2023-11-19 Vol.544
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【概要】

「幸せでありたい。幸せになりたい。」
 そう願わない人は、いませんよね。では果たしていまの自分は、幸せなのでしょうか。これから幸せになれるのでしょうか。そもそも幸せとはどういう状態を言うのでしょうか。

 そんな疑問に経済学の観点からアプローチするのが、本書が紹介する「幸福の経済学」です。
「幸福の経済学」では、我々の考える幸せを数値的に計測し、統計的手法による分
析を通じ、幸せに影響を与える要因を明らかにしていきます。
 そして、そこから見えてきたものは、幸せに関する意外な事実でした。本書ではそんな分析結果を紹介しながら、その背景や要因を考察しています。

 幸せの程度は目に見えないのに、それをどうやって測るのか。そもそも幸せとは主観であり、人それぞれ感じ方は違うもの。そんなものを分析して意味があるのか。そんな疑問への回答も踏まえつつ記されています。著者は拓殖大学政経学部教授の佐藤一磨氏です。

【構成】

 序章、終章を除き全8章で構成されています。「幸せ」の測定方法の紹介に始まり、「お金と幸せ」「仕事と幸せ」「結婚、子供、離婚」「性差、年齢」というテーマで章立て。終章では、経済学による「幸せの条件」を明らかにし結んでいます。各章ごとに章末にまとめが付記されており、ここだけを読んでも、一通りの理解は得られる構成となっています。

【所感】

 まず思うのは「幸せ」をどうやって測定するのかという疑問。主としてアンケート調査。そこで使用される質問文は、安定性、有効性、一貫性、多国間の比較可能性と4つの視点で検証し、信頼性が担保されているそうです。
 本書では、アンケート調査の具体的な質問文書などは明かされていませんが、基本的に回答の選択肢は、①とても幸福、②かなり幸福、③あまり幸福でないとの3つが基本だそうです。
 年収と幸福度、昇進・昇格と幸福度、既婚・未婚と幸福度、子供の有無と幸福度など、興味深い調査結果が並びます。ここで結果を明かすことはしませんが、意外なもの、日本固有の傾向があるものも少なくありませんでした。

 本書著者の見解ではありませんが、我々の幸福度を下げるものには、4つの要因があるそうです。
それは①健康状態の悪化 ②失業 ③パートナーとの離別、④社会からの孤独・孤立。
端的に言えば、健康、仕事、人間関係であり、特に近年は人間関係こそ、大きな影響を与えているのではないかとの指摘もあるとのことでした。
 
 さて本書が挙げているような調査結果を知り、個人読者は自身の立場と比較、一喜一憂し幸福度を上がるため何らかのアクションを起こすのでしょうか。あるいは国家や行政機関は、国民の幸福度を高めるため施策への反映を検討するのでしょうか。

 個人的には、面白く読みましたが、今後自身の行動にそれが反映されていくかと言えば、正直今更それを指摘されてもというのが正直なところでした。果たしてこれから社会へ出て、様々な選択を迫られる若手のみんなはどう捉え、考えたのか。その思いを聞いてみたいとの読後感を覚えた1冊でした。
 
                        プレジデント社 2023年11月20日 第1刷発行