未曽有の大地震で、人々の寛容さが失われ二次災害が広がっているように思えます。特に僕が心を痛めたのはあるブログの記事でした。

ザ・商売人|Kozakai社長のアメブロ

もうブログ本体は消されてしまったのですが、大地震が起き、東京などで人々がペットボトルの水などの生活必需品をパニックのように買い漁っているときに、流通業に関わる社長が値段を上げたりしてうまく儲けた、というような話が書いてありました。

僕はこのブログに心を痛めたのではありません。猛烈な勢いでこの社長に汚い言葉を浴びせ、人格否定を繰り返す、大量のネットの住人を見て悲しかったのです。「人の弱みにつけ込む悪魔」「金の亡者」「便乗値上げして恥ずかしくないのか」さまざまな罵声が浴びせられました。ネットの住人はPCの前でしたり顔で評論する一方でほとんど何の仕事もしていませんでした。その点、この社長は必要なモノをそれを必要とする人に届けるという、確かな仕事をしていたのです。供給に対して需要がはるかに多いときに値段を上げるのは、当たり前です。

確かにちょっと調子に乗ったような口調でブログが書かれていたのは事実ですが、だからといって人格を否定するようなツイート、はてブ、コメントの集中砲火をしていいものではありません。

そしてさらに日本人の寛容さの欠如、民度の低さを思い知ったのは、とある中学生の大変もっともなツイートに対する、ネット住人の執拗な攻撃でした。
地震に乗じて値上げする企業を批判するのは違うでしょ。値上げによって本当に必要な人に数少ない商品が分配される。無料提供は素晴らしいことだけど、数が大量にあるからこそできること。
Twitter / Masahiro Nishida: 地震に乗じて値上げする企業を批判するのは違うでしょ。 ...

正しいです。需給がひっ迫しているときに値段を上げるのは極めて正しいマーケット・メカニズムです。こうやって十分な在庫を抱えていた業者が儲けることができるからこそ、人々は今回のような緊急事態でも恩恵を得ることができるのです。

もし需給がひっ迫していても値段を自由に上げられないのならば、そういった緊急時に備えて在庫を多めに抱えるインセンティブがなくなります。在庫の抱え過ぎはロスが多く、平時には利益を圧迫してしまうからです。もし需要が大きくなっているときに価格を上げることが許されないのならば、平時は在庫をなるべく抱えずに、今回のような災害の時はすぐに全部を売り切ってしまい、後はシャッターを閉めて家でのんびりとテレビでも見てるのが経済合理的です。そうなると緊急時の時の物資はずっと不足しやすくなってしまうでしょう。需要と供給に合わせて価格がスムースに動くマーケット・メカニズムが働いていたら、もっとたくさんの人が助かっていたのかもしれないのに、です。

残念なことに、中学生に言葉の暴力を浴びせるような、このような人々の無知、無理解、寛容さのなさが、ネットの世界に留まらず、すぐに実害につながってしまいました。

世界最大のメガロポリスである東京圏の電力を担う東京電力の原発がストップしてしまい、広範囲に電力不足が発生しています。ここで東京電力がするべきたったひとつの正しかったことは電気代を上げることでした。電気代を上げる、上げる、みんなが電気代が高すぎて優先順位の低いことに電気を使わなくなり、停電しない程度に電気の使用量が減るまで、電気代を上げればよかったのです。東京電力のマーケティング部は電気代と電力使用量の価格弾性値など詳細なデータを保有しており、電気代をどれだけ上げればいいのかなどすぐに計算できたでしょう。そうすれば計画停電もする必要はなかったのです。



しかしこのタイミングで電気代を上げるのは政治的に極めて難しいのはあまりにも明白でした。上で紹介したブログに対する数千にもおよぶ膨大な数の人格否定コメントや、中学生に大人がよってたかって罵声を浴びせているところを見れば、値上げがオプションにないことは明白でした。そして結局、計画停電という次善の作が取られたのです。

計画停電では、病院に電力が供給されなかったり、停電がないことを前提に稼動されている工場を停止させなければいけないなど、大きなリスクが伴います。電気代を上げれば、優先順位を決め自分にとって大切なものに電気を使いそうでないものを控えるといったことを、電気を使う全ての人が自発的に行うことにより、計画停電よりはるかに効率的な電力の配分が可能だったにもかかわらず、です。

命がかかっている被災者に物資を速やかに供給するのは当然です。しかし東京のように被災しなかった地域で、価格メカニズムを否定するような言動を多くの日本人が取っていることは問題外でしょう。これこそ民度の低さによる二次災害だといわざるをえません。

僕は、声を大にしていいたい。東京電力は好きなだけ電気代を引き上げていい、と。今回、東北地方の人々が大きな被害を受けたのですが、企業で一番大きな被害を受けたのは、莫大な建設費がかかる発電所が多数破壊されてしまった東京電力です。今後は東京電力はマスコミからのさまざまな非難の矢面に立たされるでしょう。そして原発に絡んだ多くの訴訟を抱えることになるでしょう。今日、東京電力の株価は値幅制限いっぱいのストップ安でした。明日も値段がつくかどうかわかりません。だから電気代を上げれるだけ上げて、企業収益を持ち直してもらいたいです。僕たち東京の住民はみんな、電気代の5万円や10万円は払う覚悟はできています。そうやって上げた利益で、はやく日本の経済を担う首都圏の電力供給を回復させてほしい。

僕はもう空っぽのスーパーも見たくありません。こういう時は、業者はどんどん値上げしてください。それでみんな助かります。それがすばらしいマーケット・メカニズムです。

参考資料
クルーグマン ミクロ経済学
不道徳な経済学──擁護できないものを擁護する、ウォルター・ブロック、橘玲(翻訳)