2014年04月17日

STAP細胞=Muse細胞仮説となぜ実験データの捏造が極めて重い罪なのか

さて、僕のこれまでに書いた解説記事や予想(別に当たれば金が儲かるというわけではありませんが)を簡単に自己採点しておきましょう。もちろん、理研がこれから1年以上かけてやる、というSTAP「現象」の実証研究プロジェクトの結果を待たなければいけませんが、笹井氏の会見でかなり色々なことがわかりました。

STAP細胞論文に関する笹井芳樹副センター長の会見時の資料について、独立行政法人理化学研究所、2014年4月16日




まずは、一連のSTAP細胞捏造疑惑のバックグラウンドを解説した記事です。

いまさら人に聞けないSTAP細胞と細胞生物学の基礎、2014年3月16日
いまさら人に聞けない小保方晴子のSTAP細胞Nature論文と捏造問題の詳細 その1 TCR再構成と電気泳動実験、2014年3月22日
いまさら人に聞けない小保方晴子のSTAP細胞Nature論文と捏造問題の詳細 その2 TCR再構成を否定した3月5日の理研の発表とコピペ問題、2014年3月29日
いまさら人に聞けない小保方晴子のSTAP細胞Nature論文と捏造問題の詳細 その3 テラトーマの画像使い回しとキメラマウスを作った若山さんが憤る、2014年3月31日

これらは専門用語の厳密性がちょっとないのですが、他分野の読者向けにはなかなか良く書けているし、現在のところ、間違いは報告されていません。これらの記事を書いた後に、博論のコピペばかりに言及していた文系学者の方々やジャーナリストの方々が、急に捏造問題の本質部分に目を向けはじめたので、今回の一連のSTAP細胞騒動の本質的な問題を、多くの一般読者に伝えることに成功した、と胸を張って言えるでしょう。ある程度の社会的意義はあったかと思います。

90点

STAP細胞は単なる仮説のひとつに戻った、2014年4月3日

自分で言うのも何ですが、笹井氏の記者会見の後にこれを読むと、なおさらのことよく書けています。笹井氏が言ってたことは、全体像としては、これと同じじゃないでしょうか。ただ、彼は、もう一度研究するだけの価値がある「有望な」仮説だとしましたが。

95点

「STAP細胞があるのかないのか」と言う問いの不毛さ、2014年4月14日

これは上のアゴラの記事の補足的な説明なので、それほど外しようもなく、無難な記事ですね。
理研が、今回のSTAP細胞捏造疑惑に関して、ほとんど調査しておらず、また調査する必要も感じていないことが、小保方氏、笹井氏の会見で明らかになったのですが、そうした理研の組織上の問題点を指摘しているのは重要だと思います。
間違いはなくても、リスクを取っていない無難な記事なので、自己採点は低めです。

70点

若山氏は小保方晴子にハメられるのか? 2014年4月15日

小保方氏と笹井氏はいまでもお互いに深く結ばれていて、若山氏に双方が責任を擦り付けようとしている政治的な動きは、かなり正確に予測できたと思います。

Q「実際に実験を見れば良かったのでは?」

A「見てディスカッションできれば、より深い指導ができたと思います。ただ若山氏のチェックが済んでいたので、それを飛び越すことは難しかった。ただ、生データを見る、ノートを共有すべきだったのかを改めて考えている」

笹井氏は、今回のSTAP論文は、ほとんどの実験が終わった後に、論文の文章を書きなおしたり、構成にだけ協力したと強調しました。実験の直接の管理者責任は、若山氏である、と暗に言いました。

80点

謎はすべて解けた!! それでも、STAP細胞は捏造です、2014年4月10日
Corrigendum(論文訂正): 2014年4月10日付『謎はすべて解けた!! それでも、STAP細胞は捏造です』、2014年4月13日

これは小保方氏の会見を受けて、わからないことを僕の想像力で補完して、外れるリスクをかなり取りにいった、科学者なら書けない、証券会社のアナリスト的な、大胆な推理の記事です。あの時点で、小保方さんの「200回以上成功」の意味は多くの人がわかっていなかったので、これを概ね当てたのは、評価に値します。

しかし、今日の笹井氏の会見を受けて、ES細胞混入だったいう点は、彼らも一番最初に考えることで、その可能性はかなり潰していると感じました。少なくともSTAP幹細胞ではなく、増殖能力がない(それゆえに医療への応用は難しい)STAP細胞に関しては、単純なES細胞混入じゃないかもしれない、という可能性もそれなりにありそうです。

笹井氏は必死にES細胞「混入」ではない、と言っていましたが、小保方氏の「すり替え」だという仮説はどうなんでしょうか? 僕は、すり替え疑惑は、最初から最後まで全部と言わないまでも、まだ極めて有望な仮説だと思うのですが、なぜ、笹井氏が混入、混入と言って、すり替えとは一言も言わなかったのか、現段階では分析しかねています。まだまだ不明な点が多く、自己採点は暫定的に厳し目にしておきましょう。

70点


STAP細胞捏造事件の新たな最有力仮説=Muse細胞?

