ひごころ

ひとひ　ころころ　こころころ

カテゴリ： 考える

暮れる

「多様性」って、ここ数年よく聞く言葉なのだけれど。

それは、この世界の最初からきっとあることで
そこに広がりや繋がりや文化や探求や抵抗や争いが生まれてきたんだろうなと思う。

じぶんと違うものを認めるということは
じぶんを広く溶かすようなもので
それはとても心もとないことであるような気がする。

ここまで歩んできた道の途中で、わたしは少数派であることが多く
時にそのことを「理解されたい」と願い、親しいひとに伝えたこともある。
けれどあるとき気づいた。

理解できないことに、苦しむひともいるのだと。

わたしがわたしであることで
わたしを拒絶するきもちと
受け入れたい、受け入れなきゃというきもちの狭間で、揺れ動く。

目をそらし、ひっそりと距離を取られることは、寂しさよりも罪悪感のようなものをわたしに残した。

ああ別に、理解など求めなくていいのだ。
ただわたしが、そのまま生きていけばいいのだ。

あなたから見えるわたしが、あなたにとってのわたしなのだから。



ひとと違うことに、いいとか悪いとかのラベルをつけたりせず
それは同じように、誰かのことも、そうしないということ。
「理解されたい」という想いは、わたしの中の正しさの押しつけだった。
少なくとも、わたしはそうだった。


