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【概要】

 楽天市場、楽天カード、楽天モバイルなどで知られる楽天グループ。創業は1997年とまだ四半世紀の社歴ながら、インターネット関連サービスでは、日本を代表する企業の一つとなっています。
 今や、前述した事業に加え、銀行、証券会社、プロ野球やプロサッカー球団の経営など、その事業範囲は多岐にわたり、連結売上高は1兆9278億7800万円(2022年12月31日)に達しています。(但し、最終損益は赤字)

 同社創業者にして、現在、代表取締役会長兼社長兼最高執行役員を務めるのが、三木谷浩史氏。本書はそんな三木谷氏の評伝です。
 少し切り口が変わっているのは、帯に「海賊船に乗った10名」とあるように、三木谷氏を取り巻く(取り巻いた)キーマン10名を引き合いにしていること。
 一橋大学卒業、日本興業銀行入行、ハーバード大学ビジネススクール卒業という超エリートコースを投げ打ち、まだ海のものとも山のものともつかない、インターネットモール運営に乗り出した三木谷氏、
 そのチャレンジ精神、リスクテイクを恐れない姿勢を海賊の様だと評し、かつて果敢な挑戦で自社の未来を切り開いた、出光佐三氏、本田宗一郎氏、盛田昭夫氏、中内功氏に通しるものがあると著者は記しています。そんな三木谷氏と行動を共にしたメンバー(海賊)の思いを交えつつ、三木谷氏の実像に迫っています。

【構成】

 プロローグ、エピローグを除き、全9章で構成されています。
基本的に1章にキーマン1名を充て、各キーマンの三木谷氏との出会いや、楽天グループ内での役割などが記されています。ただ同社創業から時系列で、登場するわけではなく、また年表もありませんので、グループ全般の沿革を知るには、やや読みづらいかもしれません。

【所感】

 携帯電話事業への進出で、直前期の決算は、赤字。株価も冴えない楽天グループですが、プロローグと第1章で記される同社の携帯電話事業に関する記述の中で、同社が開発した「完全仮想化(ハードウェアを選ばずソフトウェアで、通信ネットワークを制御する技術)」が、世界でも類を見ない技術であり、海外からの引き合いが増加していること。
 何より、スペインのサッカーチーム、FCバルセロナと交わしていた300億円のパートナーシップ契約は、将来の海外展開を見越し、知名度向上を図ったものであり、選手のユニフォームにある「Rakuten」のロゴで、FCバルセロナのスポンサードをしているならと、商談の門戸が開かれたことも少なくないことなど、端から日本国内で4番目の携帯電話会社に、甘んじるつもりなど、毛頭なかったこと。そしてその伏線に驚かされました。

 この様にネット通販など、既存事業で大成功を収めているのにも関わらず、果敢な攻めの姿勢を崩さない点、成功を収めた起業家には、幼少期の極貧や、低学歴など、コンプレックスをバネにしている方も少なくありませんが、自身には無縁であり、そんなものを原動力にする時代は既に終わっていると三木谷氏は語ります。
 根性や悲壮感でなく、純粋に高みを目指したいとの一心で、常識を超えていく。そんな新しい経営者像が三木谷氏であり、旧態依然とした人々には、理解出来ず、それが時に「三木谷は嫌い」「楽天は危ない」、などの印象を抱かせるのかもしれません。

 時系列での読みづらさはあったものの、エピソード豊富で満足の1冊でした。
その中でも個人的に強く、印象に残ったのは、エピローグで記される、かつて同社参謀であった、國思惇史氏の存在。三井住友銀行出身のバンカー。私生活は破綻しているも、ビジネスの手腕は超一流だったそうです。勃興間もないネット事業業界で、起業の中心となるのは、若手経営者。
 しかしその多くが破綻していったのは、社内に「大人」がいない「子供」の会社だったから。

 最後は、その破天荒さゆえ國重氏と袂を分かつ三木谷氏ですが、起業から早い時期に「大人」を引き込み、その知見を十分に活かしたこと。またその様な出会いを得たことも、同社躍進の一因では、なかったか。
 起業の成功と失敗は人に始まり、人に終わる。情は大切だが流されてもいけない。妥当なタイミングで適材適所が図れるか。そんな感想を抱いた巻末でした。

                           小学館 2023年9月5日 初版第一刷発行