金融日記

藤沢数希が運営するブログ。
金融・経済、Web関連ビジネス、書評、科学、恋愛工学などについて。

2010年02月

将来、金融業界で働きたい学生や、すでに働いている真面目な人々もこのブログを読んでくれているようなので、今日はお勧めの教科書をいろいろ紹介したいと思います。

デリバティブ・プライシング理論 Derivatives Pricing Theory



このハル本はこの分野のバイブルといわれており、デリバティブ関連の仕事をしている人やオプション理論を使っている人は、みんな一冊持っています。
デリバティブの分野では世界の標準テキストとしてNo.1の地位をゆるぎないものにしていますね。
確かに幅広い分野を網羅しているし、版を重ねるごとにクレジット・デリバティブやエネルギー・デリバティブなどの新しい話題を取り込み、どんどん洗練されていっています。
非常に丁寧な解説で間違いなくお勧めの一冊ですね。
しかし、この教授はこの本で一体いくら稼いだのでしょうか?
印税だけで億単位のお金を稼いでいることは間違いなさそうです。
うらやましいですね。

デリバティブの世界はもちろん英語なので、原著を読むことを強くお勧めしますが、日本語訳も出ています。



あと、日本語で軽く読める本として、次の本をお勧めしておきます。
多少エクイティにかたよっていますが、実際に現場ではどういう風に取引されているのかというのが背後の理論とともにわかりやすく解説されています。



以前の書評


現代ポートフォリオ理論 Modern Portfolio Theory

この分野でこれはって教科書は残念ながら知らないですね。
Modern Portfolio Theory and Investment Analysisなんかは標準的な教科書としていいとは思いますが、ポートフォリオ理論って教科書に載っているような形では実際にはまず使わないのですよね。
その辺の事情は拙著でも書いたのですが。

僕としては、この分野はBarraとかのモデル・ベンダーの営業用の資料の方が教科書よりだいぶ役に立ちました。

いい教科書をみつけたら報告しようと思います。


企業価値評価 Corporate Valuation

この分野をまじめにやろうと思うと会計に詳しくならないといけないと思われますが、そこまで専門じゃなくてもやっぱりある程度わかっていないと恥ずかしいです。
多国籍企業のM&Aから町の中小企業の診断まで、守備範囲は広いので非常にたくさんのいい教科書が日本語でも英語でもでています。
僕は次の二冊が一番わかりやすかったと思います。

  

もっと詳しく勉強したい人はさらに専門的な教科書に進んだ方がいいかもしれませんが、普通の人はこの二冊ぐらい読んでおけば十分でしょう。


経済学 Economics

正直いうと、経済学というのは一部の業務を除き、金融業界で働くのに直接は役に立ちません。
しかし、世の中の政治や経済の動きを理解するためには、知っておくといろいろ役に立つのではないかと思います。

ミクロ経済学の教科書としてはこの本がベストだと思います。

  

日本では、国民全体を幸せにする政策が、一部の既得権団体の一時的な不利益と対立してしまい、効率化政策をとるのが容易ではありません。
農産物の高い関税、正社員の過剰な保護、無駄な公共投資などなど。
この本では、ミクロ経済学の理論を、そういった日本の現状に当てはめてわかりやすく解説しています。
日本の問題点を浮き彫りにしつつミクロ経済学の理論を解説するという点に関して本書は傑出しています。

次に、マクロ経済学です。
マクロ経済学はGDPや失業率や金利などのマクロ変数の背後の深い関係を研究する学問です。
実際の仕事には直接には役に立たないのですが、ビジネスマンというのはとにかく床屋政談が大好きなので、マクロ経済学を知っていると床屋政談で一目置かれます。
またマクロ経済学を勉強すると、たとえば鳩山首相とかを上から目線で理路整然とdisることができます。
社会人として、GDPや貿易統計、国債金利のニュースが流れた時に、何か気のきいたことがいえないと、逆にみんなにdisられるので、社会的地位が低下してしまうかもしれません。
こういうことを考えればマクロ経済学を勉強しなければいけないことは明白でしょう。



以前の書評

僕の中ではマクロ経済学は今のところこのマンキューの最新版がベストですね。
金融危機の後に書かれた教科書というのはかなりポイント高いです。
日本語で読みたい人は以前紹介したクルーグマンの教科書でも読むのがいいでしょう。

それではみなさんもたくさん勉強して人生を少しでも豊かなものにしましょう。

以上。

Macroeconomics, N. Gregory Mankiw

この本は世界でベストセラーとなったマンキューのマクロ経済学の教科書の最新版です。
出たばっかりなので、当然まだ日本語訳はでていません。

僕は思うのですが、経済学って、専門用語(特に日本語訳)が直感的にわかりにくいのが問題で、言葉さえしっかりわかれば意外と当たり前のことしかいってないんですよね。
でも専門用語のわかりにくさってかなりの部分が日本語訳の問題で、英語の方がわかりやすかったりします。

