良い訴状とは、裁判官が一読して事案の全体(勿論、原告からみた紛争の全体像)を理解でき、今後の審理において想定される主要事実レベルの争点、間接事実レベルの争点を的確にふまえた訴状である。さらに理想をいうと、裁判官が読んで、「これは原告にとってスジの良い事件である」、「原告を勝たせることがスワリの良い事件である」、と印象づける訴状である。

なお、実務家は「その主張はスジが良い」、「その認定、判断はスワリが良い」、という言い方を良くする。その意味は、主張事実が確実な証拠によって裏付けられているようにみえる、主張事実が常識に合致しているようにみえる、当該当事者の言い分を認めることが具体的妥当性に合致しているようにみえる、ということである。多分に感覚的、直感的、印象的な判断であるが、裁判官の心証に与える影響は少なくない。

具体的には以下の点に留意すれば良い訴状になる。
1 自然なストーリー
訴状において主張する事実の経過は、社会通念や常識に照らし、無理のない自然なストーリーの中で組み立てることが重要である。このストーリーは訴状で全てを語る必要はなく、その後の準備書面によって、次第に全貌を明らかにする。審理の経過を通じて、できるだけ首尾一貫したストーリーを維持する必要があるから(弁論の全趣旨として心証形成に影響する)、訴状作成の段階で、かなり詳細な事案の把握を必要とする。訴状の段階の事情聴取で事案の全貌が把握できたと考えても、その後の訴訟経過で軌道修正を余儀なくされることは多い。首尾一貫した主張をすることが重要な事案では、確実な証拠の裏付けのある主張から小出しにしていく、という訴訟方針を必要とする場合がある。

2 立証見込みのない主張をしない
自然なストーリーといっても、証拠が薄弱では無意味である。従って、主張事実は、〜茲い里覆せ実、⊂攀鮠紂¬税鬚併実、N証できると合理的な見通しのある事実によって構成されなければならない。

3 感情的なことは記載しない
訴状のなかで、ことさら提訴の正当性を強調したり、被告の不誠実を非難するなどの記載をするべきではない。依頼者には喜ばれるかもしれないが、相手方の攻撃感情を刺激して紛争を深刻化、険悪化させるだけであって、それによって裁判官の心証を引きつけることはできない。何より、法律文書としての品格に欠ける。ただし、事件によっては、提訴の目的や紛争経過における依頼者の行動が条理、社会正義、道義の観点からみて支持、是認すべきものであること、少なくとも、違法、不当ではないことを説明するべき場合もある。政策形成訴訟、一般条項の適用が問題となる訴訟がそうである。

訴状を作成するために依頼者と面接するときは、次の点に注意する。
1 面接の目的は何か
提訴を希望する依頼者と面接する目的は、まず、依頼者は提訴によってどのような利益を獲得したいのかを把握するためである。依頼者が提訴によってその利益の獲得を追求することが、条理、社会正義、道義の観点からみて支持、是認すべきものであること、少なくとも違法、不当でないことを確認しなければならない。例えば、依頼者の真意が、もっぱら提訴によって被告に復讐したり、困惑させることにある場合は、受任を控えるべきである。
次に、勝訴判決を獲得する合理的な見通し(証拠)があるかを検討するためである。以上の2点をクリアできなければ受任してはならない。

2 面接の方法
上記の面接の目的を達成するため、まずは、依頼者に「紛争の経過のひととおり」を語らせることが妥当である。ただ、多くの依頼者は、「紛争の経過を話して下さい。」と言うと、ここぞとばかりに話し始め、弁護士が遮らない限り、いつまでも話をやめようとしない。時系列や5W1Hは無視するし、話はあっちこっちに脱線するし、相手方や関係者をやたらに非難攻撃するし、紛争の全体像を容易に理解できないことが多い。短時間で要領よく面談を終えたいときは、依頼者に自由に語らせるのではなく、「私の質問したことだけに答えて下さい。」と言いたくなる。
しかし、話が脱線しないように適宜、軌道修正をすることは必要だが、できるだけ、依頼者に「紛争の経過のひととおり」を語らせることが大切である。それは、提訴によって依頼者が何を獲得したいのか、その真意、本音を観察することができるからである。それが妥当なものであれば、可能な限り、法的な請求として構成し、すくいあげる必要がある。もし、不当な目的が判明すれば受任を控えるべきことになるかもしれない。
また、弁護士の予断で事案の内容を割り切ってしまうと、重要なポイントを見逃すおそれがある。紛争には必ず、個性があり、定型的なパターン処理になじまない。
 ひととおり話を聞いたら、弁護士から質問する。質問のポイントは、依頼者の言い分が、社会通念や社会常識に照らし、無理のない自然なストーリーとして組み立てることができるか、合理的証拠により立証可能か、予想される相手方の反論や裁判官の疑問に答えられるか、という観点で質問する。ときには依頼者が触れられたくない点を聴くことになるし、依頼者の言動、価値観を批判し、考え方を改めさせる必要も生じる。依頼者の感情を理解し、共感することは大切だが、それは弁護士の最優先の考慮事項ではない。逆に、依頼者に安易な迎合をしていないか、事案処理にあたって真実を曲げていないか、社会的に是認されない目的や動機のために弁護士が利用されていないか、と自戒することがより重要である。