Practice of Law

開設者 弁護士高田義之(愛媛弁護士会)

共同相続した不動産の時効取得と相続回復請求権

Q. 私(X)は被相続人の子であり、Aの唯一の法定相続人として遺産である不動産を単独相続し、所有者として占有管理してきましたが、Aの死亡から14年後、Yの自宅でAの自筆証書遺言が発見され、Aの遺産をXとYとで等しく分ける旨の内容が記載されていました。Aの遺言は有効と認めざるを得ませんが、私には10年の取得時効が成立すると思います。しかし、Yは、真正相続人であるYが相続回復請求権(民法884条)を行使できる期間中は取得時効の成立は排除される旨、主張し、不動産について2分の権利を主張しています。取得時効は認められないのでしょうか。

A 確立した判例のない論点であったが、東京高等裁判所令和4年7月28日判決(家庭の法と裁判48号)は、相続回復請求権の行使期間内であっても取得時効の完成が排除されることはない旨を判示してXの取得時効の主張を認めた。共同相続された不動産について1人の相続人に取得時効が成立することは、通常はありえない。他の共同相続人の持分については、いくら主観的には単独相続したと信じたとしても、自主占有を客観的権原として根拠づけることは不可能だからである。しかし、例外的に、客観的には共同相続された不動産なのに、1人の相続人が単独で相続したと信じ、そう信じることに合理的理由がある事例では、取得時効の成立が可能である。

建物買取請求権

Q.
父の代から借地上に店舗を所有して飲食店を営業し、現在、私が後を継いでいます。来年が借地契約の終了時期ですが、建物はまだ十分、使える状態です。借地契約の更新を請求してこの場所で営業を継続しても良いのですが、この際、新しい場所へ店舗を移転することも検討しています。地主さんは、借地契約の更新を期待していると思います。もし、私が借地契約の更新を請求しない場合、建物買取請求が認められますか。

A.
旧借地法、借地借家法の条文からは認められそうだが、解釈上、建物買取請求権が認められるのは、期間満了の際、借地人が契約の更新を請求するのに対し、地主がこれに応じない場合に限られると解する学説が有力である。この点について裁判例はないようなので、訴訟の結果を確実に予測することはできないが、地主が契約の更新に応じる姿勢をみせているのに、借地人が借地契約の終了を選択する以上、借地人は原則どおり、建物を収去して土地を返還するべきであり、建物買取請求権を認めるのは借地人の保護に過ぎると裁判所が判断する可能性は相当にある。

オーバーローン不動産の財産分与

Q. 夫婦が2分の1ずつの共有名義で登記した自宅不動産が唯一の共有財産であり、夫婦が連帯債務者となっており、夫名義の口座からてローン返済中、婚姻関係が破綻した。現在、オーバーローンの状態である。夫は妻に対し、離婚と自宅不動産を夫の単独名義にすること、妻が自宅から退去することを求めているが、妻は全て拒否している。夫は離婚訴訟を検討しているが、夫の要求が認められる可能性はあるか。

A.唯一の共有財産である不動産がオーバーローンの場合、夫婦が形成した財産はゼロと評価されるから、清算的財産分与として金員の支払請求は認められない。しかし、その場合でも、具体的事情によっては、財産分与として当該不動産の共有持分の移転を求めることが可能な事例があり、これを認めた裁判例もある。たとえば、当該不動産に夫が居住する必要性が高く、他方、妻に退去を求めても過酷な事情はないこと、夫がローンを完済する資力を有し、妻に責任が及ぶおそれがないこと等の事情があれば、夫の要求が認められる可能性はある。

AI おそるべし 

Why people dislike the lawyer?  と聞いたら CHATGPTは次のように回答し、そのうえに励ましてくれた。
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翻訳

