り離される方向で誕生したのが同社。
大いなる期待を込めてというよりも、やむなく誕生したというのが現実かもしれません。そんな同社が目を見張るような業績を上げたのは、前述の通りですから、まさに本書帯にある「痛快」の極み。
本書は、そんな同社の奮闘を追った1冊。同社の様子のみならず、世界の海運事情や、コンテナ船事業モデルなども丹念に解説されています。
【構成】
全5章で構成されています。第1章~第2章は世界の海運事情に触れ、第3章以降で、ONE(Ocean Network Express) の設立から現在までが記されています。
【所感】
不採算事業の統合ゆえ ONE(Ocean Network Express)も、先行きを危ぶむ声が多かったそうです。半導体や液晶など日本における過去の事業統合には、ほとんど成功事例がないことが、その理由でした。
しかし ONE(Ocean Network Express)は、その危惧を覆そうとしています。
同社快進撃の背景にはいくつか要因があるようです。①政府や銀行主導ではなく、当事者自らが自身の意思で選んだ統合であり、危機感のレベルが違うこと。②当事者が当時事業の将来像をきちんと描き、共有をしていること。かつ統合に際しても例えば基幹システムも、3社で最も優れたものを活用するなど、ベストプラクティスを選択する柔軟性があること。③また若手の活用など現場への権限移譲を徹底的に進めていること。
なによりシンガポールに拠点を置いたことこそ、最大の快進撃要因ではないかとしています。
同国には、海運税制面のメリットがあり、人材、情報も豊富。そして海運業者が集積する都市であること。また単なる拠点でなく、本社を置くことによりシンガポール政府との関係強化に努めていることもあるようですが、何より大きいのは日本からの距離感。
あえて一定の距離を置くことで、親会社や日本の行政官庁からの影響を受けづらくし、スピード感をもって事業を運営できる点を指摘しています。また本書では、しばしば「出島の精神」という言葉が出てきます。これはかつて長崎にあった出島が、日本海運の原点にしてルーツであり。そこから日本の海運業が発展したように、ONE(Ocean Network Express)が、シンガポールを現代の「出島」になぞらえ、その精神を以って、事業に臨みたいということだそうです。そんな思いの強さも、同社躍進を支えているのかもしれませんね。
本件を、日本企業における事業再編の新たな成功例と呼ぶには、少々早すぎる気もしますが、とても興味深い事例であり、他業界でも同様の展開が考えられるものであれば、これからの日本の産業界の風景も随分と変わったものになるのかもしれませんね。
日経BP 2023年2月13日 第1版第1刷発行
2021年度の売上高300億9840万ドル、税引後利益 167億5600万ドル。2022年度は、売上減少の見通しながら、前期と同程度の利益確保の見込みとなっています。
コロナウィルス感染症の影響から、世界的な巣ごもり需要増もあり運賃の高騰化という特殊事情があったにせよ。設立からわずか5年で叩き出した、この利益は驚愕に値します。
2009年のリーマンショック以降、世界の海運業界は、供給過剰と運賃低迷に喘いでおり、海運不況が続いています。それは我が国においても同じこと。
そこで日本を代表する海運会社3社、川崎汽船、商船三井、日本郵船が自社のコンテナ船事業を切り出し、コンテナ船事業の統合会社設立に踏み切ります。それが本書の主役である ONE(Ocean Network Express) 。
巨額のインフラ投資を必要としながらも、業績の安定に乏しく、赤字を垂れ流すコンテナ船事業は、3社にとって、もはや本体の屋台骨を揺るがしかねない頭の痛い存在に過ぎず、半ば各社から切り離される方向で誕生したのが同社。
大いなる期待を込めてというよりも、やむなく誕生したというのが現実かもしれません。そんな同社が目を見張るような業績を上げたのは、前述の通りですから、まさに本書帯にある「痛快」の極み。
本書は、そんな同社の奮闘を追った1冊。同社の様子のみならず、世界の海運事情や、コンテナ船事業モデルなども丹念に解説されています。
【構成】
全5章で構成されています。第1章~第2章は世界の海運事情に触れ、第3章以降で、ONE(Ocean Network Express) の設立から現在までが記されています。
【所感】
不採算事業の統合ゆえ ONE(Ocean Network Express)も、先行きを危ぶむ声が多かったそうです。半導体や液晶など日本における過去の事業統合には、ほとんど成功事例がないことが、その理由でした。
しかし ONE(Ocean Network Express)は、その危惧を覆そうとしています。
同社快進撃の背景にはいくつか要因があるようです。①政府や銀行主導ではなく、当事者自らが自身の意思で選んだ統合であり、危機感のレベルが違うこと。②当事者が当時事業の将来像をきちんと描き、共有をしていること。かつ統合に際しても例えば基幹システムも、3社で最も優れたものを活用するなど、ベストプラクティスを選択する柔軟性があること。③また若手の活用など現場への権限移譲を徹底的に進めていること。
なによりシンガポールに拠点を置いたことこそ、最大の快進撃要因ではないかとしています。
同国には、海運税制面のメリットがあり、人材、情報も豊富。そして海運業者が集積する都市であること。また単なる拠点でなく、本社を置くことによりシンガポール政府との関係強化に努めていることもあるようですが、何より大きいのは日本からの距離感。
あえて一定の距離を置くことで、親会社や日本の行政官庁からの影響を受けづらくし、スピード感をもって事業を運営できる点を指摘しています。また本書では、しばしば「出島の精神」という言葉が出てきます。これはかつて長崎にあった出島が、日本海運の原点にしてルーツであり。そこから日本の海運業が発展したように、ONE(Ocean Network Express)が、シンガポールを現代の「出島」になぞらえ、その精神を以って、事業に臨みたいということだそうです。そんな思いの強さも、同社躍進を支えているのかもしれませんね。
本件を、日本企業における事業再編の新たな成功例と呼ぶには、少々早すぎる気もしますが、とても興味深い事例であり、他業界でも同様の展開が考えられるものであれば、これからの日本の産業界の風景も随分と変わったものになるのかもしれませんね。
日経BP 2023年2月13日 第1版第1刷発行
コメント