堀江元社長、旧ライブドアと和解 208億円相当支払い、2009年12月25日、Asahi.com
ライブドアグループの持ち株会社「LDH」(旧ライブドアホールディングス、東京都新宿区)が、証券取引法(現・金融商品取引法)違反の罪で一、二審で実刑判決を受けた堀江貴文元社長(37)=上告中=ら7人に約363億円の損害賠償を求めた訴訟で25日、堀江元社長との和解が東京地裁(菅野博之裁判長)で成立した。LDHによると、堀江元社長が約208億円に相当する株式などを同社に引き渡すとの和解内容。


当社元代表取締役社長との和解に関するお知らせ【PDF】- LDHホームページ
本和解に際し、当社からの正式コメントは以下の通りです。
「引渡しを受ける資産は、堀江氏の資産のほぼすべてに相当するものであり、当社の損害回復を迅速に最大限果たした事になります。当社の責任において、旧経営陣らのうち、核心となる堀江氏への責任追及を完遂出来た事に大変満足しております。」


株式会社LDH(旧株式会社ライブドア)との訴訟上の和解について、ホリエモン・ブログ
守秘義務契約がありますので、和解の詳細についてはLDHのプレスリリースの範囲でしか、申し上げられませんが、総額200億円超の資産を支払うことで私の創業したLDH社と和解することになりました。


これはホリエモンとLDHとの「和解」なので裁判所が判断を下したわけではなく、あくまで形式上はホリエモンとLDHの間で解決したことになっています。
しかし「和解」であっても、日本の社会では実際にどういう判決が出るのか弁護士はある程度予測できますし、裁判所もある程度の条件を提示しながら和解勧告を出してプレッシャーをかけるので、実質的には、日本の社会、日本の司法の判断だといってもいいかもしれません。
僕自身はホリエモンがなぜ損害賠償しなければいけないのか非常に理解に苦しみます。
LDH側としては、自分たちの利益のため、ホリエモン以外の株主の利益のために、合法的な限り、あらゆる手段を使って金銭を最大限取得しようというのは、(レピュテーション・リスクを考えなければ)ある意味合理的なことであり、そのためLDHが旧経営陣を訴えていたのは理解できます。
むしろ、ここまでホリエモンに圧倒的に不利な条件での和解に追い込んだ、日本社会の雰囲気や、日本の司法にかなり大きな違和感を感じます。

僕がなぜホリエモンの損害賠償がさっぱり理解できないかというと、実に単純な理由からです。
それは従業員と経営者と株主という、我々の住む資本主義の世界を構成する最も基本的な要素に、極めて危機的な影響を与えかねないことが、白昼堂々と平気で行われていると思うからです。

まず、従業員ですが、彼らサラリーマンは経営者に雇われます。
経営者は株主に特別に経営を任された人たちです。
そして従業員は会社の利益のためにがんばって働くことを求められます。
しかし、従業員はとにかくがんばって働けばいいだけで、その結果、会社に損害を与えたとしても、何の責任も求められないのです。
もちろん、会社の利益に貢献しないと、ボーナスが少なくなったり、出世しないかもしれません。
大きなミスを何回もして、会社に大きな損害を発生させてしまえば、ものすごく責められるでしょう。
しかし、それでも従業員はあらかじめ決められた給料をもらう権利があるのです。
最悪の場合には、従業員は経営者に首にされますが、これとて多くの先進国の法律ではかなり厳しく制限されています。
特に日本の場合は解雇規制が厳しいので、がんばって仕事をした結果、プロジェクトが失敗したり、大事なお客さんに嫌われたり、発注で数量を間違えたりして、かなりの金額の損失を出したとしても、簡単には解雇できないのです。
ましてや個人資産で賠償などというのは、会社のお金を盗み出すような、よっぽど悪い犯罪でもしない限りありえない話です。
だって、ミスして会社に損失をだしたぐらいで、給料をゼロにされて、自分の金で賠償しろなんて、そりゃ完全にあっちの世界の話ですよ。
そんな無限責任を負わされるなら誰も会社で働かないでしょう。
当たり前のことですが、従業員というかサラリーマンは会社がもうけても大したボーナスをもらえませんが、そのかわり極めてリスクが低い仕事なのです。
ところで、従業員を首にするのは経営者ですが、ぜんぜん利益を出せない経営者を首にするのは株主です。
従業員は労働基準法に守られているので相当のことがないと首にはできませんが、経営者は過半数の株主が首にしたいといえば首になります。
経営者はその点では、従業員よりもリスクが大きく、また経営者の資質を持っている人は数が少ないので、大きな報酬を貰えますし、経営がうまくいって会社が大儲けしたら、時に莫大な報酬をもらうことになります。
しかし、いずれにしても、従業員も経営者も、首以上の制裁は、会社のお金を横領するような故意の犯罪でもないかぎりありえないのです。