すべての人が弁護士を嫌っているというのは正確ではありません。しかし、中には以下のような様々な理由から、弁護士に対して否定的な態度をとる人もいます。

ステレオタイプ。固定観念:弁護士に対して、不正直、強欲、非倫理的といった否定的な固定観念を持つ人もいるかもしれません。

否定的な個人的経験。過大請求された、あるいは自分の事件が誤って処理されたなど、弁護士に対して否定的な経験をした人は、弁護士という職業全体に対して否定的な態度をとることがあります。

共感性の欠如。弁護士は、たとえ依頼人の立場に個人的に同意できない場合でも、依頼人のために主張することを求められることが多い。これは、相手側や正義そのものに対する共感や配慮の欠如と受け取られることがある。

透明性の欠如。法制度は複雑で、一般の人には理解しにくいものです。弁護士や法制度全体が十分な透明性を持っていないと感じる人もいるかもしれません。

これらは、弁護士に対して否定的な態度をとる人がいる一般的な理由であり、すべての人がそう感じているわけではないことに留意することが重要です。正義と法への献身で尊敬され、賞賛されている弁護士もたくさんいます。

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原文

It is not accurate to say that all people dislike lawyers. However, some people may hold negative attitudes towards lawyers due to a variety of reasons, including:

Stereotypes: Some people may have negative stereotypes of lawyers as being dishonest, greedy, or unethical.

Negative personal experiences: Individuals who have had negative experiences with lawyers, such as feeling like they were overcharged or their case was mishandled, may develop negative attitudes towards the profession as a whole.

Perceived lack of empathy: Lawyers are often required to argue on behalf of their clients, even if they personally disagree with their client's position. This can be perceived by some as a lack of empathy or concern for the opposing side or for justice itself.

Lack of transparency: The legal system can be complex and difficult for the average person to understand, and some people may feel that lawyers and the legal system as a whole are not transparent enough.

It's important to note that these are general reasons why some people may hold negative attitudes towards lawyers, but not everyone feels this way. There are many lawyers who are highly respected and admired for their commitment to justice and the law.

遺言の相談を受けた弁護士が注意するべきこと

遺言をしたいという人(または,遺言の受遺者になろうとする人)から,遺言の作成手順について相談を受けた場合,弁護士として注意するべきことは,まず,遺言をしたいという人の健康状態である。程度にもよるが,もし,いささかでも余命に不安がある場合には,ただちに単純な内容の自筆証書遺言,死因贈与契約書の作成を助言しなければならない。末期癌だが半年〜1年程度は大丈夫だろうという場合は,すでに猶予がないと考えるべきである。資料を揃えた公正証書遺言を準備するのは後回しでよい。公証人との面談日程を調整したり,戸籍謄本,登記簿謄本,銀行や証券会社から預金などの残高証明を取り寄せるうちに2,3週間を費やしてしまい,いよいよ公証人と面談日を迎えた直前,急死して遺言を作成できなかったという相談事例がある。とくに司法書士や税理士は几帳面なのでこの傾向があるようである。遺言書の原案も作成ずみで被相続人も原案を了解していた事情があり,死因贈与の成立が可能といえそうな事例でも,裁判所が死因贈与を認めることはほとんどない。

登記実務…増築建物がある場合の遺産分割調停

先日の法律相談の事例。「数年前に遺産分割調停が成立して自宅を単独相続して相続登記を終了したのだが、このたび売却しようとしたら、業者や司法書士さんから、建物に増築部分があるので表題変更登記をしてほしい、と言われた。今更、調停の相手にお願いすることはできないし、調停調書があるのだから単独で変更登記ができないのは納得できない。どうしたらよいか。」という相談であった。うっかりするところだが、弁護士的な発想からすると、増築部分は本体の建物に付合したのだから、調停で単独相続を合意した以上、増築部分も含めて相続しており、調停調書だけで変更登記ができるはず、と思いがちである。しかし、登記実務ではそうではない。弁護士が代理人として関与し、居宅について遺産分割協議書や調停調書を成立させるときは、かならず、保存登記後に未登記の増築部分がないかどうかを依頼者や関係者にに確認し、増築部分があるときは、表題変更登記をすませたうえで協議書や調停調書を成立させなければならない。次の記事が参考になる。