なぜ、笹井氏は会見でこの可能性に言及せず、また、記者たちもつっこまなかったのか、理解に苦しみますが、小保方氏がやっていた実験プロセスは、成体に僅かに残っている多能性幹細胞をスクリーニングしていたに過ぎなかったのではないか、という可能性があります。

STAP細胞を作るプロセスというのは、すでにヒトで確認されているMuse細胞とそっくりなのです。Muse細胞に関しては、以下の記事を参考にして下さい。

・・・翌日、培養室に戻ってきたら、普通は培地がピンクなのに黄色なんです。細胞は消化酵素の中に12時間以上漬けられていたためほとんど死んでしまっていました。ショックでしたねえ。ただ捨てる前にもう一度チェックする癖があって、のぞいてみたら、わずかに生きている細胞がいたんです。なぜこの細胞は生きているんだろう、なにか発見できるかもしれないと、ダメでもともとと遠心分離器にかけて集めた細胞をゼラチン上で培養したところ、多能性幹細胞だったんです。
共同研究者の藤吉教授とこの細胞を「Muse(ミューズ)細胞」と名付け、2010年4月に発表したところ、「第3の多能性幹細胞」などとマスコミでも取り上げられました。

生命科学DOKIDOKI研究室 第9回 がん化の可能性が低い多能性幹細胞「Muse細胞」を発見東北大学 出澤真理教授


しかも、小保方氏は、Muse細胞の追試を自分でやっています。

「メディアはほとんど指摘していないが、小保方さんは博士論文で、2010年に出た黒田論文(黒田康勝・東北大学大学院助教)にある、ヒトの骨髄や皮膚の細胞から誘導される多能性幹細胞『Muse細胞』(※注)の追試をやっていたようだ。

しかし、追試だけでは話題にならないので、『完全に体細胞になったものでも同じことができる』と主張した。理研に移ってから、それが『分化しきった体細胞がリセットされてSTAP細胞という万能細胞になる』という論文に化けた。もとは黒田論文の真似なのです。

【※注】もともと細胞内にわずかに存在し、皮膚や筋肉、肝臓などのさまざまな細胞に分化できる幹細胞。2010年に東北大学の出澤真理教授が発見し、藤吉好則教授が命名した。

週刊ポスト2014年4月18日号


若山氏は、非常に誠実な研究者なので、ES細胞混入の可能性も、当然、このMuse細胞という可能性も考えていたでしょう。しかし、若山氏は、リンパ球由来のTCR再構成が確認されたSTAP細胞だと言われて、キメラマウスの実験をしています。

ところが、小保方氏と笹井氏が、3月5日に急にTCR再構成が確認できていないと発表して、その直後に博士論文のぜんぜん違う実験のテラトーマ写真の流用が発覚し、これらを受けて、論文撤回という非常に重い決断をしたわけです。この点でも、STAP細胞というのは、若いマウスのMuse細胞的な幹細胞を、単にスクリーニングしている可能性が高いと思われます。その心配していたことは、若山氏は、TCR再構成で自信を持っていました。しかし、急にそれを共同研究者が覆しました。こうして、論文の根幹となるデータに全く信頼がおけなくなったわけです。

現段階では、ES細胞すり替え仮説の他に、マウスのMuse細胞的な残留幹細胞スクリーニング仮説がかなり有力なように思います。笹井氏が検証するだけの価値があると言うSTAP現象仮説の可能性も、ゼロではありません。僕はその可能性は低いと思っていますが。笹井氏自身も、今回の研究は、最後の最後に論文の体裁を整えるために加わっただけで、俺は関係ない、と終始主張しているので、実際のところすでにSTAP現象仮説には自信がないんでしょう。

というか、そもそも論としては、STAP現象の仮説を一から確かめようとか、そんな呑気なこと言ってないで、すでに過去に起きた研究不正を理研は徹底的に調査するべきなのですが、そうしたことは行われておらず、またその必要性も感じていないようです。とほほ。

