今、世間でうわさのAIGファイナンシャル・プロダクツのひとりの社員が出した退職願が、ニューヨーク・タイムスにリークされました。
いろんな意味で重要なニュースなので、がんばって翻訳してみました。
ニューヨーク・タイムス:Dear A.I.G., I Quit!

いやー、金融業界に詳しい人が読むと本当に趣深いメールなんですよね。
実は細部まで計算しつくされているメールで読めば読むほどジェークさんは聡明なひとなんだと思えます。
ここに書いてある全てのことが理解できて、ところどころに現れるピリッとした嫌味が分かったら、あなたはかなりの国際金融通ですね。
英語の勉強にもなりますから、いろいろ英語のニュースも検索してみてこのメールのバックグラウンドを全部理解してみましょう。
春休みの宿題です♪

これで有名になったジェークさんがAIGの暴露本でも出して大もうけしたら、MITの奨学金をゲットした以上のアメリカン・ドリームですね(笑い)。
いやー、こう言う抜け目のない人、僕は嫌いじゃないなー。


ちなみにリディさんはAIGの会長に半年前に就任した人です。
水曜日の公聴会で一部の社員を引き止めるために支払ったボーナスに関してボコボコに非難されました。

AFP:AIGの巨額ボーナス問題、CEOが公聴会で苦しい言い訳
CNN:AIG高額ボーナス問題、リディCEOが公聴会で証言
日経新聞:AIGのCEO、ボーナス半額返金を一部社員に要請
朝日新聞:「米全土が憤慨」 AIG公聴会、高額報酬に怒り爆発
毎日新聞:AIG「ボーナス全額返済は不可能」公聴会でCEO


====== 以下、藤沢数希による翻訳 ========

親愛なるリディ・エドワードCEOへ

このような形で辞表を提出しなければいけないことを大変残念に思います。
リディCEOが大変多忙な身であることは存じますが、私の手紙を読む時間を少しでも作っていただければ幸いです。
なぜ私がAIGファイナンシャル・プロダクツ(AIG.-F.P.)を去る決断をしたのか、そして、私たち社員がどう言う状況におかれているのか、少しでも知っていただければと思います。

何よりも最初に申し上げたいことは、私はAIG.-F.P.の株式・商品本部において私が成し遂げた全てのことに対して本当に誇りに思っていると言うことです。
また、AIGをこのような苦境に陥れたクレディット・デフォルト・スワップ(CDS)の取引に関して、今も昔も私はまったく関与していません。
そして、AIG.-F.P.で現在も困難な仕事を懸命にがんばっている400人余りのスタッフも同様に問題のCDSの取引には全く関わっていなかったのです。
莫大な損失をだしたCDSの取引に関わっていた社員のほとんどはすでに退社してしまいました。
すでに退社してしまった彼らはまんまとアメリカ国民の激しい怒りから逃れることができたのです。

過去一年間の非常に複雑なAIGの解体業務の間、AIGの経営者たちはこの難しいミッションに対する報酬はこの2009年の3月に必ず支払われると繰り返し繰り返し約束してきました。
ところが、我々スタッフは結果的にAIGに裏切られ、心無い政府高官によって極めて不公正な迫害を受けることになってしまったのです。

11年間、AIGに勤務できたことをとても誇りに思います。
このように機能不全に陥ってしまった金融機関において、私は自らの職務をやり遂げることはもはや不可能です。
また、そうすることによって今後は私の給料が支払われることもありません。
リディCEOと同様に、私も1ドルの年棒で働くように言われました。
AIGの危機を救うため、そしてアメリカ政府の救済に報いるため、私はこのことを一時は受け入れることを決意しました。
しかし、このようにAIGとアメリカ政府の両方から非常に不誠実なやり方で裏切られてしまった後では、家族に満足に会うこともできずに毎日14時間働くことを正当化することはもはやできそうもありません。

私はリディCEOとは一度も直接お会いしたことはありません。
そこで、少しだけ私の自己紹介をさせてもらいたいと思います。
私の両親はふたりともいくつもの仕事をかけもちしなければ暮らしていけないような、貧しい鉱山町の貧しい教師でした。
しかし、私は勉学にはげみマサチューセッツ工科大学から奨学金を受けることができました。
私はちいさなアメリカンドリームを成し遂げたのです。