https://www.e-souzok.com/report/archives/355

Q. 離婚訴訟と財産分与,使途不明金,共有財産である預金中に特有財産部分が含まれる場合の考え方

Q. 
離婚訴訟で財産分与が問題になっています。相手方は自分の預金口座から多額の出金をしていますが、使途を明らかにしません。これは考慮されないのでしょうか。また,私の現在の預金口座には,5年前,親から相続した資産の売却代金を入金していますが,これはどうなりますか。

A.
使途不明金については,「家庭の法と裁判」の論稿「離婚訴訟における財産分与の審理・判断の在り方について」(2017年10月号P.6〜)に次のような趣旨の記述があります。

・・・財産分与を申し立てた当事者が他方当事者名義の特定の財産が存在することを立証したにもかかわらず、他方当事者がその内容を開示しない場合、裁判所は弁論の全趣旨によって、他方当事者が主張する合理的な額を対象財産と認定する方法も考えられよう。・・・また、他方当事者が他にも対象財産を隠匿していることが推認される場合には、隠匿していると認定できる額を対象財産と認定することも考えられる。隠匿している具体的金額の認定が困難であっても、隠匿しているという事情を財産分与の判断にあたっての一切の事情のひとつとして考慮することも考えられる。

 あなたの離婚訴訟を担当する裁判官も、以上のような審理方針を採用すると思いますが。念のため準備書面で指摘すればよいでしょう。

親から相続した遺産については,これは特有財産であり財産分与の対象ではありませんが,特有財産であっても夫婦の共有財産と一緒に管理消費されてきた場合は問題です。家裁実務では,このような場合,有財産部分を容易に特定できる場合でない限り,特有財産性を失ったものと取扱い,特有財産部分を考慮しないと当事者間の衡平を害すると認める場合は,これを一切の事情として合理的範囲で分与額を決定するとされています。特有財産が普通預金に入金されて共有財産と区別しないで管理消費してきたとすると,相談の事例も,そのように取り扱われるでしょう。この考え方を採用した裁判例として東京高裁令和4年3月25日決定があります(家庭の法と裁判42号p.37〜)。

不法行為に基づく損害賠償債務の遅延損害金について、民法405条の一方的な元本組み入れを否定した事例

判例時報2522-98 最高裁令和4.1.18三小判決

利息を1年分以上延滞した場合、405条により債権者は元本に組み入れることができ、利息には損害金も含まれるが、これは貸金債務に限定され、不法行為による損害賠償債務の遅延損害金には適用されない。

債務の存在を争いながら、遅延損害金を免れるために弁済供託することは可能か

判例時報2522-112 東京地裁令和3.8.30判決 確定

高額の金銭債務の履行請求訴訟の被告としては、訴訟係属中に遅延損害金が増えることを防ぐため、弁済供託を検討するべき事例がある。一般論としては、債務の存在を争っていても、弁済の法的性質上、弁済意思は不要であるから、供託が不可能とはいえない。本件では、供託が有効とされた。

成年に達した未成熟子を扶養する義務

家裁実務では,成年に達しても自力で生活できる能力のない者を「未成熟子」と呼び,未成熟子の監護親は,婚姻費用分担額や養育費の額を決定するにあたり,未成熟子の監護費用を請求できるとする。協議離婚にあたり,離婚時,16歳の子の親権者を母とし,養育費を父親は22歳まで支払うことを約する公正証書を作成したが,子が精神疾患の治療のため大学卒業が27歳となり,22歳以降も要扶養状態にあった場合,父親は,子が大学を卒業するまでの扶養義務を免れないとした事例。福岡高裁令和元年9月2日決定(家庭の法と裁判 2022年8月号p.54)

