JALは更生法申請をして法的整理を経て、再生への道を歩み始めました。
会社更生法とか私的整理とかいろいろむずかしい法律用語がでてきましたが、要するにJALが借りたお金をどうやって踏み倒すかというだけの話で、実はとても簡単な話です。
いちばん踏み倒されたのはいうまでもなく日本の銀行ですね。
ご愁傷様です。
(日本の銀行にお金を預けているのは日本の国民なので、この踏み倒されたお金は、僕の、そしてあなたの預金金利がまたちょっと下がることによって、僕が、そしてあなたが負担します)

そして、借金がなくなって、さらに政府の手厚い支援のもと(つまり僕の、あなたの、我々の税金を使って)、JALは再建されるのです。
しかし、これではもともとまじめにやっていたANAの方はたまったものではありません。
ANAの社員はJALの社員よりも給料が安いと聞きます。
おそらくいったんつぶれても、JALの社員はそんなに給料が下がったり、ましてや首になったりしないのではないかと思います。
こういう状況をみて何が起こるかというと、大きなモラルハザードが起こるわけです。
そして企業は、今日のテーマのレントシーキングにはげむようになります。
「消費者のために少しでもコストを下げて、少しでもサービスをよくしよう」とまじめに企業努力をしても、放漫経営をしてつぶれても税金で救済されたり、発着枠などで政治家や官僚に便宜を図ってもらっている会社の方がおいしい思いをできるのなら、いったいどうなるでしょうか?
企業は消費者(つまり僕やあなた)に満足してもらうためにがんばるのではなく、貴重な経営資源をさまざまな政治活動に投入することになります。
さまざまな規制や補助金を決める権限のある政治家や役人のご機嫌をとって、周到に根回しします。
ロビー活動をしたり、そのためのコンサルタントや弁護士を雇ったりして、このような政治活動はどんどんはげしくなっていくでしょう。
官僚OBの天下りを受け入れたり、時に政治家に多額な賄賂をわたしたりします。
こういった活動がレントシーキングです。

ちょっと前の日本の銀行には必ずMOF担というのがありました。
MOF担というのはMinistry of Finance、つまり大蔵省担当のことで、銀行のエリートコースでした。
ここの部署には東大法学部出身の行員が配属され、同じく東大法学部出身の大蔵官僚ととにかく懇意にして、いろいろな情報を聞き出したり、自分達に有利な規制をしてもらうために、銀座のクラブなんかでめちゃくちゃな接待をしていたのです。

また、ゼネコンもコストや技術で勝負するよりも、いかに政治家に気に入られるかを競った方が、公共事業をたくさん受注できるのでもうかります。
よって政治家への賄賂合戦や接待合戦、官僚の天下り受け入れ合戦は熾烈なものになるのです。
小沢さんも、ちょいと昔の粗相がバレそうになって大変な目にあっているみたいですね。

最近ですと、自動車のエコカー減税なんて、経産省の役人がちょいと基準を変えるだけで、ものすごいお金が動くので、やはり自動車メーカーは政治家や役人に少しでも気に入ってもらおうと必死です。
日本郵政とかNTTとかもそうですね。
日本の農業のレントシーキングは、もう目も当てられないような状況です。

当たり前ですが、こういったレントシーキング活動に費やされる多大な資源は、何一つ国民を豊かにしません。
豊かにするどころか、国民の税金を使ってレントシーキング行われているのです。
ミルトン・フリードマンが政府の補助金は死の接吻だといったのもうなづけます。

いったん政府が補助金なんか払いはじめると、企業の行動原理が大きく変わってしまうのです。
企業は消費者の方を向いて地道な努力をするのをやめて、政治家や役人の方を向いて仕事をするようになってしまいます。
そして、いつの間にか国際的な競争力を失い、世界の消費者から相手にされなくなるのです。

僕は、民主党の成長戦略についての議論にはがっかりさせられました。
もちろん民主党にまともな成長戦略など期待していなかったので、経産省のお役人が作った古めかしい政府主導の産業政策が出てきたことにはなんのおどろきもなかったのですが、それに対する日本の産業界の反応が残念でならなかったのです。
今の日本の産業界は、あれだけ民主党政権を馬鹿にしておきながら、それでも政府から補助金をもらったり、規制を作って自分達の既得権益を守ろうと不毛なレントシーキングしているようにしかみえないからです。

僕にいわせれば、日本の産業界が政府に求めるべき成長戦略はただひとつで、それは懲罰的な法人税を国際水準まで下げることです。
なぜ「こんな法人税では世界の多国籍企業と戦えないから、国際水準まで下げてくれ」と一致団結して圧力をかけないのでしょうか?
スウェーデンのエリクソンなどは、法人税を下げないと本社をイギリスに移すとかいって、しょっちゅう政府を脅しています。
日本の産業界もそれぐらいのことをしてもいいのではないでしょうか。
そのかわり、変な補助金や、変な規制を政府に求めないことです。

国民の生活を豊かにするのは、企業の創意工夫です。
政治家や役人が国民を豊かにしてくれるわけではありません。
政治家や役人は、政府の失敗を取り除いて、企業の自由競争をどんどん促進することによって、あくまで間接的に国民を豊かにすることを助けるだけです。

参考資料
ミクロ経済学〈1〉市場の失敗と政府の失敗への対策、八田達夫
ミクロ経済学〈2〉効率化と格差是正、八田達夫
エコノミクス 入門 国際経済、中北徹
「租税競争」に日本は生き残れるか、池田信夫