限界なんとかとか、なんとか性向とか、なんとか余剰とか、なんとか逓減とか、なんとか弾性とか、日本語だとチンプンカンプンなのですが、英語だとすごい素直な単語なんですよ。

マンキューの教科書はすでに世界的な評価を得ているので、ここであえて説明する必要はないのですが、本書のすばらしいところは、2008年の世界同時金融危機の後に書かれたものなので、金融危機前後のGDPや財政赤字、通貨発行量などのデータがたくさん収録されていることです。
金融危機に関しての面白いコラムがいろいろ読めます。

この本を一冊本棚に飾っておけば、とっても知的に見えること間違いなしですね。

最近、民主党幹部の方々の麗しい発言に呼応する形で、配当性向とか内部留保とかのファイナンス用語がネットで話題になっているようです。

そこで、今日は配当政策について解説したいと思います。

まず、会社というものは、お金を貸してくれた銀行とか、社債を買ってくれた人とかの債権者と、資本金を出してくれた株主で成り立っています。
株主と債権者がいたからこそ、会社を作って事業を営むことができたのです。
会社は株主の所有物なので、役員を選んだり、最終利益をどのように処分するかなどの重要なことは株主の会議である株主総会で決定します。
株主全員の意見がそろわない場合は多数決で決まります。

さて、会社の事業内容をまとめているのがバランスシートです。

株式会社の仕組みとバランスシート

バランスシートですが、基本的には右側に必要な資金がどのように調達されたが書いてあって、左側にはそれがどういうふうに使われたかが書いてあります。
左側は自動車会社なら工場などの設備になりますし、航空会社なら飛行機などになりますし、銀行なら貸出先への債権や国債などになります。

会社は左側のアセット・サイドを使ってお金を稼ぐわけですが、どれぐらい稼いだかを毎年報告するものを損益計算書、略してP/Lといいます。

1.売上高(Sales)
 1000億円

2.粗利益(Gross Profit)
 600億円

3.営業利益(EBIT, Earnings Before Interest and Taxes)
 400億円

4.税引き前利益(EBT, Earnings Before Taxes)
 300億円

5.当期利益(Net Income)
 200億円

売上高が実際に商品がどれだけ売れたかです。
それから商品を作るのに必要だった原材料費や工場を稼働させるためのコストを引くと粗利益になります。
その後に営業マンの給料や広告費や様々な経費を引いて営業利益になります。
それから債権者に払う利息を引いて、税引き前利益になります。
最後に国にピンハネ(税金)されて、最終的な利益になります。
この利益が株主のものです。

以上からわかるように、まず取引先にお金を払って、従業員にお金を払って、次にお金を貸してくれた債権者に利子の分のお金を払います。
そして、国がピンハネして、最後が株主というわけです。

つまり、株主の立場が一番弱いのです。
株式会社は株主のものだとよくいいますが、それは法律上の問題だけではありません。
このように一番最後に分け前をもらう株主の利益を、経営者がちゃんと追求していけば、結果として取引先、従業員、債権者、国とみんなハッピーになるから、会社は株主のものだと考えるのがベストなのです。

さて、この当期利益ですけど、これは全て株主のものです。
この当期利益は株主の利益を最大化するように使わなければいけません。
また、経営者(役員)へのボーナスはここから払われます。
株主は経営者を首にして新しいのにするか、たくさんボーナスを払ってまた頑張ってもらうか決めることができます。
たとえば全額配当に回すこともできます。

ここで、配当額と当期利益の比が配当性向(Payout Ratio)で、当期利益のうち配当や役員賞与で支払われなかった分が内部留保(Retained Earnings)です。

一見、全額支払われた方、つまり配当性向100%の方が株主は得のような感じがしますが、それは大きな間違いです。
まず、配当の支払いだけを考えると、株主の利益には中立です。

株価1000円の会社が一株当たり50円の配当を支払うとします。
この50円は権利確定日の日に株を持っていた人全員に支払われます。
権利が無くなる日を権利落ち日といいます。
他の条件が同じなら、権利落ち日には株価が50円さがるのです。
なぜなら50円の配当がもらえなくなるからです。
権利落ち日の前は会社にこの配当予定の50円分の現金がくっついているので、会社の値段、つまり時価総額がこの現金を含んだものになっていますが、権利落ち日以降に株を買った人は、この現金は他の誰かのものになることが決まっているのでその分がちょうど割り引かれるのです。
つまり配当をもらう株主は、配当では50円得するけど、株価の下落で50円やられるので差し引きゼロです。
株式投資をやっている人ならこの辺は当たり前のことですね。