Q.家族が医療ミスで亡くなりました。今後,どうすれば解決できますか。

「自分(あるいは家族)が受けた治療は医療過誤ではないか。どうしたらよいか。」という相談を受けることがあります。治療の結果,自分に重い後遺障害が残った方は勿論のこと,家族を亡くした方の中には,「医師や看護師に対して自分がもっと強く症状を訴えていれば,家族は死ななくてすんだのではないか。自分にも責任があるのではないか。」と自分を責め,苦しむ人もいます。相談者は,この苦難をどうにかして乗り越えて人生を再出発しなければなりません。このような相談者に弁護士が助言できることは,以下のようなことです。

当然のことですが,ごく稀な例外を除いて,弁護士は臨床医療に関する専門的教育,研修を受けたことはなく,医療事故を取り扱う弁護士にしても,担当した医療事故の事案の断片的な知識をもっているにすぎませんから,相談内容が医療ミスといえるかどうかを単独で判定することは不可能です。依頼を受けた弁護士は,自分なりに勉強もしますが,カルテ,検査記録を中立的な医師に検討してもらって意見を求めることが不可欠であり,当該事案と類似する裁判例を検討するという手順を経て初めて「当該事案が医療過誤として裁判所が認める可能性があるか」の見通しを立てることができるに過ぎません。誰が見ても明白な医療過誤事案であれば医療機関はすすんで解決するはずです。医療機関側がミスを認めていない事案では,中立的な医師の意見を求めることなく医療過誤の事案を提訴する弁護士はいないはずです。以上の調査のためには,半年から1年程度の期間を必要とすることが多く,一定の調査費用(医師への謝礼,弁護士費用)が発生し,決して少額ではありません。調査の結果,見通しが困難との結論となり,提訴に至らないこともあります。その場合は,調査に要した費用は返ってきません。

見通しがあるということで提訴した場合でも,訴訟のための着手金,実費を必要です。また,あくまで見通しであって,確実な裁判の結果は誰にもわかりません。裁判とは,結局,裁判官の「全人格的判断」によるもので,「当たり外れ」が避けられず,たとえ担当弁護士が医療過誤の経験が豊富で有能としても,裁判の結果をコントロールできる余地は少ないのです。医療過誤訴訟の審理期間は,提訴後,一審で1年半から2年,控訴審で半年から1年,必要ですから,和解で解決できない場合は,たとえ勝訴するとしても3年程度の期間を必要とします。

以上のように考えますと,医療ミスではないかと悩む相談者は,弁護士に依頼するよりも,費用と時間を節約するため,まずは次のような行動をとることをおすすめします。

担当医療機関の院長あてに,「患者の治療の経過について主治医からご説明をいただきたい」旨を申し入れます。電話ではなく,必ず,手紙で普通郵便で送ります。内容証明郵便はいけません。文章は,礼節を保ち,決して,医療ミスだとか,謝罪,損害賠償を要求してはいけません。医師は,診療契約に基づいて治療の経過について患者に説明義務があることを自覚しているので,患者から治療経過の説明を求められれば,決して拒否しませんし,拒否できません。患者が法的責任を追及するような姿勢をみせて説明を求めますと,診療契約に基づく説明義務の要求という土俵を逸脱することになり,「医療ミスではありません。ミスとお考えなら訴訟にして下さい。」と言われ,説明を拒否する口実になります。この手紙には,いつまでに回答してほしい,という期限をつけることを忘れずに。

説明を求めたいけれども,担当医師と面談することじたいが苦痛,という人は,手紙の中で患者側が疑問と思う点を指摘し,期限を付して書面で回答を求めます。

担当医師に説明をしてもらうときは,担当医師の言い分,予想外の悪しき結果がやむをえない顛末であったことの弁明を十分に聴き取ることが必要です。医療ミスかどうかを客観的に判断するには,担当医師がどのような免責ストーリーを主張するかを知っておく必要があるからです。疑問点を指摘するのはよいが,責任追及的な態度にならないよう心掛けて下さい。説明を打ち切る口実を与えないように。許可を求めて録音するのは,建前的な説明しかしてくれなくなるので,無意味です。こっそり録音することは違法ではありませんが,医師側もきちんと理論武装して臨んでいますから,きちんとメモをすれば十分であり,録音にはそれほど意味はありません。