ちいさく傷ついてゆくじぶんを、放っておくのではなく
誰かを責めるのではなく、間違いさがしをするのではなく
わたしはわたしに寄り添って、それでいいのだと抱きしめて

もしも誰かが傷ついていることに気づけたとしたなら、そのひとの背中を撫でたい。理解できても、できなくても。


すこしずつすこしずつだけれど
そうできるようになってきて
わたしは、誰もわたしを傷つけようとしていないことに気がついた。

誰もわたしを傷つけようとしていない。

わたしが、傷つくことを選んでいただけだった。


あなたとわたしは、ちがう。

それはとても素晴らしいことで
この世の多様性は
わたしたちが生み出した総意なのだろう。


今日も、わたしを溶かしてみる。

薄まってゆくわたしは、すこし不安で

そして、たぶん

喜んでいる。




アネモネ。

ヒンディー語の『与格』というものを、知る。

主格が「わたしが」「わたしは」なら
与格は「わたしに」。

例えば、

「わたしはあなたを愛している」ということを
「わたしにあなたの愛がやってきて留まっている」

と表現するそうな。

『わたしにあなたの愛がやってきて留まっている』

和紙に水が染み入るみたいに、じわじわと胸にせまってきた。


わたしの行動は、どんなときも
わたしの意志に従っていると思ってきた。

訳の分からないことも
言葉ではとても説明のつかないものも。

でも、それが
わたしから発露するものではなく
わたしにやってきたものだとしたら。

どこからかやってきて
宿ったものだとしたら。

想像していくうちに「わたし」は曖昧になり
ふわっと、空間に溶けていくような感覚が生まれた。


「わたし」はどこだ。


あなたにはわたしが含まれていて
わたしにはあなたが含まれている。

森にも海にも宇宙にも
あなたもわたしも、含まれていて

愛はいつもそこにある、としたら。




花に光が留まり
美しい青になる。


美しい、青になる。


ひだまり猫

冬の陽は長い。

つよさはないけれど。

長く奥までとどく。


***

カラダに力が入らないような感覚で、目が覚めた。

なんだろう。
つかれているのかな。

かなしみとも、さみしさとも言えないものが
ちいさい波のように繰り返し押し寄せる。

なんだか、あまり、よくない、感じ。

ベッドの羽毛布団をパタリと折りたたみ
冷気にカラダをさらす。

冬になっても、ハダカ。

布団とわたしの間で育ったぬくもりが
瞬時に霧散する。
つめたい朝にぎゅっとされる。

それでも


カラダに力が、入らない。



わたしのカラダに力を与えているのは
なんだろう。

力は、わたしが生み出すもの？

そこにあるもの？

与えられるもの？

たとえば、あのひと。
たとえば、このこと。
たとえば、その場所。

わたしに喜びを与える、すべての存在が
わたしに力を与えてくれているとするならば
そこから離れないことが
大事なことかもしれない。

求めるものを、求め
そうでないものは、受け入れない。

いや、日頃からそうしてるけどね。

でも、しいていうなら、寒いかな。
耳が、かゆいかな。

そろそろエアコン、入れようかな。


しおしおと
ちいさくなったような気がするカラダを持ち上げて
ベッドを降りた。


力が入らなくても
かなしくても
さみしくても
今日は、はじまる。

でも、そんな今日にも

わたしに力を与えるものは、在るのかもしれない。

実


『SEED〜生命の種〜』というドキュメンタリー映画を観た。


こどもの頃
畑でできた野菜のタネを取り置いて季節を待った。
あれは、記憶ちがいだろうか。

いまでは、野菜が抱える種子を植えても
芽は出ても、実はならない。

『20世紀中に野菜の種子の94％が消滅』

多くの国で、農家が来年撒く種子を保存することが禁じられ
色、カタチ、大きさ、触感
すべてが消費する側の目線で淘汰されてゆく。

おそろしいほどの勢いで種は減っており
それは想像してみれば、ひとりひとり個のある人間が
「こんなふうな人間」としてまとめられていくようなものであり

明日になればわたしは消えていてるかもしれない、ということなのだ。


そして二度と、「わたし」は生まれない。


乾いた実を指先で弾けば、種子は飛び出してきて
それはいつまでもつづく、というのは
夢物語になってしまった。


いのちは、消費なのか。

いや、よろこびだ。


生まれることが喜びならば
わたしも種子も同様に、そのことを抱いてこの世に存在している。

いまあるいのちは、先端であり、通過点であり
先へと繋がる起点だ。


想像してみる。


明日、森がなくなる世界。

明日、海が枯れる世界。

明日、風がやむ世界。


明日、あなたが消える世界。


いのちが、なくなる世界。


それは、わたしが想像するよりもっと
近くにある未来なのかもしれない。

色鮮やかな美しいタネが舞う姿と
種を守りたいというひとたちの横顔。

指先がざわざわとした。



いのちは

あしたは

だれのもの。


そらのむこう。

ことのはじまりは、友人と同じ時期に買った同じメーカーの掃除機だった。
7000円も友人のほうが安く買っていて、くやしーい！と何度もぼやいたわたし。

このメーカーは、ネットや電気屋さんより公式サイトの割引率が一番高いのだと、友人が教えてくれる。

ほどなくそのメーカーの「期末セール」と銘打った広告をみつける。
80〜90％オフの商品が数点並んでいる。

やったー。

ダーと相談して、ちょうど引越を終えた姉と友人にプレゼントしよう、ということになった。
掃除機とドライヤーにしよう。この色かわいい。
先日みたときにはなかったセールに、きもちが踊った。

注文を終えてしばらくすると、英語のメールが届く。
翻訳すると、注文受け付けました、たのしみに待っててね、というような内容だった。

よく考えてみれば、日本語のサイトで注文しているのだから
英語でメールが来るなんて、おかしな話だ。
けれどそのときも、何の疑問も持たなかった。


数日経ったところで、ダーがパソコンの前で
「タイヘン、タイヘン」を連呼し始める。

なになになになに。

わたしたちが注文したサイトが、偽サイトであるという被害記事を見つけたのだ。

公式サイトそのままのデザインだった。
よく考えたら、公式サイトで90％オフとか、あるわけないのに。
なんでふたりいて、ふたりとも不思議に思わなかったんだろう。

じぶんたちのあほさ加減に、しばし放心。

そして、個人情報ダダ漏れたことにハタと気づく。
カード情報、名前も住所も電話番号も。

やや青くなる。

カード会社の営業時間は終わっていたので、後日連絡。
やはりすでに、架空の会社から請求はあった模様。
海外からの請求とのこと。
カードは止めてもらい、新しい番号で発行を依頼した。

カード会社も調査してくれるとのことだが、
こちらの対応としては、頼んでいない商品が届く可能性があるので、受取拒否しなければならない。
早速マンション宅配ボックスに、我が家への荷物は入れないよう依頼の貼り紙をさせてもらった。


