世界の投資銀行は、2008年の金融危機からV字回復して再び復活してきました。
しかし公的資金の注入、つまり納税者から(返される見込みのない)お金を借りることによって救われた金融機関もあり、世界的に金融業界に対する批判が高まっています。
(結果的には公的資金はたっぷり利子をつけて返済されたので、国民の直接的な負担はなかったし、むしろ投入された税金はそれ以上になって戻ってきたわけですが)

大きなリスクを取れば大きな利益を得ることもあれば、大きな損失をだしてしまうこともあります。
これが市場のルールであり、その点で大きなリスクを取ってうまくいかなかった時に税金で救済されたというのは、モラルハザードであり、そのことが非難されるのは当然のことです。

なぜ税金で金融機関を救済しなければいけなかったというと、金融システムという世界の人々の経済活動に極めて重要な公共財の崩壊を食い止めるためには、多少のモラルハザードに目をつむる他なかったからです。
公的資金を注入しなければ、世界経済への影響ははるかに大きなものになっていたことは明らかで、ある意味で巨大金融機関は世界経済を人質にとったといってもいいかもしれません。
「この国の納税者が大き過ぎてつぶせない銀行の人質に取られることは二度と許されない」とオバマ米大統領がいっていますが、それは確かにその通りだと思います。

欧州ではこういった金融機関の社員に支払うボーナスに懲罰的な課税をするなど、世論の怒りを抑えるために政府は必死に行動しています。
アメリカではつい最近、ヘッジファンド・マネジャーや大企業の財務担当者が、FBIの盗聴や囮操作まで動員する大々的な捜査によって、インサイダー取引の疑いで逮捕されたりしました。

こういった各国政府の金融機関バッシングはいったん沈静化したと思われたのですが、先週、オバマ大統領からかなり抜本的な金融規制案が発表されました。
僕はこのブログでは、僕の本業に関係することは書かないことにしているので、今回の規制案に関してはここでくわしく議論しませんが、たとえば今日の山崎元さんの記事はよくまとまっていますし、先日、僕がツイッターでつぶやいたのとほぼ同じ意見になっているので、そちらを参照ください。

さて、今日はもっと話を広げて、そもそも最近よく耳にするこの「規制」とは何なのかということを考えてみたいと思います。

Wikipediaによると規制とは「特定の目的の実現のために、許認可・介入・手続き・禁止などのルールを設け、物事を制限すること」とのことです。
そして本ブログでは、日本は不必要な規制が多すぎて、人々の自由な経済活動のじゃまをしているし、既得権の保護があまりにも過剰なので、規制緩和が必要だと一貫して主張してきました。
そのことは今でも全く変わっていません。

そもそも論として「規制」とは、市場経済がうまくワークするために作るものなのです。
人々がモノやサービスを自由に生産して、それをお金を通して自由に交換することで成り立つ市場経済は、我々の住む世界をおどろくほど豊かにしてきました。
しかし、この市場というのは実は大変にデリケートなもので、完全に自由にすればいいかというとそうではありません。
公害、独占企業による価格のコントロール、消費者と供給者との間に著しい情報格差のあるモノやサービスの取引、国防などの公共財の提供、こういった問題は自由市場だけでは必ずしも解決できないことがわかっています。
こういう市場の失敗を直すために、国家権力は規制を作って人々の経済活動に介入することが許されるのです。
規制とは、人々の自由を最大限に尊重しながら、それでも市場だけではうまくいかない分野に、政府が最低限の介入を行うために作られないといけません。
つまり規制とは自由市場を守るために存在するのであり、それが「いい規制」です。

しかし日本社会の現状を見渡してみると、このような本来の目的で規制が議論され、作られているとは到底思えません。
日本の規制は、政治力を持っている既得権益層の利益を守るため、そして、政治家や官僚の力を民間人にみせつけるために作られています。

大きな既得権益を持っている団体は、自分たちの権益も守り通すために、為政者に働きかけ、さまざまな規制を張り巡らします。
新規参入を排除するための規制や、規制による価格統制や独占、そして規制により自分たちの地位が奪われることがないように強固な法的保護を求めます。
そのコストは既得権益をもたない多くの国民に巧妙に押し付けれらます。

また、さまざまな許認可権を作ることにより、民間企業は行政に全く頭が上がらなくなります。
殺生与奪の権を政治家や官僚に握らてしまっていては、民間企業は為政者の顔色をうかがいながら活動する他ありません。
こういう「悪い規制」は間違いなく経済のダイナミクスを奪い人々の自由を踏みにじります。

だからこそ、僕たちは常に小さな政府を求め続けなければいけないし、人々の自由な経済活動を踏みにじる政府には断固として戦っていかなければいけないのです。

参考資料
オバマの金融規制の当否とその実現性、山崎元
ウォールストリート解体の合理性?、ウォールストリート日記
歴史的「インサイダー取引」事件、ウォールストリート日記
世界を覆う危険な金融保護主義、ジョージ・ソロス
なぜ世界は不況に陥ったのか 集中講義・金融危機と経済学、池尾和人、池田信夫
ミクロ経済学〈1〉市場の失敗と政府の失敗への対策、八田達夫
ミクロ経済学〈2〉効率化と格差是正、八田達夫