さて、それでは会社は配当性向をどのように決めるべきなのでしょうか?
それはこの会社がこの資金を有効に使えるかどうかで決めるべきなのです。
有効に使えるかどうかは世界全体の株式市場のリターンと比べられて判断されます。
まあ金利が低い最近ですと5%〜8%ぐらいですかね。

成長著しい分野で、研究開発や設備投資に100億円を投じれば120億円(20%のリターン)ぐらいになりそうなら、配当なんかせずに全て投資すればいいのです。
それでも足りなければ増資をして、さらにお金をぶち込めばいいでしょう。
また、企業買収によるシナジーでさらに成長できそうなら、配当するよりM&Aにお金を回した方が得でしょう。
この投資でもうかった分はもちろん株主のものなので、配当でみすみす投資機会を逃すよりも株主はもうかります。
マイクロソフトなどは創業以来2003年まで一度も配当をしませんでした。
株主が気にするのはあくまでトータル・リターン(=インカム・ゲイン+キャピタル・ゲイン)であって、経営者がどんどん会社を成長させてくれるなら配当なんか全くいらないのです。

逆にいえば、100億円が101億円ぐらいにしかならないなら、全部配当してくれという話になります。
1%程度のリターンなら、株主が自分でインデックス・ファンドを買ったり、国債を買った方がましですから、当たり前です。

ところで、この内部留保は利益を上げている会社なら会計上毎年毎年積み上がっていきますが、それはバランスシートの左側の工場とかになっているので、そのまま現金で溜まっているわけではありません。
当たり前ですが。

まあ、今、説明したことが、配当政策の基本なのですが、日本では・・・という話をはじめると長くなるので、それはまた次の機会に。

参考文献
内部留保、wikipedia
政治家のみなさんに向けた会計の初歩の初歩、isologue
MBAバリュエーション、森生明
実践 コーポレート・ファイナンス―企業価値を高める戦略的財務、高橋文郎
グロービスMBAファイナンス、グロービス経営大学院

中学受験ネタからはじまった学歴エントリーはその後様々なブログで引用され、大いにその是非が議論された。
たった数日の間に合わせて600近くのコメントがついたのは、多くの日本人の心に受験勉強の思い出がいかに深く刻み込まれているかの証左であろう。

しかし、その後、議論は思わぬ方向に進展した。
日本では、このような受験を勝ち抜く秀才の多くが、医師や弁護士という国家資格に向かい、必ずしもグローバル経済の中でますます熾烈さを増す技術開発やビジネスの国際競争に、その才能が活かされていないという問題提起である。

医師の仕事の多くが厚生省の官僚と製薬会社によって定型化されており、必ずしも理数系の才能が必要とされるわけではない。
また、外科手術のような分野は、受験勉強の才能より、手先の器用さといった素養がより重要であることはいうまでもなかろう。
弁護士の仕事にしたって、ほとんどの業務は犬も食わないような内輪げんかの仲裁であり、人情に訴えうまいこと和解させるという人間力こそ必要だが、必ずしも難解な法理論が役に立つわけではない。

そこで本エントリーでは、なぜ受験秀才が医学部に進学するのかということに絞って考察することにする。
ある程度以上の理系の大学を受験した者なら誰でも知っていることなのだが、偏差値の高い理系の受験生はみんな医学部に行く。
実際に最難関大学といわれる東京大学の工学部や理学部(以下理1)よりも、ど田舎の国公立医学部の方が入学難易度は高い。
首都圏の国公立医学部にいたっては東大理1よりもはるかに難しいのが実情である。
端的にいって、日本では、一部の例外を除き、理系の高校生は学力の順番で上が全部医学部に行き、残った学生が東大理1やその他難関理工系大学に進学するのである。
しかも、これは一時的な現象ではない。
筆者の知る限り、過去数十年変わらぬ傾向であり、金融危機以降の不況でこの傾向はますます強まってさえいる。

もちろん、受験勉強の才能と技術開発競争やビジネスの才能は同じものではないということはいうまでもないが、ある程度は正の相関があることも確かで、やはり日本の理数系の才能が、必ずしもそういった素養が役立つわけではない医師という仕事に独占されているというのは大きな社会的損失という他ない。