いずれにしても、笹井氏の言う通りに、STAP現象は仮説に戻ったのであり、すでに人間で成功しているMuse細胞と比べても、医療応用の点では、楽観的に見ても、STAP現象(仮)は前途多難でありましょう。そもそも、まだマウスですら実証できていない現象です(小保方氏のNature論文は、アイディアを提示する論文ではなく、実証研究であり、その実証の過程に捏造データが発覚して、完全に失敗しているのですから、共著者たちが撤回しようとしているわけです)。一般メディアが騒ぐほどの科学研究ではありません。笹井氏の大げさなアピールと、リケジョの珍しさに乗せられすぎです。なぜ、みんなこんなに騒いでいたのでしょうか? 僕はとても不思議です。

笹井氏も自ら言っています。マスコミが勝手にSTAP現象=夢の万能細胞と勘違いして騒いだだけじゃないか、と。俺たちは最初から、あくまで基礎的なマウスの研究段階で、実用性を目指したものでないと、ちゃんと強調したじゃないか、と。マスコミって本当にアホだな、と。
(笹井氏、華麗な開き直りですwww)

1月のプレスリリースの際に、あくまで基礎的なマウスの研究段階での発表であり、実用性を目指したものでないことを強調しました。補足資料の説明では、京都大学iPS細胞研究所の皆様と山中教授にご迷惑をおかけしました。資料の撤回をしたところであります。

この補足資料ではiPS細胞とSTAP細胞では後者の方が効率が良いように書いてありましたが、実際にはそんなことはなく、京都大学iPS細胞研究所と理研は協力関係にあり、今後もそのように進めていきたいと思っております。

Q「笹井さんはSTAP細胞論文の作成に関して、iPS細胞を発見した山中氏への対抗意識はあったのか?」

A「そうしたことはありません。山中先生と僕は強い信頼関係を持っているし、山中先生は僕が京都大学を辞めた後に受け継いだ方で、非常に素晴らしい方が継いだと喜んでいました。こうしたことから、iPS細胞の有用度の高さは非常に強く感じていました。iPSは100歳の高齢者の方からも作れますが、STAPは今のところマウスだけで全然違う。iPSとSTAPは原理が違うので、STAPはiPSとは違う使い方できるということを強調したかった。ただ、補足資料では間違った比較数値が入っていたので、2月に謝罪しに行ったということであります」


STAP細胞、改めSTAP現象は、地味な学問的な仮説に戻ったわけです。仮説に戻ったというと聞こえはいいかもしれませんが、要するにゼロになった、ツチノコと同じになった、ということです。笹井氏は研究実績は一流ですが、研究プロジェクトのマネジャーとしては無能だということが国内外に示されました。降格でしょう。また、理研は組織として、危機管理能力がゼロで、またそれを改善する意思もないことが明らかになりました。今後、税金を注入し続ける正当性が問われます。

小保方氏が少なくともいくつかの実験データを捏造したことは事実で、今後、STAP現象が実証されようがされまいが、小保方氏の罪は変わりません。博論など、他の研究でも様々な不正が見つかっており、研究者を続けるのは極めて困難だと思います。
(だって、研究者が論文の査読を頼まれて、その論文の著者にHaruko Obokataって書いてあったら、読まずに、「実験データが信用できない」と言ってRejectするでしょ。僕なら間違いなくそうするw)

実験データの捏造がどれほど罪が重い行為かというのは、奇しくも、直属の上司やとなりで研究していた共同研究者でさえ、いまだに何が起こって、何が本当のデータで、何が嘘のデータなのかが把握できていないことで、明白になったでしょう。

コンビニの棚に100本のジュースが並んでいて、その中の1本に毒が入れられたと想像して下さい。正しくないジュースは、この1本だけですが、そのために残りの99本も全て無価値どころか、マイナスの価値になってしまうのです。

こうした大きな研究プロジェクトで、ひとりでもデータを捏造する人が混じると、共同研究者さえ、どういう現象が起こっているのか、さっぱり理解できなくなるのです。それゆえに、全てが無駄になってしまいます。

これはそっくりそのまま、理研という組織、あるいは日本という国の科学技術論文の信用問題にもなります。1通でもそのような捏造データに基づく論文があると、理研全体の論文が信用されなくなります。そして、日本から出る論文も信用されなくなってしまうのです。

kazu_fujisawa at 02:00|PermalinkComments(24)TrackBack(1)│ │徒然草 

2014年04月15日

若山氏は小保方晴子にハメられるのか?