そして昨日、そのブツが届いた。


玄関に出ると、手のひらに乗るほどの大きさの荷物を持った宅配屋さん。
当たり前のようにサインと受取りを求められる。

どこからですか？

「中国…ですね」

受取拒否したいんですけど、いいですか？

簡単に事情を話すと、理解してくださった。
「受取拒否」と名前と印鑑をここに、と指示される。

商品名には「glasses」とあった。「メガネ」ね。
ちょうどそれくらいの大きさだ。

ほんとうに、こんなことがあるんだなあ。

細長い箱を横目にみながら
「だます」ということが堂々と行われていることに、ふるえる思いがした。


だます、って、どんなきもちなんだろう。

スカっとするのかな。
思いどおりになったと思うのかな。
だまされるほうが悪いと思うのかな。

あの手のひらに乗るほどの箱は、どこへ帰るのだろう。

じぶんの浅はかさに呆れるだけで
腹が立つとかは、ぜんぜんないけれど。

だまされるって、かなしいなあ。


かなしい。

ぜんぶが。



紫陽花

Twitterに登録している。
興味あるひとのツイート（投稿）を読むだけだ。
友人と繋がるFacebookとはまた違う情報が入るので、おもしろい。

今朝読んだのは「セックスの同意について」。

そのことを「紅茶を飲む」ことに例えた動画が添付されていた。
『Consent is Everything（同意がすべて）』題されたこの動画は2015年に、イギリスの警察が作成・公開したものだそう。（Twitterでは日本語訳されたものがあったけれど、こちらのリンク画像は、字幕を日本語に設定して観てくださいな）

イギリスでは、同意のない「不同意性交」をレイプと定義しており、刑事罰の対象としている。
そんなの当たり前だと思うのだが、日本ではまだその意識が薄いと感じる。

そんな時間に、そんな場所に居たのだから
そんな服装をしていたのだから
そのひとについて行ったのだから
恋人なのだから、夫婦なのだから

望まぬ被害を受けたひとを守れない社会は、幼稚としか言いようがない。

あなたが紅茶を飲みたいと思っても
例えば相手も飲みたいと言って紅茶を入れたとしても
「要らない」と言えば、無理に飲ませてはいけない。
飲みたいかどうかの判断がつかない場合も、同様だ。

当たり前だ。
ほんとうに、ごく当たり前のこと。

飲みたがらない相手に対して
交換条件を出す、不機嫌になる、過剰に悲しむという圧力をかけることもある。

これも、不当なことだとわかる。


何も性行為に限ったことではない。

同意していないことを行使するのは、暴力だ。

わたしも多くの暴力を行ってきたのだと思い至り、ハッとした。


じぶんの望むことを認める。
そのことを相手に伝える。
そのことを相手が望むか、問う。
「望む」でなければ、しない。

「いやだと言わなかった」ことは「イエス」ではない。
抵抗しなかったことが「イエス」ではない。

じぶんが、暴力を行使できる立場であることを、知っておきたいと思う。

大人であること
家族であること
権力があること
知識があること
体力があること

誰かを守ることができる能力で、わたしたちは暴力をふるうこともできる。


『ほしくない人に紅茶を飲ませることがどれほど完全に馬鹿げたことか理解できて、相手が紅茶を飲みたくないことも理解できるのならば、セックスも同じです。紅茶もセックスも、Consent（同意・承諾・納得）が全てなのです』