なぜそれほど秀才は医学部に進学するのだろうか?
受験勉強に熱心に取り組んでいる間に、受験勉強自体が自己目的化してしまい、少しでも偏差値の高い学部に入学することにより自己顕示欲を満たそうとする圧力が働き、その結果、偏差値の高い医学部が、偏差値の高さゆえに偏差値の高い学生を集めてしまうという、偏差値の自己増幅作用が働く可能性がある。
これは自分がいかに激烈な競争を勝ち残ったかを証明しようとするシグナリングの一種だが、筆者はそういったファクターは非常に小さいと考えている。

結論からいうと、偏差値の高い高校生が医学部に進学しようとするのは、一にも二にも高い報酬のためである。
要するに金である。
下の図は、金融日記総合キャリア研究所に依頼して、東大理1卒業生と国公立医学部の卒業生の年収をサンプリング調査したものである。

東大理1卒業生と医学部卒業生の年収比較分析

理・工学系で日本の最高峰といわれる東大理1の学位取得10年後の平均年収は約880万円であり、医学部卒業生の平均年収はなんと1,600万円以上にもなるのである。
しかも、理1卒業生は会社経営者などの非常に少数の成功者が平均値を釣り上げているが、大多数は500万円〜700万円しか稼げないのである。
また、約5%が東大に行ってまでワーキングプアに身を落とすことになる。
その点、医学部卒業生は平均年収の高さもさることながら、そのバラツキの少なさは注目に値する。
悪くても1000万円ぐらいは稼げるのである。
つまり、医学部の方がリスクも少ないのである。
ファイナンスの標準理論に従えば、リスクが小さくリターンも大きいなら、それを選ばない人はいないことになる。
このようの考えれば「なぜ田舎の国公立医学部は東大より難しいのか?」という問いは馬鹿げているように思える。
むしろ「なぜ東大理1程度が、田舎の国公立医学部と同じぐらい難しいのか?」と問うことの方がより自然だ。
おそらくその答えは、18歳から24歳という人生の青春時代をど田舎ですごさなければいけないというディスカウントがかなり効いているということであろう。
もし他の条件が同じなら、田舎の国公立医学部の偏差値は東大よりはるかに高くなるはずだが、この青春ディスカウントの分だけ割り引かれ、結果としてそれほど差がつかずにいるのである。
その証拠として、東京医科歯科大学などの首都圏の医学部は、東大理1よりもはるかに難しい。

以上のように、将来年収の期待値を考えれば、日本の異常な医学部人気も、標準的なファイナンス理論の枠内で全て説明できる。
偏差値の高い高校生が医学部に進学し、親もそれを勧めるのは、要するに金なのである。

また、結婚市場においても、医師の強さは突出してる。
いわゆるイケメン/ブサメンによる二分類で、ブサメン側にカテゴライズされる医師でも、かなりの美人と結婚するケースが多数観測されている。
その点、同じ側に分類される東大理1卒業生で年収500万円のエンジニアがかなりの美人と結婚する可能性はほぼ絶望的といっていい。
美人という限られたリソースの分配もやはり医師に集中しているのである。
これでは偏差値の高い理系高校生が、理学部や工学部に進学することこそ異常な行動であろう。

ところで、美人と結婚したブサメン医師の子供が、お母さんの容姿とお父さんの頭脳を受け継ぎ、将来の日本の競争力を大いに高めてくれるというなら、筆者もそのことを大いに応援したいと思う。
しかし、実際にはその逆が驚くほど多い。
つまり、お父さんの容姿とお母さんの頭脳を受け継いだ子供が生まれるのである。
そんな子供が適齢期になると背中にNの字がついたリュックを誇らしげに背負い、中学受験にはげむというわけである。
むろん、お母さんの頭脳を引き継いでいるので全く出来が悪い。
いきおい医学部入学のために何年も浪人することになる。
これでは貴重な教育資源の浪費ではなかろうか。

また、エンジニアの給料は自分で稼いだお金だが、医師の給料の多くは税金から払われていることも忘れてはならない。
日本の財政赤字は途方もない規模に達し、今後は医療費が加速度的に増加していく。
増税は避けれらないだろう。

以上のような様々な問題を考えると、筆者は医師の給料を下げるのがベストの解に思えてくるのだがどうだろうか?
誰でも給料を下げられるのは嫌だろう。
医師は人の命を救うという尊い仕事をしていることも重々承知している。

しかし、筆者のように無私の心で、世界の貧困問題を解決するため、日夜、金融市場で流動性を提供するという社会的に掛け替えのない職務を遂行してきた人間でさえ、世界的なポピュリズムに迎合する無知な政治家の犠牲者となり、いわれのない懲罰的課税を科され大幅なボーナスの減額を余儀なくされたのである。
そのことを思えば、お医者さんの給料が半分になることぐらいそんなに大したことじゃないのではないだろうか?

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