4月9日の記者会見では、小保方晴子は、ひたすらと科学に明るくない国民、つまり95%以上の国民に向かって話し続けた。逆に、世界中でSTAP細胞を再現しようとして、失敗してしまった、幹細胞研究の専門家たちには、何ひとつ新しい情報を話さなかった。つまり、新しいデータは何一つ示されず、全ては彼女の耳触りのいい言葉だけが垂れ流されたのである。これでは科学者ではなく、まるで政治家だ。

ところが,国民の多くが、彼女の言葉に聞き入り、そして卓越した表現力に見入った。インターネット調査などによると、なんと半数以上の視聴者が、彼女の「STAP細胞はありまぁす!」という言葉を、そのまま信じるとの調査結果になった。



僕はこうした大衆の、感情に頼り、まったくファクトを見ない態度にいささかうんざりしたのだが、それでも、これでSTAP細胞捏造問題はひとまず収束してくれるだろう、と思った。理研の調査委員会が捏造と判断した事柄について、彼女が何ひとつ具体的なデータを示して反論することができなかったからだ。

実験データの捏造というのは科学者としては致命的な不正行為であり、今後は理研が懲戒解雇という判断を下すと思われる。そうした将来の労働裁判に先立ち、少しでも世論を自分の味方に付けておきたい。だからこそ、このような会見を、よく弁護士と練って構想したのだろう。結果的には、たった1回の記者会見で、国民の多くの支持を得たのだがから、本当に大したものである。

しかし、彼女の捏造の悪質性、そして、彼女が研究者を続けられるかどうか、というのは結局は科学社会が判断することであり、専門家同士のピアレビューで成り立つ科学社会においては、こうした大衆の支持はそれほど大きな意味を持たないだろう。

労働裁判では、本人は建前としては、いまの組織に残り同じ仕事をやりたい、と主張することになるが、結局は金の問題になるだけである。つまり、STAP細胞捏造問題は、単なる一研究者の雇用問題となり、些末なこととなった。こうして僕は、この2ヶ月以上も吹き荒れ続けたSTAP細胞騒動も、とうとう収束し、いずれは忘れ去れて行くのだろうと思った。そして、安堵した。

あの主要局全てで生中継され、異様なほどの国民の関心を集めた記者会見は、多くの科学者やジャーナリストたちの当然の批判を呼び起こした。そして、本日、それらに対する反論を、弁護士が文章にして発表したのだ。

一読した後に、あのような感情に訴える会見は、小保方氏の声色、表情、仕草などが伴ってはじめて、多くの民集の心を掴むのであり、それが弁護士の理路整然とした文章に落とされてしまっては、まるで説得力を持たない、と思った。

主な反論は次のようなものだった。まずは、200回以上もSTAP細胞作製に成功したと繰り返したが、これは僕が思った通り、単に細胞のある種の発光を確認しただけであったし、実験ノートがないことから、200回という数字自体に全く根拠がない。次に、第三者がSTAP細胞作製に成功したという発言に対して、名前は公表できないが、理研も認識している、と反論していた。しかし、STAP細胞作製に成功することの定義が、単に細胞の発光を確認するだけなら、すでにこれを確認したのが誰だろうと、科学的にはあまり意味のない話だ。

つまり、小保方氏の言い分は、論理的な文章で読むと、一層のことその破綻ぶりが明らかになるのだった。やはり、一連のSTAP細胞騒動は終わった。しかし、僕が次の文章を目にしたとき、その考えは変わった。そして、あまりの恐怖に、戦慄した。

【 STAP幹細胞のマウス系統の記事について】

2013年3月までは、私は、神戸理研の若山研究室に所属していました。ですから、マウスの受け渡しというのも、隔地者間でやりとりをしたのではなく、一つの研究室内での話です。この点、誤解のないようお願いします。

STAP幹細胞は、STAP細胞を長期培養した後に得られるものです。長期培養を行ったのも保存を行ったのも若山先生ですので、その間に何が起こったのかは、私にはわかりません。現在あるSTAP幹細胞は、すべて若山先生が樹立されたものです。

