デフレの正体 経済は「人口の波」で動く、藻谷浩介

この手の経済本としては異例のベストセラーになった本です。実は僕はずっと読んでなかったのですが、少し時間ができたので読んでみました。結論からいうと大変面白い本でした。やはりよく売れるだけのことはあります。

タイトルは「デフレの正体」となっていますが、最近流行りの貨幣供給量とかの金融的なデフレとは全く関係がない本です。編集者が流行りの言葉をつければ売れると思ったので適当につけただけでしょう。正しいタイトルは「不景気の正体」です。

経済のテレビ番組や、経済新聞、金融情報誌などを見てると、大企業の業績、GDP、経常収支、為替、株価などの経済指標がさかんに報じられ、現在の日本や世界の景気とはどのようなものか判断されます。しかし庶民感覚としては、こういうマクロな経済指標で見る日本の景気と、実際の自分たちの生活ははっきりいってあんまり関連がないというのが正直なところではないでしょうか。

僕自身は、東京の真ん中で生活して、グローバルな金融機関で働いていますので、こういうマクロな世界経済、日本経済と、自分の生活実感は実のところかなり一致しています。しかし金融業界に来る前、大学で研究していたときや、塾の先生をしていたときや、零細企業相手にシステムを作っていたとき、そして学生のときなど、バブルも失われたXX年も、はっきりいってほとんど何の影響もありませんでした。地方でふつうに生活している人は、ますます関係がなかったと思います。

そこで著者は、ふだんあまり目にしない経済指標をもとに、これらの謎―日本経済新聞的景況感と庶民の生活実感が一致しない―を軽快に解明していきます。都道府県別の小売販売額や個人所得、生産年齢人口などを詳細に見ていきます。そして様々な世間の常識が全く間違っていることを指摘します。たとえば地方は衰退しているが、東京は栄えているという嘘です。この失わた20年の間に一番衰退したのは東京などの大都市でした。実際、僕の知っている人を観察する限り、東京の低所得サラリーマンより、地方の人たちのほうがよっぽどいい暮らしをしています。

90%の日本人にとって重要なのは小売や外食のような内需なのです。グローバルに活躍するひとにぎりのハイテク産業の趨勢と、日本の庶民の生活はほとんど関係がないのです。庶民の生活を決めるのは、ローテクの内需産業です。そしてこの内需は良くも悪くも生産年齢人口の増減でほとんど決まってしまう。よって著者の結論は、生産年齢人口は減り続け、年金生活者が増え続けるので、日本がずっと不景気なのは当たり前、ということになります。

それで著者は、老人や女性などをもっと働かせて、日本の生産年齢人口を増やせばよいと主張します。この本は、いろいろ僕とは意見の違うところもありましたし、経済学の教科書的にはちょっと違うところもありますが、日本のほとんどの人にとって大切な経済というものはどういうものかを理解するのに大いに役に立ちました。読んでおいて損はないでしょう。