医師の説明で納得できる場合は,それに越したことはありません。どうしても納得できない場合は,改めて書面で,「説明には納得できないので,当該事案を医師会を通じて保険会社の審査にあげて下さい」という申入れをします。これだけで十分で,いろいろと書く必要はありません。医療機関は必ず医療過誤に備えて医師賠償責任保険に加入していますので,この申入れがありますと,ほとんどの医療機関は,医師会を通じて保険会社に事案を報告します。こうすれば,医療ミスかどうかの判定は,医師会と保険会社の顧問医による第三者の判定に委ねられます。第三者といっても十分に中立的とはいえず,医師側(できるだけ免責する立場)にスタンスを置いていますが,訴訟になれば敗訴の可能性が高いと判定されれば,有責との判断をしてくれます。その後は,保険会社の顧問弁護士から示談交渉の申入れがあります。もし,保険会社の審査の結果,医療ミスではないと判定された場合,この段階では,弁護士に正式に依頼するかどうかを考える必要があります。以上の様な手順をふむことで,弁護士に依頼しないで解決する事例があります。

落ち穂拾いの弁護士

Yさん。

随分昔のことになりますが,ある酒席で先輩弁護士から「貴方の事件は落ち穂拾いのような事件が多いね。」と言われたことがあります。親しい間柄でしたし,邪気のある人ではないので,立腹することはありませんでしたが,それにしてもひどい言いよう,と些か傷ついたものでした。

他の弁護士に断られたといって訪れる相談者の案件は,大抵の場合,勝訴の見通しが困難です。しかし,稀にではありますが,内容を仔細に検討し,聴き取りを重ねていくうちに,一見すると見通しが困難だったのに,当人が気づいていない重要な事実を発見したり,法律構成を工夫することで,法的保護に値する権利主張として組み立てることができることがあります。そのような事案を受任し,裁判官を説得することができて依頼者の期待に応えられたときは,報酬の多寡では測れない,弁護士としてのやり甲斐を感じるものです。

先輩弁護士が私に言った軽口の真意はともかく,他の弁護士が見過ごしてしまいがちな事案の隠れた真実や正義を発見できる弁護士という意味であれば,私は「落ち穂拾いの弁護士」でありたいと心掛けてきました。そのような弁護士を目標として弁護士人生を全うしたいと思います。

Yさん,あなたも私と同じ目標に向かって歩む同僚であってほしいと願っています。

「弁護士をお雇いになって下さい。」

Yさん。昨日,法廷の傍聴席で順番待ちをして,別の事件を傍聴していたのですが,裁判官の発言に軽いショックを受けました。

原告には代理人弁護士がついており,被告は60か70代の女性でした。裁判官は、訴状の請求原因に対する認否をかなり苦労しながらとった後,被告に対して「次回までに法テラスを利用して弁護士をお雇いになって下さい。」と数回,念を押すように発言されました。

その裁判官は,法科大学院世代の裁判官と思われましたが、法科大学院世代の裁判官にとっては,弁護士は「依頼する」ものではなく,「雇う」存在と認識している人がいるということです。旧司法試験世代の裁判官は,同じ状況において、そのような言い方はしないでしょう。一般社会でも,そのような言い方をする人が増えているようです。もしかすると,法科大学院世代の弁護士は,自分が依頼者に「雇われている」と言われても違和感をもたない人が多いのかもしれません。

Yさん。弁護士にとって依頼者は、その主張する権利や真実を全力を挙げて擁護するべき対象であると同時に、その主張する権利や真実を常に猜疑し続けて検証するべき対象です。そうでなければ社会的に公正な解決を追求することはできません。弁護士という職業につく者は、自分が関与する法廷において、相手方の訴訟活動だけでなく、自分の訴訟活動を同じレベルで批判の対象とし、虚偽が横行して真実が隠されるようなことを絶対に容認しない者でなければなりません。法科大学院の授業においても、修習生の指導においても、私はそのことを繰り返して話してきました。