若山先生のご理解と異なる結果を得たことの原因が、どうしてか、私の作為的な行為によるもののように報道されていることは残念でなりません。

小保方氏が発表の文書 全文、NHKニュース、2014年4月15日


これほどの恐怖を感じたのはいつぶりだろうか。僕の中で、会見での小保方氏の不自然な発言や、科学者としては、自ら墓穴を掘るような文章が、これで全てつながったのだ。

小保方氏は「STAP細胞はあります」と何度も言った。そして「200回以上も作製に成功している」とも言った。その成功の定義は、この文章で図らずしも、ただ細胞が発光しただけであり、多能性のチェックは全く行われていないことが発覚した。STAP細胞が捏造である、と強く信じている多くの識者が、事前に指摘していた通りだ。これでは、彼女が何度も会見で、「私は不勉強だ」と繰り返したように、この分野の専門家としての知識レベルを疑われるだけだ。ますますSTAP細胞が捏造である、という確証が増えたのである。

「私の不勉強、不注意、未熟さゆえに論文に多くの疑念を生み、理化学研究所および共同執筆者の皆さまをはじめ、多くの皆さまにご迷惑をおかけしてしまったことを心よりおわび申し上げます」

彼女は、会見でこのように述べ、涙を流しながら謝罪した。これがとても真摯な姿勢に見え、大衆の心を掴んだ。しかし、彼女は、STAP細胞の作製に成功するというのは、死にかけた細胞の自己発光か、Oct4-GFPの発現かどちらかはわからないが、単に細胞が発光しただけだということを自らも認めているのだ。これでは、自分で自分の研究がインチキだった、と言っているようなもじゃないか。しかし、なぜ?

ここで一気に小保方氏の恐ろしい策略が浮き彫りになるのである。小保方氏以外の共著者たちは、みな各分野での一流の研究者である。細胞の発光を確認しただけで、それが万能細胞であるという論文を発表するわけはない。なぜ共著者たちは、小保方氏の作ったSTAP細胞が、確かに万能細胞であると確信したのか? それは若山照彦氏が、キメラマウスの作製に成功したからだ。

しかし、若山氏が小保方氏から受け取ったSTAP細胞は、じつはSTAP細胞を作ったとされるマウスのものではなく、ES細胞をよく作るマウスのものだった。これは小保方氏が行った様々な画像の捏造などが発覚した後に、若山氏が自ら第三者機関に依頼してDNA解析をして発覚したものだ。これは、今回のSTAP細胞が、全て完全な捏造であるとする、極めて強力な証拠となった。

小保方氏が、どこかでSTAP細胞と偽り、ES細胞を若山氏に渡したのではないか、との推測が多くの専門家の間に広がった。両方共に万能細胞なので、それらを簡単に区別する方法はない。若山氏は、ES細胞からキメラマウスを作り、そして他の共著者全てが、今回のSTAP細胞は本物である、と誤認してしまった。そして、笹井芳樹氏が主導しながら論文をまとめたのである。これが今回の一連のSTAP細胞捏造問題に対する、多くの専門家の見方だ。



ところが、小保方氏は、当然のようにこのES細胞にすり替えた部分を全否定して、違う系統のマウスの細胞にすり替わったのは、完全に若山氏の責任である、と堂々と主張しているのだ。若山氏がキメラマウスを作れなければ、当然、STAP細胞が作製できた、と皆が信じることはなかった。つまり、小保方氏の主張は、今回の一連の捏造事件の根幹部分は、若山氏のエラーが引き起こした、と言い切っているのである。それが故意なのか、過失なのかは別にして、若山氏こそが、今回の捏造事件の主犯なのだ。

こう考えると、小保方氏の不自然な発言が全てつながるのである。私はみんなに迷惑をかけてしまうほど「不勉強な」研究者である。「未熟な」研究者である。だかこそ、STAP細胞作製に成功したというのは、単に緑色に光る細胞を作ればいいと勘違いをしていた。つまり、過失だ。故意ではない。よって研究不正でもない!