私は1998年に株式のトレーダーとしてAIGに入社しました。
そして、幸いにも私の仕事が認められ株式・商品本部のヘッドになることができました。
商品ビジネス立ち上げのプロジェクト・リーダーになったのは、AIGが崩壊する数年前のことでした。
この間、私のチームはコンスタントに利益を上げました。
実際、多くの年で我々は年間100億円以上を稼ぎ出したのです。
直近では、AIG解体のなか、世界的に評価されている我々の商品指数ビジネスのUBSへの売却プロジェクトで誠実かつ重要な役割を果たしたと自負しております。
リディCEOもご存知のように我々AIGの様々なビジネス・ユニットをこのように売却していくことは、アメリカ国民の税金を少しでも返済するために極めて重要なことです。

AIGに入社以来、私が受け取ったボーナスは全て私の関わったビジネスの収益に厳格に基づくものでした。
その間、大きな利益を上げていた別のチームのCDSトレーディングから、私は一度たりとも恩恵を受けたことはありません。
ところが不幸なことに、AIG株により支払われていた私の老後の蓄えの多くは、最近のCDSトレーディングの莫大な損失のおかげで、ほとんど無価値になってしまったのです。
現在、非常に困難な仕事をしているAIG.-F.P.のほとんどのスタッフも同様に、自分たちには無関係なCDSポジションによる破滅的な損失から大きな被害を受けました。
アメリカの納税者と同様に、あるいはそれ以上に、我々もまたAIGの一部のビジネスによる大きな損失に苦しんでいるのです。

私はリディCEOが無報酬でアメリカ政府の公的な職務として激務をこなしていることを尊敬しております。
私はリディCEOも問題のCDS取引の責任はないことを知っています。
それにもかかわらずリディCEOはアメリカ政府やアメリカ国民からの非難の嵐を受け止めているのです。

しかし、リディCEOもまた我々AIG.-F.P.のほとんどの社員が、甚大な損失をだした問題のCDSビジネスとは関係ないことをご存知のはずです。
それならばなぜあなたは私たちを十分サポートしてくれなかったのでしょうか?
大変失望しています。
私とAIG.-F.P.の社員は先週の水曜日の公聴会で一部の政治家や政府高官、そしてマスコミによるまったくのでたらめで根拠のない非難に対して、あなたが戦おうとしなかったことに「裏切られた」と感じているのです。
リディCEOはニューヨーク州とコネチカット州の司法長官のまったく事実に反する恐喝としか言いようがない発言から我々AIG.-F.P.の社員を守ろうともしませんでした。

私の推測では、リディCEOが去年の10月に我々をAIG.-F.P.に引き止めるための残留特別ボーナスの契約を知ったとき、我々がAIGに残って業務を行うためには正当な見返りが必要だと言うことをよく理解したことだと思います。
だからこそAIGの経営者は10月に、少なくとも3回、特別残留ボーナスは契約通りに必ず支払われると、この困難な時期にAIGにともに残ってくれる社員に繰り返し再確認したのだと思います。

実際、リディCEOは特別残留ボーナスの4分の1以上を約束より3ヶ月も前倒して払ってくれましたね。
このことは我々社員に本当に大きな励みになりました。
もしリディCEOがこの特別残留ボーナスが本当に「不愉快なもの」だと考えていたら当然、このような行動を取らなかったことだろうと思います。
また、リディCEOはAIGのためには特別残留ボーナスは必要なものだと理解していたからこそ、3月13日に全ての支払いを確かに承認したのです。

あなたがCEOになられてからの半年間の間、我々社員は特別残留ボーナスに関しての再交渉を求められたことは一度もありませんでした。
そう、先週の公聴会のほんの数時間前までは。

私の意見では、リディCEOが特別残留ボーナスを我々に支払ったことは非常に倫理的なことであったし、また、ビジネスの上でも非常に先見の明があったことだと思います。
しかし、政治的にはあまり賢いやり方ではなかったのかもしれませんね。
リディCEOは連邦準備銀行、財務省、さまざまな政治家やニューヨーク州のアンドリュー・クオモ司法長官といったいどんなことを同意したのかまったくよく分かっていらっしゃらないのでしょうか?
もし分かって同意していたとしたら、それは大衆や心無い政治家により作られた誤った空気に立ち向かうほどあなたは強くはなかったと言うことです。