Yさん。自分が依頼者に雇われる存在であるとみなして違和感をもたない弁護士は、訴訟活動のどこかぎりぎりの場面で真実義務を犠牲にする危険があります。あなたは、どうか、依頼者からそのように言われることを許さない弁護士であり続けますように。


依頼者との関係、準備書面の作成など

Yさん。私が心掛けている点をお話ししましょう。


1) 依頼者と弁護士との関係は、委任契約を締結するときが大切です。事件そのものの見通しについて、できる限り客観的な予測をたてることは勿論ですが、依頼者の性格や依頼者が弁護士、裁判官、裁判制度に何を期待しているかをみきわめる必要があります。 依頼者は、往々にして弁護士に対して一体的関与、サポートを期待し、また、裁判官の能力や裁判制度の公正さに対して過剰な期待をもっています。
 多くの依頼者を経験しますと、最後まで信頼関係を維持できるかどうか不安を感じる依頼者は、受任時にわかるものです。不安があるなら依頼を受けなければいいのですが、事件そのものは勝訴の見通しがあり、道義的な正当性もあるという場合、信頼関係の継続に不安があるという理由で依頼を断ることは困難です。そんなとき、私は委任契約の際に、次のような説明をします。

「私は、平均的弁護士が提供する質と量を超えた訴訟活動はできません。裁判官の能力は近時、ばらつきが大きくなっているため、訴訟はギャンブルの要素が大きくなっています。一応の見通しはありますが、事件の結果についてはいかなるお約束もできません。相手方やその代理人を非難する訴訟活動はしません。受任後、私が適切と考える訴訟活動の進め方や解決方針について、あなたが同意されない場合は辞任させていただくことがあります。その場合、着手金は全額お返しします。それでよろしければ依頼をお受けします。」
  以上の説明で依頼を断った依頼者はいません。しかし、そのように説明しても、受任後、訴訟活動の方針について意見が一致せず、着手金を全額返して辞任した例はいくつかあります。着手金を全額返す義務はありませんが、その依頼者とはいかなる問題も残したくないからです。

2) 依頼者が弁護士に話すことを,そのまま準備書面にしてはいけません。準備書面は,弁護士がその見識に基づいて作成する文書です。準備書面に記載することは,依頼者の陳述以外に何らかの裏付けを伴う主張に限る,という姿勢をもって準備書面を作成するべきです。 勿論,「裏付け」のある主張というのは,証拠資料の裏付けだけではなく,客観的事実や争いのない事実から合理的に推認できる場合の主張も含まれます。しかし,何の証拠資料もなく,かつ,諸般の事情から合理的に推認できる事実でもない事実を主張してはいけません。そのような主張で万が一にも事実認定能力やバランス感覚に乏しい裁判官を説得できるかもしれない、と期待して主張することは(ときに説得される裁判官がいるのは嘆かわしいことですが)、弁護士として恥ずべきことです。

弁護士の陥穽

 ゴーン氏の逃亡事件は一般の弁護士にとって重要な教訓である。弁護士は法律と法廷戦術の専門家である。法律解釈や法廷戦術の巧拙、事件処理の熱意には弁護士によって大きな差異がある。依頼者はその弁護士の力量や熱意に期待、信頼して依頼し、少なからぬ報酬を支払う。 もっとも、裁判官は、弁護士の個人的能力よって事件の判断に影響されないよう自戒しているので、弁護士の力量や熱意によって事件の結果が左右されることは少ない。これは刑事事件でも民事事件でも同じである。