で締めくくられる、この動画。

年齢性別に限らず、多くのひとに観てほしい。


うめちぎり

友人宅で梅ちぎり。

背の高い木に脚立をたてて、空にちかいほうの実にも手をのばす。
わたしは下からあれこれ口を出し
ときどき天からぽとりと落ちてきた青い実を拾って、カゴに入れるだけ。

季節が話しかけてくれる生活って、いいなあ。

庭がほしいと、繰り返し口にしていて
ほんとうにそう思うのだけれど。

でも、わたしの庭でなくてもいいよね、と風にゆれる梅の葉を見ていて思う。
わたしの家じゃなくていいし、わたしの庭じゃなくていい。
わたしのあなたでなくてもいいし。


所有について考える。

ここから先はあなたの土地で、そこから生えている木の実はあなたのものよ。わたしのものよ。

けれど、自由に伸びる枝にも、ふくよかな土にも、名前はついておらず。
大地にも線は引かれていない。

じぶんのものだと思うことも
誰かのものだと思うことも
みんなのものだと思うことも、勝手だけれど。
それはそこに確かに存在するだけで、誰のものでもない。


離婚してしばらくした頃「和美さんは、みんなものだね」と言われたことがある。

それはわたしの八方美人なところや、来る者拒まずな態度について、すこし揶揄されての表現だったと記憶している。

みんなのものであることは、楽だと思った。
けれど、誰かのものでありたい欲も抱えていた。
「そんなわたし」が「わたし」だった。


生き方のほとんどは、本質を遠く離れ
「くせ」によって成り立っていることに気づく。

「わたしはこんなものだ」という、なぜだか確信に似た思い。

毎夜おなじベッドに眠るとき
わたしがここで眠りたいのかどうかなんて、いちいち考えたりしない。

たぶん「くせ」なのだ。
生まれてからわたしに起こった多くのことで構成された、わたしの習慣。
不快なことも、ここちよいことさえも。

ただわたしのこころとカラダが覚えたように、進んでゆく日々。

巻き上がる風が吹けば笑い
足元の土を払えば泣きたくなり
刺すような光の中で怒り
雲が思いがけずはやく流れると哀しくなる。

ひとつひとつ立ち止まり、わたしの胸に問えば、答えは毎回ちがうのかもしれない。


たぶんわたしは「そんなもの」ではない。



大きな大きな瓶に梅を落として、カラカラと氷砂糖を入れた。
毎朝、瓶をゆらしてくるりとまぜる。

おいしい梅ジュースになあれ。

わたしはわたしに、なあれ。


ベランダ。

我がマンションが、外壁工事をしている。

かなりの騒音で日中は窓を閉め切っているのだが
ふと目の端に動きを感じてベランダを見やると、ひとが歩いていた。

びっくり。

いつの間にか、うちの階まで足場が組まれていたようだ。

視線を感じたのか、外の男性とがっつり目が合う。
気まずそうに急いで視線を外され、こちらも気まずくなる。

すぐにカーテンを閉めるのは、それはそれで失礼な気がして我慢。
おふたりの姿が見えなくなって、そろそろと閉めた。

今回の工事でベランダに立ち入るという連絡はなかったが、足場を組み立てているのだから立ち入ったほうがやりやすいに決まっている。想像が至らなかった。

ラフすぎる、部屋着。
わたしがいいならいいじゃない、と思っていたことを反省した。

見てしまう側の不快感、不安感、というのもあるんだよね。

***

最近、職場での服装の指導が強化されている。

服装は自由で「接客に恥ずかしくないもの」であることが前提なのだが
その感覚には個人差があり、流行のデザインがそこから逸脱していくことも多い。

わたしに限って言えば「きちんとした」服がそもそも好きではなく、ゆるやかなデザイン、自然素材を好む。
仕事をしているのだから、それ用として何着か用意すればいいのだが、お金がかかることもあり、自由であることに甘えて放置してきた案件だ。

結果、かなりの割合で注意を受ける46歳…。

それはパジャマですか？　カッパですか？

わたしを上から下まで眺めていつも面白がっているが、目の奥は笑っていない上司。
毎朝、鏡の前でじぶんを見て、びくびくしている。

ノーファンデであることも、たぶん、あまり好まれない。今はマスクだからいいけどね。
化粧は、相手のためにするのだ、と以前言われたことがある。服装と同じ、ということなのだろう。
仕事場では、わたしはお客様ではないのだ。

はあ…気が重い。
でも、仕事だしね。←何年働いてきたんだ

ひとつ制服を作ろうかな。
白いシャツ何枚かと、黒いスカートひとつ。

シャツはインしてくださいと言われて、ウエストが目立つからはずかしいと訴える同僚。
あなたが恥ずかしいかどうかは関係ないと、あっさり返答されていた。確かに。
どの会話も温和で、威圧的なものは何もないのだけれど、それに甘えていけないこともわかっている。