そして今、あなたは我々にいったん支払われた報酬を突然に返せと言いだしました。
このような形で社員との信頼関係を突然壊してしまった会社に対して、我々AIG.-F.P.のスタッフはどのように答えるべきなのでしょうか?
リディCEOも想像できると思いますが、我々は大変深く悩み苦しみました。

我々のほとんどが実際に何も悪いことをしていないのだから、「罪悪感」というのは特別残留ボーナスを自主的に返さなければいけないことに対してなんの助けにもなりません。
我々は正式な残留契約に基づき12ヶ月間もの長きにわたり激務をこなしてきました。
よって契約どおり特別残留ボーナスは支払われるべきであり、我々にそれを返す義務はありません。
配管工がパイプの修理をした後に、他の人の電気工事の不注意によって家が火事で燃えてしまったとしても、配管工はパイプ修理の代金をごまかされてはならないのです。

AIG.-F.P.の多くのスタッフが過去半年の間に、AIGよりはるかに安定した金融機関からさまざまなオファーを受けました。
それでも、我々はAIGが社員との契約を尊守すると信じたからこそ、それらのオファーを断ってきたのです。
当然、我々は特別残留ボーナスを突然返せと言われて大きな憤りを感じています。

本当のことを正直に言えば、現在、我々がまだAIGに留まっているたったひとつの理由は、今仕事を投げだしたらいったいどんな仕打ちをされるかわからないと言う「恐怖」だけです。
クオモ司法長官は我々の氏名をテレビで公表して「恥知らず」を見せしめにすると恐喝しました。
コネチカット州のリチャード・ブルーメンソール司法長官も同様に我々を脅しました。
本来なら正式な司法手続きに従い裁判所で追求すべきことであり、司法長官という立場の人間が興味本位のマスコミに言う言葉とは到底信じることができません。

このような状況で、いったい私は何をすればいいのでしょうか?
幸運にもアメリカ経済が好調だった時期に、私と私の家族が暮らして行く十分な蓄えを作ることができました。
金融業界の人間は報酬をもらいすぎだと非難する人もいるでしょう。
私はそのことに関して必ずしも反対はしません。

だからこそ、私は特別残留ボーナスのすべてを、今回の金融危機による世界同時不況で本当に困っている人たちに寄付することにしました。
これは節税対策ではありません。
私は私の給料がどんなものに使われるのかを決める権利があると信じています。
私の当然の報酬が、AIGや連邦政府の暗闇に吸い込まれていくのを見たくないのです。
AIG.-F.P.のささいな報酬の問題が、現在、アメリカが直面している本当に重要な問題から世界中の人たちの目をそらすことに大いに使われてしまいました。
だからこそ、私はその報酬の一部を本当にに困ったいる人たちのために役立てたいのです。

3月16日、私の銀行口座に$742,006.40(源泉徴収後)振り込まれました。
現在、下院で議論されている極めて例外的な懲罰的課税措置により、私が寄付できる金額はこれよりずっと少なくなるかもしれません。
実際、90%の税金を徴収しようとしていますから。
いずれにせよ、私の全ての特別残留ボーナスを寄付した後、どのような慈善団体に私が寄付したかすぐにお知らせしますね。

この決断は私にとって正しいことだと信じています。
そして、まだがんばっているAIG.-F.P.の他のスタッフもそれぞれ自分が正しいと信じる決断ができることを願っています。
心無い人たちの恐喝に屈する形で、彼らが決断してしまうことだけを私はとても心配しています。

リディCEO、私はAIGが再建に成功してアメリカ政府からの公的資金をすべて返済できることを心から祈っています。
そして、AIGのさまざまなビジネスの売却(特にCDSビジネス)がうまくいくことを本当に願っています。
この辞職にともない業務の引継ぎにできるかぎり協力したいと思いますが、それほど長くはAIGに残れないことをご理解ください。
もう私のAIGに対する信頼はこの一週間のさまざまな出来事で完全になくなってしまったのです。
リディCEOからどのようなお返事を頂けるか分かりませんが、少なくともブルーメンソール司法長官は私が「ドアからたたき出される」必要もなく、私の自らの意思でAIGを去ることを嬉しく思うことでしょう。

ジェーク・ディサントス

====== Translated by Kazuki Fujisawa ========