 それはともかく、くれぐれも自戒すべき弁護士の陥穽がある。自分を選んで受任を求めてきた以上、依頼者は自分に心服し、コントロールできるはずであり、それが信頼関係である、という錯覚である。しかし、依頼者は、その弁護士の法律と法廷戦術を商品価値とみて利用するだけにすぎない。依頼者から「先生」と呼ばれることに慣れた弁護士は誰しも、自惚れから自由になることは難しい。依頼者から一歩、距離を置いた視点で事件処理するべき必要がここにある。弁護士は狡猾な依頼者に利用される存在になってはならない。くれぐれも自戒するべきことである。


法律相談で法テラスを紹介する場合

法律相談において,相談者の問題解決のために法テラスを利用して弁護士に依頼することが必要と認められる場合がある。そのような場合,私は,法テラスと契約していないので,相談者には,法テラスの無料法律相談を予約して弁護士に依頼するよう助言しているが,果たして予約日の弁護士が親切で有能か,不安がないではない。当たり外れが多いことは事実だからである。

法テラスのホームページをみると,法テラスと契約している弁護士で,事務所に直接,赴いて相談し,依頼できる弁護士の一覧表を公表している。そこで,最近では,上記のような相談者が訪れた場合,その一覧表のうちで,私が,この人なら大丈夫だろうという弁護士を数名,チェックして,この弁護士うちの誰かに電話して相談に行くよう助言している。相談者からは大変,感謝される。結果的に,弁護士を紹介するだけだから,相談料をもらうことはできない。

不貞行為の慰謝料 最判平成31年2月19日

不貞行為の相手方に対して慰謝料を請求する事件は,本来,裁判制度がとりあげるに値する紛争なのか,という疑問がある。最判平成31年2月19日は,この種の訴訟事件について,最高裁の裁判官がどのように考えているかが垣間見えるようで,興味深い。

同判決はいう。離婚による婚姻の解消は,本来,当該夫婦の間で決められるべき事柄である。従って,夫婦の一方と不貞行為に及んだ第三者は,これにより当該夫婦の婚姻関係が破綻して離婚するに至ったとしても,不貞行為を理由とする不法行為責任を負うことがあるのはともかく,直ちに離婚させたことを理由とする不法行為責任を負うことはない。

この判示が法律論として論じているのは,不貞行為に及んだ第三者は相手方の配偶者のいかなる権利ないし法的利益を侵害するのか,という問題である。夫婦は相互に貞操を守る義務を負うから,不貞行為に関与した第三者は,相手方の配偶者の貞操請求権の侵害に加担したことは間違いない。その限りで不法行為であり,慰謝料請求権が成立する。ただし,不貞行為があり,そのことが原因で夫婦関係が破綻したとしても(因果関係が存在する場合でも),直ちに,離婚させたことによる責任は負わないというのである。

最高裁の裁判官は,夫婦の一方に不貞行為があり,それが発覚したからといって,直ちに夫婦関係というものは破綻するものではなく,また,夫婦として軽々に破綻させてよいものでもなく,婚姻関係の継続の努力をするべきものと言いたいのであろう。相手方の配偶者が「一度だけでも不貞行為は決して許さない」として夫婦関係の破綻を主張し,実際,夫婦関係が破綻して離婚慰謝料を主張したとしても,そのような精神的苦痛は法的保護に値しないと言いたいのであろう。

この最判により,不貞行為によって認容するべき慰謝料の額について,従来の裁判実務が見直され,低額化をもたらす可能性がある。不貞行為に関与した責任とは,「不貞行為の相手方が貞操を守ることを求める相手方の配偶者の信頼を裏切ったことによる慰謝料」にすぎず,「平穏な婚姻生活が破壊されたことによる慰謝料」ではない。貞操を守ることを求める権利ないし信頼というものは,法的保護と道義的保護の境界にあるもので,法的強制になじまず,高額な慰謝料が成立することはありえない。この最判が,不貞行為を理由とする慰謝料請求訴訟が消滅する転換点となるなら結構なことである。

