バーナード・マドフ事件 アメリカ巨大金融詐欺の全容、アダム・レボー(著)、古村治彦(翻訳)、副島隆彦(監修)
(The Believers: How America Fell for Bernard Madoff's $65 Billion Investment Scam, Adam LeBor)

この本は、日本ではあまり報道されなかった人類史上最大の金融詐欺事件、バーナード・マドフ事件についてのノンフィクションです。被害総額650億ドル(6兆円)という、とんでもない規模の詐欺が白昼堂々と25年間も続いていました。あの映画監督のスティーブン・スピルバーグやケヴィン・ベーコンといったハリウッド・スター、ニューヨーク・メッツのオーナーのフレッド・ウィルポン、ゼネラル・モータースの金融サービス部門の会長であるエズラ・マーキンなど、ありとあらゆる世界の富豪が被害にあいました。しかしその手口はおどろくほど単純です。ポンジ・スキーム(ネズミ講)です。

マドフは非常に知的で魅力にあふれた人物でした。あのNASDAQ市場の創業メンバーで、実際にNASDAQの会長にまで上り詰めていました。またマドフ証券という証券会社の創業者でもあり、まったくもって詐欺などする必要がなかった成功者でした。しかし彼の個人的に運用する「マドフ投資の会」を通して、人類史上最大のネズミ講が行われたのです。

仕組みは極めて簡単です。「マドフ投資の会」で投資家から資金を集めます。たとえば100億円集めたとしましょう。マドフはこの元金を取り崩しながら毎年10%ほどを配当として投資家に還元していました。投資の成功からの報酬として、です。まったく投資などしなくても、10%の配当なら10年間は投資のリターンをごまかせます。10年後はそこにあると思っていた元金が無くなってしまっているのですが。これは典型的なネズミ講です。ネズミ講は新規の投資家が現れ続ける限り破綻しません。しかし破綻しないために必要な新しい顧客の数は指数関数的に増加していくので、いずれかの時点で必ず破綻します。マドフは極めて聡明で魅力的な人物であったし、実際に着実にリターンを上げていた(元本を取り崩しているだけですが)ように見えたので、次から次へと新規投資が舞い込みました。マドフは決して自分から投資を求めませんでした。評判を聞きつけてどうしても投資したいという顧客を、むしろ断ったりしていました。このようにして、選ばれた人間しか投資できないマドフのファンドはますます魅力を増していったのです。実際に資金が豊富にあったので、マドフは数千億円規模の投資家の払い戻しにも安々と応じていました。これがますますマドフの信用を高めました。

最初の書いた、被害総額650億ドルというのは、ネズミ講が発覚したときに、投資家があると思い込んでいたお金の総額でした。もちろんそのほとんどはすでになくなっていました。しかしこのネズミ講は、実際に儲けた投資家もたくさんいたのです。たとえば10%の配当を10年間受け取り、10年後に解約すれば元本が2倍になって投資家に返ってくるのです。ネズミ講というのは、このようにそれがネズミ講だと人々が気づくまで、誰もが儲かっていると錯覚できる仕組みなのです。その破綻の瞬間までに資金を引き上げれば丸儲けです。破綻したときにタップリとお金を入れていた投資家が大損します。ネズミ講とは、このように最初に参加して破綻の前に退出する投資家が、後からやってくる投資家のお金を毟り取るゲームなのです。

25年間も新規投資をかき集め続けたマドフのネズミ講ですが、とうとう運命の時がやってきます。リーマン・ブラザースの破綻でクライマックスを迎えた世界同時金融危機です。このとき様々な金融機関が資金繰りに困り、一気に資金を引き上げる必要がありました。マドフはとうとう投資資金の返還に応じられなくなってしまったのです。この時、マドフのファンドは、大手金融機関と取り引きのある複数の投資会社からも多額の資金を集めていました。マドフが逮捕され、これらの投資会社も一気に破綻しました。そしてそういった投資会社に融資していたフォルティス、HSBC、RBS、BNPパリバ、野村證券などの世界の錚々たる金融機関が数百億円から数千億円の損失を出しました。

このような単純な仕組みを25年間も見つけられず、これほど国際的な規模の被害を出してしまったことに対して、アメリカの証券取引委員会(SEC)の権威は失墜しました。逮捕された当時72歳だったマドフには懲役150年がいい渡されました。マドフのビジネス・パートナーだったティエリはすぐに手首を切って自殺しました。そしてマドフの逮捕からちょうど2年目の日、息子のマークも首を吊り自殺しました。今のところ、犯行は全てマドフが行い、家族も含めてこのネズミ講については一切知らされていなかったことになっています。マドフや彼のビジネス・パートナー、彼の家族は、世界中に大豪邸の別荘を持ち、プライベート・ジェットを保有し、高価な美術品を買い集めていました。権威あるマドフのファンドは大金持ちからしかお金を受け付けなかったのですが、ネズミ講が弾ける前に身を引いた投資家、早い段階で投資し十分な配当を受け取った投資家は大儲けしたわけです。後から参加した投資家はほとんど全ての金を失いました。

この本は、マドフがどういう生い立ちで、どのように成功し、そしてどのような人物からどうやってお金を集めたのか、だまし取ったのか、詳細に記述しています。なかなか興味深い本でした。ところで、マドフ投資の会とそっくりな仕組みがありましたね。確か、日本という国で、それは年金とか、国債とか呼ばれていたような気がします・・・