次に、株主ですけれど、株式会社の仕組みで最も基本的な特徴は、それが有限責任だということです。
たとえば株主が1000万円の資本金で会社をはじめたとしましょう。
自分が経営者になってもいいし、誰かに経営を任せてもいいです。
そしてこの会社は従業員を雇って何か事業を始めます。
最初の1000万円の資本金で従業員の給料を払ったり、オフィスを借りたり、パソコンを買ったりします。
そのまま事業が失敗すれば1000万円がパーになりますけど、事業がうまくいけば会社の利益は全部株主のものなので、最初の1000万円は何倍にもふくらむでしょう。
利益といいますけど、利益というのは従業員の給料とか全部払った後にそれでも残ったお金のことなので、株主がもうかるということは、その前にいる取引先とか従業員とかもみんなもうかっているということです。
そこで株式会社のもっとも大事なことですけど、株主はこの1000万円以上の損害を絶対に受けないのです。
これが有限責任です。
例えばですけど、この会社のOLが会社をセクハラで訴えて5000万円の損害賠償命令の判決がでたとします(日本ではセクハラでそんな高額になることはありませんが)。
その時、会社のオーナーである株主が5000万円を支払わなければいけないかというと、そんなことは全くなくて、最悪会社がつぶれてしまって、最初に出資した1000万円が損失のマックスです。
このように最大の損失があらかじめ出資した分だけと決まっているからこそ、株式会社はいろいろなハイリスクのビジネスができるのです。
もちろんただの従業員と違って、株主は自分の出資したお金がなくなるので、その分の大きなリスクを取っているのです。
だからこそ事業がうまくいき、永続するいい会社に成長すれば、最初の1000万円の株の価値が時に何百倍、何千倍になって莫大な利益を得るのです。
その点、従業員や雇われ経営者はどんなにボンクラでも首になるまで給料を貰えますから、ある意味まったくリスクがないともいえます。
日本の場合はどんなにボンクラでも首にすることすら難しいのが現状です。

このように会社で働く従業員や経営者、株主の間には、それぞれ別々のリスクとリターンがあって、それぞれの役割を社会のために分担しているのです。
ロー・リスク、ロー・リターンの従業員。
ミドル・リスク、ミドル・リターンの経営者。
ハイ・リスク、ハイ・リターンの株主。

それではホリエモンの場合を考えてみましょう。
ホリエモンは経営者であり、大株主でした。
そして、ご存知のように粉飾決算の容疑で東京地検特捜部の強制捜査によって逮捕されてしまったのです。
しかし、この粉飾決算の容疑も、自社株の売買にともなう実際にでていた利益を、資本取引ではなく、会社の経常利益として決算書に書いてしまっただけという、昔の銀行の不良債権隠しとか、カネボウとか、日興などの大きな粉飾決算事件と比べてはるかに軽いものでした。
そういった粉飾決算では、ありもしない利益を決算書に載せて、経営者が債権者や株主を欺くという極めて悪質のものだったのです。
その点、ライブドアの粉飾決算は、利益自体は出ていたのだけれど、その計上のしかたを間違えただけというものです。
実際に、検察の主張も「ひとつひとつの商取引は当時の法律では形式的には合法だけど、全体の取引を総合してみると粉飾決算という解釈ができる」というものでした。

さて、仮に粉飾決算だったとして、資本主義のルールにもとづいて、ホリエモンはどんな責任を取らなければいけないのでしょうか?
確かに社会を挑発して検察の強制捜査を誘発してしまったということで、経営者としてひとつの失敗をしたともいえます。
しかし、資本主義の原理原則からいえば、それはライブドアの株主がホリエモンを解任すればいい話です。
実際にホリエモンは社長を辞めたのだから、経営者としての責任はそれで取ったといっていいのではないでしょうか。
もちろん、悪質な粉飾決算ならそれ以上の責任を問われることもありますが、ホリエモンの場合はそのように悪質なものだとはどうしても思えないのです。
しかも、ホリエモンはライブドアの大株主(過半数は持っていなかった)だったので、経営者が株主を悪意を持って欺いたということも考えられません。
なぜなら、それは自分で自分に不利益を与えるようなものだからです。
自分でも株主だったという事実は、過去の大きな粉飾決算事件とは大きく異なるところです。
ホリエモン自身が大株主なので、決算書をごまかして、いい経営をしているようにみせて大きな報酬をえる、つまり、経営者が株主からお金を盗み取るというようなことは起こり得ないのです。

それではホリエモンの株主としての責任はなんでしょうか?
それは実際にホリエモンの持っていたライブドア株の価値が大暴落した時点で、責任を取っていることになります。
ホリエモン自身も、持ち株の暴落で大きな経済的損失を被ったのです。
ライブドアの株主は旧経営陣を訴えていましたが、ホリエモン自身がライブドアの大株主だったので、仮に株主が裁判で勝ったとしても、それはホリエモンが(少なくとも部分的には)自分で自分にお金を払うことになったでしょう。

また、株式会社では絶対的な原則があります。
それは株主は全て持ち株数に応じて平等に扱わなければいけないということです。
しかし、ライブドアは配当を支払うときに、大株主のホリエモンにだけは支払いませんでした。
こんなことがまかり通るのも、資本主義のルールからいって非常におかしいと思います。
(形式的には支払ったのですが、係争中の訴訟を理由に差し押さえたので、実際には支払っていません)

そして今回の和解です。
LDHの発表によるとホリエモンのほぼ全財産を支払わせたようです。
実際にどういう条件で和解したのか僕はわからないので何ともいえませんが、もし本当に全財産が支払われたとしたら、それは大きな違和感を感じずにはいられません。

プレッシャーの中で全力でがんばったのに、何らかのミスで会社に損害を与えたしまったら無限責任を負えというのでは、誰も経営者にならないでしょう。
しかも、今回の場合は、ホリエモンは大株主でもあったのです。
だから経営者のホリエモンが、株主を欺くということも論理的に不可能だったのです。
こんなことがまかり通るようだったら、リスクをとってベンチャー企業を起ち上げようという人を委縮させてしまうでしょう。
それは日本全体にとって大きな損失です。

いったい日本は本当に資本主義の国なのでしょうか?
ひょっとしたら日本は本当に北朝鮮のような社会主義国家になる方向に進んでいるのかもしれませんね。


参考資料
上告趣意書の要旨、ホリエモン・ブログ
徹底抗戦、堀江貴文
ライブドア・ショックは今更ながら経済小説の100倍面白い現実に起こったドラマだ、金融日記