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【概要】

 明日から社会人となる「太郎君」。しかし日本経済の現状はおろか、自身がこれから置かれる労働環境や給料、お金の仕組みをほとんど理解していません。漠然とした不安も抱きつつも、さほど真剣に考えたことのない彼に対し、おせっかいにも、様々なレクチャーをする「妖怪モノシリン」。

 そんな二人?の対話方式で展開されるのが本書です。
およそ新社会人が気になるであろう給料の話にはじまり、過去の経済政策や財政状況、税負担、労働環境など、6つのテーマを解説しています。

 特徴的なのは、引用されるデータの数。全部で115本が紹介されています。内閣府や各省庁が発表するデータで、インターネットを介するなど、誰でも入手が可能なものばかりです。
「妖怪モノシリン」が、各データの意図するところを「太郎君」に解説をする構成となっています。

 著者の明石順平氏は、経済学者などではなく、労働事件、消費者被害事件を担当する弁護士さん。それゆえか、専門用語を多用しない丁寧な解説が印象に残りました。

【構成】

 全6章で構成されており、前述した6つのテーマを各章に充て、終章では日本と世界の未来予想を記し結んでいます。基本的には経済数値、経済統計の引用が大半ですが、労働環境を扱った5章だけは、やや内容を異にし、労働時間、労災申請件数、労働組合員数の推移などが紹介されています。

【所感】

 コンパクトで丁寧な解説も相まって、非常に読みやすい構成となっています。抑えておくべきキーワードは太字、要点にはマーカーまで記されており、時間がなければ、ここを追って気になる部分から読み始めてもいいのかもしれません。掲載されたデータにも直接注釈が入っており、読みやすく工夫されています。
 
 正直、淡々と紹介される各データと、その解説を読むにつけ、暗澹たる気持ちになることは免れません。しばしば「失われた30年」と揶揄された日本の実際をデータは冷酷に伝えています。そしてこれから迎えようとする労働生産人口の大幅減少は、さらに将来の不安を掻き立てます。

 当然「これからどうしたらいいの?」と「太郎君」が「妖怪モノシリン」に詰め寄るシーンが、終章に出てきますが、「妖怪モノシリン」は、一発逆転の秘策などないと、それを退けます。
そして大切なことは、事実を見据え逃げない覚悟なのだと諭します。事実(データ)をきちんと読み取り、自身で考え行動をしていくこと。決して耳障りのいいことを言う為政者に扇動されてはいけないとし本書を結んでいます。

 
主人公を新社会人としていますが、新社会人のみならず、万人の方が一般常識として知っておいて決して損はない内容ではないでしょうか。

                           大和書房 2023年5月20日 第1刷発行