その後は、若山氏が、不勉強で、未熟な自分にはよくわからない実験をしてくれて、それから笹井氏が論文を書いてくれた。つまり、偽のSTAP細胞に信ぴょう性を持たせたのは、若山氏が、故意か過失かは知らないが、ES細胞のことをSTAP細胞と信じて、キメラマウスを作ったからだ。悪いのは完全に若山氏である。

小保方晴子は、自らを理研に招き入れた恩師であり、世界ではじめてクローンマウスを作ることに成功した、この純朴で誠実な若山照彦という世界的な研究者に、今回の捏造事件の全ての罪を被せることにより、自らの潔白を証明しようとしているのだ。

やれやれ、STAP細胞騒動は、まだまだ終わりそうにないな。メルマガには、背後の人間関係の分析でも書くことにしようか。

2014年04月14日

「STAP細胞があるのかないのか」と言う問いの不毛さ

文系脳で、物事は0か1で割り切れると思っている人たちは、こうした問いを立てて、今回のSTAP細胞捏造問題を理解しようとしています。そして、STAP細胞があったら小保方晴子氏の逆転大勝利、みたいな展開を期待していると思います。それは絵的にエキサイティングな展開になるので、多くの科学研究に明るくないテレビ視聴者もテレビ番組の製作者も、そのような期待をするのもうなづけます。しかし、これは正確な表現ではありません。

僕自身も、ブログは一般読者向けに書いているので、時にそういう表現を使って、記事をまとめたりしていますが、現実は0か1の間にあります。現段階では、本当に全くの0である確率はかなり高いと思われます。楽観的に見ても、限りなく0に近いでしょう。ちょっとわかりやすく解説するために、スケールを100倍してこの問題を整理しましょう。

まずは、100点のSTAP細胞というのは何か、というと、それはNatureで発表された通りのSTAP細胞です。つまり、酸に30分程度漬けるだけで簡単に作れる。特殊な培養液に浸せば、自己増殖能力があるSTAP幹細胞になるので、将来の医療への応用も可能である。これらから、既存の多能性幹細胞を作る技術であるES細胞や、iPS細胞より遥かに優れている。

現段階で、すでにこの可能性はゼロです。世界中で、Natureの方法で再現実験を試みましたが失敗しました。3月5日には、小保方氏に理研の共同研究者がヒアリングして詳細なレシピを発表しましたが、このレシピでも、世界中で再現実験に失敗しました。理研でも再現実験に成功しておらず、小保方氏は体調を崩したと言って、ずっと勤務していません。
(世界中で多くの研究者の時間と研究費が浪費され、大量のマウスが実験で犬死にならぬ鼠死にしてしまったと思うと、胸が痛いです)

以前にも書きましたが、つまり、現時点ですでに、万能細胞を作る方法としては、100歩譲って仮にSTAP細胞があったとしても(いまのところ世界中の誰もできない)、それは100点満点中10点以下のSTAP細胞であって、応用を考えると、すでに将来は明るくないことがわかっているわけです。幹細胞を作る方法としては、幹細胞研究者なら興味を持つかもしれませんが、どれほど楽観的に小保方氏を信じても、一般紙が話題にするような研究結果ではすでにないわけです。

現時点で、Nature論文は再現性がゼロで、これ自体がすでにめちゃくちゃ困ったことですが、さらに研究の本質部分の実験データの捏造が発覚しており、Natureの論文にはSTAP細胞が作られたことを示す証拠が何一つ残っていない状況になりました。つまり、科学的には、この論文はすでに死んでいるのであって、共著者全ての同意による撤回が一番いいのですが、時間の問題で、Natureの編集部が撤回するでしょう。

この段階で、科学社会の常識に照らし合わせれば、STAP細胞があろう(>0)がなかろう(=0)が、科学者としての小保方氏の処遇にはほとんど影響を与えないはずです。また、捏造などの研究不正と言っても0か1ではなく、程度問題なんで、まあ、Nature論文は大げさだったけれども、せめて60点のSTAP細胞があったら、まあ、その辺の間違いは大目に見よう、と思っていた科学者たちも3月上旬ぐらいまではいたのですが、その後に発覚した様々な捏造問題で、まともな科学者全員が完全にアウト判定になったと思います。

じつは、再現性が乏しく、質が良くなかったり、自己増殖能力が弱くて、医療への応用が不可能な多能性幹細胞(万能細胞は一般向けの不正確な呼び名)の作り方は以前にもいろいろ報告されており、現段階では、STAP細胞があったとしても、最高でもその程度の話でしょう。我々の税金を注ぐなら、すでにマウスではなく、人間で見つかっている、ミューズ細胞のほうが、遥かに有望です。こちらも我国の東北大学が発見した画期的な「万能細胞」です。

いま理研でやっているSTAP細胞再現プロジェクトと言うのは、そういう話であり、今週、予定されている笹井芳樹氏の会見で、彼はまだSTAP現象があるかもしれない、と言っているわけですが、そう言うレベルの話だと思って聞いた方がいいでしょう。

