政治家の先生や農林水産省のお役人は「食料自給率を上げる」とか「日本の美しい水田を守る」だとか、はては「米は日本人の心」だとか言う分けの分からないことまでいろいろ言っている。
そしてこの間にとんでもない税金が直接的、間接的に農業に注入されて来た。
食料自給率、食料自給率と騒ぐ政治家の皆さんがいっぱいいる一方で、同じ政治家が減反政策と言って米の生産を抑制する政策をずっと取っている。
それで米を作るのちょっとやめてくれと農家に頼んで、言うことを聞いた農家にはたんまりと補助金を払う。
こう言った米の減反政策に関する補助金は今までで7兆円以上投入されてきた。

7兆円と言ったら、アメリカの穀物メジャーのカーギルやADM、ヨーロッパのブンゲなんか全部買収してもぜんぜんお釣りがくる金額だ。
もっともカーギルは上場していないし、実際に日本国政府がそんな買収をするのは政治的にはむずかしいかもしれないけど。
しかし、そんな途方もない税金を投入して日本の農業の生産性が上がったかと言ったら、むしろ逆で、日本の農業は荒廃する一方で国際競争力は無きに等しい。
しかも、農業への直接的な補助金と、米の800%の関税のように輸入を禁止して国内のカルテルで統制されている高い農産物を買わざるをえないと言う間接的な国民の負担の合計は毎年、毎年、5兆円を超える。
まさに日本の農業は税金のブラックホールだ。

ここまで来ると、何かとてつもなくおかしいことが行われているのは明らかだ。
と言うか、これはもう族議員と役人と農協と農家と御用学者の「演劇」を国民は鑑賞しているのだと言う他ない。
この「減劇」のチケットは毎年5兆円なのだけれど。

この奇妙な演劇だが、実はけっこう簡単なカラクリだ。
農協は全国に正組合員だけで500万人以上もいる。
とんでもない数の票を持っているのだ。
そして、この票で農業族議員がたくさん当選するし、各政党にも大きな圧力をかける事ができる。
だから政治家は農協に逆らえないし、むしろ積極的に多くの国民をだまして税金を農業関係者に分け与える。
農林水産省の役人は自分の省庁の権限を大きくするのが仕事なので、農業補助金をなるべくたくさんぶんどって様々な天下り団体を作ったりして日本の農業の規模(生産性と言う意味ではない)を拡大していくと言う点では農協と利害が一致している。

こうやって考えていくと、農業族議員と農林水産省の仕事の目的は農家の生産性を上げる芽を摘み取り、農家の生産性を低いままキープしていくことだと分かる。
なぜなら大規模農業などが可能になり、農家の生産性が上昇してしまうと非常に困ったことになるからである。
やる気のある農家が他の農家の農地を買ったり、借りたりして大規模な農業を経営すると生産性が大幅に向上し、一部には輸出したりする国際競争力を得るような農家も現われるだろう。
こう言った農業の成功者はますます規模を拡大して農地を拡大していく。
そうすると日本の自給率も上がり、農業も発展していく。
しかし、これは非常に不都合なことなのだ。
なぜなら、そうすると農家の人数は今よりずっと少なくてもいいことになってしまい、農業族議員の膨大な票田はなくなってしまうからである。
農業族議員がいなくなると、政治力のバランスが崩れて「こんな変な天下り団体無駄じゃないか」とか言い出す都会の変な政治家がやってくるので農林水産省の役人も大いに困るのだ。

だから、政治家と役人が一生懸命やっているのは、農家の一戸一戸の生産性をなるべく下げて、補助金や価格統制がないとこまる零細農家や週末に副業で米を作っている兼業農家を「なるべくたくさん」維持していくことなのだ。

そう言うふうに見ていくと、自給率アップと減反政策の矛盾、民主党の農家への個別所得保障、などと言うふつうの国民が見ると首を傾げざるをえないような政策は、一本の筋が通っているすばらしい政策だと言うことが分かるだろう。
農家の生産性を上げさせないことが彼らの仕事なのだから。

確かに、経済も順調な時は国民も演劇のような文化的な活動にお金を使う余裕があった。
しかし、政府の借金もそろそろ維持できないところまで積みあがってきたし、不況で文化活動にお金をつかう余裕もなくなってきたのである。
そろそろこの日本農業物語も飽きてきたところだ。

と言うことで、来年からそろそろマジメに農業政策をやってみたらどうだろうか?
しかもそれは超簡単だ。

来年から農業補助金全てカット。
農産物関税全てゼロ%。
農地の売買や農業の経営に関する規制を全て撤廃。
これが日本人を本当に幸せにする唯一の農業政策である。
自給率なんて言うのは市場原理の中で世界から一番いいものを一番安く買っていけば最適なところに勝手に決まって行くものなので、別に何の目標も設定する必要はない。
しかしいくら中国の農産物が安いとは言え食品は鮮度が重要だし、輸送費もかかるから、日本のがんばってる農家はかなり競争力があると思うんだけど。
僕がさっきちょっとシミュレーションした結果だと、この政策を実行すると日本の自給率は今よりかなり上がるはずだ。


参考サイト
本格的な農政改革の完成を望む、山下一仁
「農協」と「減反」に“NO”と言える政治がいまこそ必要、ダイヤモンド・オンライン
減反・この日本農業の宿痾 その3 転作にかかった税金、7兆円!、農と島のありんくりん
「兼業農家」が日本を滅ぼす、日経ビジネス
農業協同組合、Wikipedia
Cargill
ADM
Bunge