訴訟提起を依頼されたとき

依頼者から訴訟提起を依頼されたとき、弁護士は、権利義務関係を根拠づける証拠資料の説明を聞くことは当然だが、それだけでなく、依頼者と相手方との交渉経過を質問し、相手方の言い分、反論はどのようなものかを確認する必要がある。依頼者はどうしても自分に都合よく事実経過や証拠資料を解釈しているので、相手方の反論を確認しなければ、訴訟の見通しを立てることはできないはずである。
「あなたの言い分に対して相手方はどういう反論をしているのですか。」と依頼者に質問しても、要領を得ないとき、これは注意信号である。依頼者の言い分は一応、筋道はたっているが、相手方の反論に関して何の情報もないとき、このまま訴訟提起の依頼を受けてはならない。依頼者は、弁護士に重要な情報を隠している可能性がある。このようなときは、「まずは、私から相手方に書面を送って言い分を確認してみましょう。依頼を受けるかどうかはそれからにします。」と対応するべきである。

以上が原則であるが、依頼内容が保全処分を申請する場合は、悩ましいことがある。相手方の言い分を確認したために保全処分のタイミングを失うリスクがあるからである。しかし、相手方の言い分が全くわからないのに保全処分を申請すると、相手方から不当な保全処分として損害賠償を請求されるリスクもある。この場合は、代理人として相手方に直接、連絡することはできない。それでも、相手方がどういう反論をもっているのか、という点について、何の説明もできない依頼者は、やはり要注意であることに変わりはない。



以て瞑すべし

Yさん。

自分の依頼者が訴える真実や道理がなぜ裁判所で通らないのか,と悩んでいるのですね。
弁護士が依頼を受ける事件の多くは、依頼者の人生に切実に関わります。あなたも多くの弁護士と同様、いつも受任事件のことが頭を去らず、「もっと適切な法律構成はないか。依頼者の真実を明らかにするにはどうしたらよいか。」と考えていることでしょう。判決で期待した結果が得られなかったとき,別の弁護士が代理人になっていれば別の結果があったのではないか,と自問するとすれば,それは大変,辛いことです。あなたの弁護士人生の先は長いのですが,次のような姿勢を貫いてください。困難ですが,弁護士にはそれが要求されるのです。

ひとりの依頼者のために費やすことができる労力や時間には限りがあります。しかし,「この依頼事件のために,自分は,量的にも質的にも,自分が知る限りのまっとうな弁護士の平均的水準を上回る弁護活動を提供した。」という確信をもって口頭弁論の終結を迎えるようにして下さい。そうすれば,判決の結果は「以て瞑すべし」なのです。そのような姿勢で弁護士をしていれば,生涯に数件ではありますが,「私でなければ,おそらく,この依頼者の権利を守ることはできず,真実を明らかにすることはできなかったろう。」と一人だけで祝杯を挙げることができる事件があるものです。弁護士はそれだけで「以て瞑すべし」なのです。

特別受益の持ち戻し免除と預貯金債権

依頼者から,特定の不動産についてだけを遺言又は贈与で処分したい,ということで案文の作成を求められた場合,注意するべきことがある。依頼者は,預貯金をもっているだろうが,将来の遺産分割において遺産又は贈与された不動産が特別受益となり,持ち戻しの免除が問題となる。預貯金債権は当然分割という取扱だった当時は,持ち戻し免除を明記する必要性を意識することはなかったが,判例変更により,預貯金債権は当然分割されないこととなったので,預貯金債権が遺産中に残ることが想定される事例では,持ち戻し免除の意思表示をきちんと遺言書,贈与契約書に明記しておかないと,将来の遺産分割において持ち戻しの対象となり,預貯金債権の分割内容が依頼者の真意に沿わない結果となるおそれがある。公正証書遺言でも,これまでは公証人が遺言者に持ち戻し免除の意思を確認することはなかったと思われる。今後は持ち戻し免除の意思をきちんと確認しないと,公証人であれ,弁護士であれ,過誤の問題を生じると思われる。
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