小保方氏の指導役「STAPは本物の現象」来週会見へ、朝日新聞、2014年4月11日

ふつうの能力がある研究者なら、STAP細胞みたいな博打的なテーマで研究しても、途中でいくつか面白い現象を見つけて、そこそこの論文を何通か書いて、最初の狙い通りには行かなくても、プロジェクトを軟着陸させられます。たとえば、今回の小保方氏のSTAP細胞の研究だったら、万能細胞ができているわけじゃなくても、酸に晒すとOct4-GFPが発現するというなら、その詳細を調べれば地味な論文は書けるし、マウスのミューズ細胞みたいなものを取り出す方法を見つけたら、それはそれでかなりいい論文が書けるはずです。しかし、小保方氏は、最初のひとつかふたつのいい実験結果を見て、後は究極のゴールに、科学者としては職業生命が終わるレベルの捏造をしながら到達してしまったのではないか、というのが僕の推理ですね

理研というのは、ふつうの民間の会社と違って、基本的に自由に研究する主任研究員たちの寄せ集めで、危機に弱いというか、危機が起こるとほとんど何もできない組織なので、あまり今回の捏造事件を調査しよう、という気がありません。そんな後ろ向きな、自分の研究キャリアに役に立たないことを自発的にやりたいという研究者はおらず、会社のように所属研究者に上司が命令して調査に当たらせる、という命令系統みたいな仕組みがそもそもないんじゃないか、と思います。

ということで、いまのままでは、理研が何か、今回の事件を捜査してくれる、と期待するのは無理なような気がします。というのも、理研の新たなSTAP現象を見つけるプロジェクトでは、小保方氏が残しているサンプルのDNA解析(これをすればどこの研究室からパクったES細胞だったかまで同定できるはず)などはやらないそうで、今回の捏造事件の捜査ではなく、研究者の興味に基づく基礎研究をやりたいだけなのでしょう。とほほ。

この問題に早くケジメをつけて、日本は研究不正をする研究者は決して許さない、という態度を世界に示して、日本から出る学術論文の信頼性を早く取り戻すべきでしょう。そして、マスコミも早くこのSTAP祭りを終わらせるべきでしょう。世の中には、もっと重要なニュースがたくさんあります。

kazu_fujisawa at 06:25|PermalinkComments(31)TrackBack(0)│ │徒然草 

2014年04月13日

Corrigendum(論文訂正): 2014年4月10日付『謎はすべて解けた!! それでも、STAP細胞は捏造です』

4月10日付で発表した、一連のSTAP細胞捏造事件に対する筆者の仮説についての以下の論文:

謎はすべて解けた!! それでも、STAP細胞は捏造です

について訂正があるので報告します。
筆者が当時知りうる情報に基づき、最善の努力をして執筆した記事ですが、その後、一部の記述が間違っている可能性が高いことが判明しました。

小保方氏が会見で何度も繰り返した「200回以上(STAP細胞作製の)実験に成功した」という発言には、何らかの根拠があるのではないか、と筆者は考えました。そして、これはおそらくOct4-GFP発現のことではないか、と推理したわけです。

しかし、複数の同分野の研究者から、それでも200回以上は多過ぎる、という指摘を受けました。理由は以下の通りです。

(1) もし本当なら、マウスや試薬の搬入や廃棄の記録が理研に残っているはずだから、たとえ実験ノートが3年間で2冊しかなかったとしても、トレース可能であるが、そういった記録が全く出てきていない。

(2) たとえOct4-GFP発現だけでも、1回の実験に3日以上かかることから、成功率が100%でも、やはり時間的に非常に難しい。

(3) そもそも200回以上もSTAP細胞を作る必要はなく、こうした研究では、数回程度で十分である。

そして、まだSTAP細胞が世界から称賛を集めていた頃の毎日新聞の記事が、2chやTwitterで再び話題になっているのを目にして、やはり筆者の推理は間違っているという結論に達しました。

大学院生だった08年夏。半年間の予定で米ハーバード大の幹細胞研究の権威、チャールズ・バカンティ教授の研究室に留学した。帰国が迫ったころ、小保方さんは「骨髄細胞を使った幹細胞の最新研究」について発表することになった。1週間ほとんど寝ず、関連する論文約200本を読んで、発表に挑んだ。
万能細胞:祖母のかっぽう着姿で実験 主導の小保方さん、毎日新聞、2014年1月29日