友人からもらった、膝丈の黒いタイトスカートを着てみる。

うーん…はずかしい以前の問題な気もするけれど。
ひとまず来週はこれを着てみよう。


あ、靴はどうしたらいいんだろう。


にんにくさん

友人が、育ちすぎた野菜があるから収穫においでと誘ってくれた。

いつもよりすこしだけ早起きして、手袋と野菜を切るはさみを抱えて駆けつける。

なんて立派な畑！
傘寿を過ぎたお母さまがお世話されて、出荷もされているそう。

玉ねぎ、ピース豆、ほうれん草、にんにく…

初めてお会いするのに
「お母さん、これどこで切ったらいいんですか」
「お母さん、これどうやって保存するんですか」

他人様の母上をつかまえて、「お母さん」を連呼する。

ゆっくりだけれど、たしかなペースで、にんにくを掘り起こしてゆく、まるく小さな背中。
まだ育ちきっていないじゃがいもまで抜いて「持ってかえりんしゃい」とおっしゃる。
かわいい。
かわいすぎる。

だいじょうぶ！
育ったころに、また来ます！

畑の端っこから大声で叫ぶ。


手をかけて育てられたものの、美しさ。

畑にしゃがんでいると、土から与えられるものと、土に引き受けてもらえるもの、その目に見えぬ巡りを感じる。


誘ってくれて、ありがとう。

ひさしぶりにあなたの笑顔をみて背中にふれたら
こどもみたいな涙がでたよ。


***

このコロにゃん騒動（友人が「コロにゃん」と名付けた。とても気に入っている）で
おうちにいることでストレスが溜まっているひとも多いと聞く。

お子ちゃんは特にそうよね。
外でいっぱい遊ばせてあげたい。

わたしもついつい話の流れで、つらいよねーと言葉にしたりするけれど。


ぜんぜん、つらくない。


家でなにもせずにぼんやりするのが、何よりすきだから
申し訳ないほど満たされている。

しいていうなら、逢いたいひとにあえないくらいかな。
でも今までだって、逢いたいときにあえるわけじゃなかったし。

あえないあえない、とぶーぶー言っているじぶんが
ちょっとはずかしい。


ベランダに椅子を置いて、空を見上げたり風を感じたり
気まぐれに、すきなひとたちにきもちを送って、送られて。

働いて
食べて
眠って
書いて
聴いて
読んで

わたしを、出したり入れたりしながら
畑にいるときみたいに、ちゃんと巡っている。

「出入り口」という言葉にもあるみたいに
まずは「出る」ことが初めだと、誰かが言っていたな。

だから、からっぽになることは恐れなくていい。

お金も、きもちも。
人間関係だって。

それは、はじまり、だから。


今朝も、空にわたしを放つ。

巡りめぐって、またいつか。

ゆたかな

柿の木の下で


夕食をつくらずに出かけても
たとえば相手が男性であっても
引き止めるようなことはしない。

わたしの夫、ダーのことである。

そんなダーのことを
こころが広いとか、かずみを信じてるんだね、愛されているね、と言うひともいるけれど
そういうことではない。

単純に、わたしを「俺のもの」と思っていないだけだ。

所有欲がつよいわたしは、ついつい、そういう目で相手の行動を見てしまいがちだ。
不機嫌になれば、その理由を「こうしてほしいんだな」と先回りしてしまう。

けれどダーに関していえば、その殆どはかなりの確率で的を外す。

自己解決を阻まれた！というような不快感を示されるだけなのだ。

もしかしたら今までのパートナーだってみな、そうだったのかもしれない。
わたしが束縛されていると感じていただけで、じぶんを縛っていた縄は、わたしがかけていたのかも。

不快になること、望まないことは「感情」で
相手を思い通りにしたいという思いは「欲」だ。

みにくく甘美な「欲」を愛しているのは、わたしのほうだ。


ダーと夫婦であることで繰り返し学んでいるのは
「彼は、わたしではない」という当たり前のことだけ。

知れば知るほど、ちがう。
その驚きと、清々しさ。

理解できない不安やさみしさより、圧倒的に「ちがってよかった」と思う。

最近は、意見を問うても「そんなのじぶんで考えて」と、ぽーんと突き放される。
「つめたーい」と言葉では返すけれど、つめたいと思っているわけではない。

やさしくされようがされまいが
彼のよさは変わらないし
わたしを愛していようがいまいが
大切に思うきもちも、ここちよさも、変わらない。


結局は、誰といても、ひとりだ。

大切な誰かと共にあることの尊さは、そのことを知るためにある。


あなたがあなたで
わたしがわたしで

よかった。

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