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【概要】

 本書タイトルにあるテックラッシュ(techlash)とは、技術(tech)と反発(backlash)が合わさって出来た造語で、Amazonなど大手テック企業に対し、一般大衆が抱く反発感情を指す言葉だそうです。

 テック企業の提供する製品やサービスは、もはやインフラと化しており、様々な情報へ簡単にアクセスをするなど、我々はその利便性を享受しています。

 その一方で、プライバシー侵害のリスクや、フェイクニュースの拡散など、その弊害に脅威を感じる場面も増えてきました。その蓄積が、テック企業への不信感へ繋がり、テックラッシュという言葉が誕生するきっかけとなったようです。

 さてそんなタイトルの付された本書。著者は経済産業省の官僚から、アマゾンジャパンに転じ、15年に渡り公共政策チームの日本の責任者を務めた渡辺弘美氏。
 アマゾンジャパンが、日本でも著しく成長発展を遂げた時期に、ロビイング活動を通じ、日本政府と対峙してきた氏が、日本の財政官の弱点や、外資にあって国内企業には圧倒的に欠けている規制緩和への挑み方などを考察しています。Amazon研究の書籍は、数多く出版されていますが、あまり知られることがなかったロビイング活動の実態などを紹介した少し毛色の変わった1冊となっています。

【構成】

 全6章で構成されています。渡辺氏入社からの同社の様子を時系列で記すようなことはなく、第2章~第4章で、ロビイング活動の概要、Amazonにおけるロビイング活動の思考法、政府規制へ対峙する際の学や戦術などを紹介。第5章~第6章では官民合わせ日本が抱える弱点につき整理、課題提起をし結んでいます。

【所感】

 本書の要諦は、「岩盤を打ち砕く戦術と哲学」と称された第4章にあり、本書の半分近いボリュームを占めています。ここでは主として著者が関与した8つの事例(例えば置き配の社会的受容など)を紹介しながら、個々のテーマにつき、どう政府と折り合いをつけ妥協点を見出してきたのかを解説しています。

 政府との折衝を行うのは、当然個々のアマゾニアン(アマゾン社員)となりますが、各人が独自のノウハウやスキルを発揮し、役割を担っているのではなく、そこには共通する行動指針があります。
 それがAmazon「リーダーシップ・プリンシプル」 https://www.aboutamazon.jp/about-us/leadership-principles 

 本書内唯一の図表として掲載された同指針と照らしつつ、各事例が解説されています。
このAmazon「リーダーシップ・プリンシプル」は、極めて普遍的な内容であり、企業や人を問わず通用するものです。著者がこれを紐解いた背景には、本書を単なるAmazonでの事例紹介に留めるのでなく、様々な企業が、政府当局や規制当局と対峙する際の参考としてほしいとの思いがあるように感じました。

 公共政策、特にロビイング活動と聞くと、日本では政界への裏工作的な印象を抱きがちですが、外資企業にとっては、これは極めて重要な経営戦略のうちの一つ。ルール主導する立ち位置を得ることが企業浮沈の鍵を握ることを熟知しており、日本企業もこのあたりのしたたかさを見習い、一定の経営資源を投下する意識が必要な点を指摘、他にも外資企業から学ぶべき、観点をいくつか紹介。また元官僚として、自身が民間企業に転じた経験を踏まえつつ、欧米のテック企業の後塵を拝す日本企業は、今後どこに勝機を見出せばよいのか、日本政府への意見と提言を記し、結んでいます。


                           中央公論新社 2024年1月10日 初版発行