筆者自身もかつて研究者だった頃にかなりの数の論文を書きましたが、ひとつの研究で200本も論文を読み込むのは、決して有り得ない数字ではないのですが、やはり多過ぎると思います。通常の研究ですと、30本ぐらいの関連論文のPDFを落としたり、印刷したりして読みますが、重要なものは10本程度に収まるのがふつうで、やはり200本というのは、相当におかしな数字だと思います。

それに1週間で200本も英語の論文が読めるぐらいの英語力なら、あのコピペの博論はないでしょ、と思うわけです。

つまり、小保方晴子氏が言う「200」とは、「すごく多いんだぞ!」ぐらいの意味合いの言葉だと推測するのが妥当だと思われます。もっと噛み砕いて言うならば、子供が「俺、アメリカに200回行ったことあるぜ」みたいに言ったり、自称ナンパ師が「そうだなぁ、いちいち数えてないけど、200人ぐらいはやったかな」と言ったりする、そういうニュアンスではないか、と。

以上から、200回以上実験成功というのはOct4-GFP発現を意味する、という推理は誤っている可能性が非常に高いと思われます。

現段階では、それ以外の部分についての誤りは見つかっておらず、論文の根幹部分は揺るぎないものと信じております。

kazu_fujisawa at 23:59|PermalinkComments(6)TrackBack(0)│ │徒然草 

2014年04月12日

分子生物学を秒速でマスターするための本3冊

僕は、高校生のときは生物が一番好きで(単にとてもいい先生だったので)、物理が一番得意だったんですが、僕の記憶が確かなら、センター試験は物理と生物では受験できない学科が多く、必然的に物理と化学を選んだように覚えています。それで大学に入ってからは工学寄りの物理を専攻していて、大学生のときはアルバイトでプログラマをやっていたし、大学院では実験チームと協力しながらスーパーコンピュータを使ったシミュレーションをやっていたので、コンピュータ・サイエンスや応用数学は少々かじった、みたいな感じですね。その後は金融工学恋愛工学と興味が移って行くわけですが。恋愛工学では進化生物学は非常に重要なので、この分野の生物学には明るいのですが、細胞の働きを理解するために必要な分子生物学はぜんぜん勉強していない、という状況でした。

ところで、僕の昔のスーパーコンピュータに関する記事を読み返していて、なんであの蓮舫がSTAP細胞捏造問題で、急に小保方晴子を応援して理研を叩くみたいな明後日の方向から乱入してきたのかわかりました。蓮舫って、あの民主党の仕分けで「2位じゃダメなんですか?」と言って、理研のスーパーコンピュータ・プロジェクトの予算を削ろうとして、ノーベル学者の野依理事に詰めてた人だったんですね(笑)。

スーパーコンピュータと核兵器と私、2009年11月27日
日本のスパコン開発はとても複雑で深刻な問題である、2009年11月29日

ということで、分子生物学や細胞生物学は全く僕の専門ではありませんので、今回のSTAP細胞捏造問題にブロガーとして参戦するために一から勉強したのですが、やっぱりこういう違う分野を勉強するにはニュートンムックが最高によく出来ているな、と思った次第です。特に以下の3冊は、ものすごくイラストが綺麗で、この分野の勘所が秒速でマスターできます。

   

細胞のしくみビジュアル図解―ミクロの世界の巧妙な生命装置 (ニュートンムック Newton別冊)
DNA―すべての生命をかたちづくる設計書 (ニュートンムック Newton別冊)
iPS細胞―夢の再生医療を実現する (ニュートンムック Newton別冊)

他分野のことを勉強したかったら、最初に読むべき本は(もしあれば)ニュートンムックで決まりでしょう。

先日の記事にも書きましたが、今回のSTAP細胞捏造事件の大変有益な副産物は、日本国民の科学教育に大きく貢献したことです。

リケジョの星だった小保方晴子氏のSTAP細胞捏造疑惑で世界中が大騒動、幻冬舎Plus、2014年3月28日

現在、日本国政府はバイオ関連の基礎研究に莫大な国家予算を投じており、今後10年、20年のスパンでは面白いバイオ系ベンチャー企業が多数産まれてくるでしょう。ビジネスや投資においても重要になりつつあるこの分野の勉強をするいい機会を、小保方晴子氏は我々に与えてくれたのだと考えないと、この日本の科学研究の信頼性を失墜させた今回の不愉快な事件に、どうにも前向きになれないのではないでしょうか。

kazu_fujisawa at 14:13|PermalinkComments(10)TrackBack(0)│ │読書&映画感想文 | 徒然草