経済の先行きを占うのはいつもむずかしいものです。僕は震災当時の首都圏の電力供給不安から、関西圏が電気を大量に使う工場やデータセンターなどの分散先として有望だという意見を述べましたが、まったく正反対の結末になろうとしています。国民的な人気を誇るソフトバンクの孫正義氏の反原発運動などがきっかけになり、ポピュリズムしか行動指針がない政治家がそれに乗っかり、全国的に原発を止めろという機運が高まりました。さっそく菅直人の思いつきで浜岡原発が全面停止しました。同じく絶大な人気を誇る大阪の橋下徹知事も原発を止めることに大いに乗り気です。

菅首相が浜岡原発停止という強烈な目標を掲げてくれたので、関西広域連合もウダウダ言ってられません。浜岡原発を止めよう!を合言葉に、関西は何をしなければならないのかきっちりと示します。そのときには皆さん、協力して下さいよ!皆さんの力で原発を止めるんです。学者の寝言とは違いますよ!
橋下徹、5月7日、Twitter


僕は個人的には、原発を止めると、火力発電が増えるし、電気自動車への移行も止まりますから、地球はもっと危険になり、当然よりたくさんの人が死ぬので、これはあまりいい政策とは思いませんが、そもそも僕が思ういい政策が日本で実施されることなどほとんど見たことがないので、特におどろきはありません。しかし市場参加者として、日本国政府や影響力が大きいけど悪意があるか、あるいは知能が低い人たちが、経済をどこに導いていこうとしているのかは、冷静に見守る必要があると考えています。

全国の原発がある県知事が、浜岡を止めた後に「なぜ浜岡だけが危険なのか、そして他の原発は大丈夫なのか、新たな基準はどうなのか」と政府に説明を求めています。そして、それらがクリアされないかぎり「原発の再稼働は認めない」という方針です。県民の安全を守るのが知事の仕事であり、僕はそのことはよく理解できます。原発は1年ほど稼動した後は、数ヶ月の定期点検が義務付けられているので、このままでは来年の春ぐらいにめでたく全ての原子力発電所が止まります。反原発運動家の方々、おめでとうございます。原発というのは作るのは非常に高価ですが、その後の発電単価は極めて安くなります。これらの原発を止めると、老朽化した火力発電所を復活させたり、ガスタービンなどを大急ぎで作り、化石燃料を追加購入しないといけません。経産省の試算によると追加で購入しないといけない化石燃料費は毎年約3兆円で、ひとり当たり約2万5千円、家族で毎年10万円ほど電気代が上がる計算です。毎年10万円ぐらいなら、まぁ、大した問題ではないかもしれませんね。日本の空気はかなり悪くなるかもしれません。止まっている原発にもそれなりにコストがかかりますから、もうちょっと電気代は上がるかもしれません。

震災で東電の発電施設のかなりの部分が被災してしまい、東電エリアはピンチになりましたが、今や最もピンチなのは半分近くを原発で電力供給している関電エリアになりました。関電はCMで「関西の電気の約半分は原子力」というキャッチフレーズを流しているぐらいで、地球温暖化問題では優等生でしたが、Fukushima以後の政治的流れの中で最も電力供給の不安を抱えることになってしまいました。

確かに世界的に日本の電気代は高かったのですが、これはよくいわれているように地域独占が認められており、競争がないということも一因ですが、もうひとつの理由は過剰品質です。日本は停電率が世界一低く、交流電圧の誤差も極めて小さい、非常に質の高い電力供給を実現していたのです。これは精密機械や電子部品の製造にとって有利な面もありました。しかし今後はこのように電気代が上がることは確実で、さらに電力供給に大きな不安が生じました。特に関西圏は、政治的にいつ電気がストップしてもおかしくない状況です。こういった中で企業経営者が考えなければいけないことは、とにかく海外進出だと思います。今、人件費も高く、雇用側に非常にきびしい解雇規制があり、そしてマーケットが縮小していく日本に、生産設備を多数抱えておく理由はありません。バランスよく、アジア地域に展開していく必要があります。夢々、東日本の設備を西日本に移して分散させようなんて思わないことです。

トヨタ自動車の豊田章男社長は先日「安定供給、安全、安心な電力供給をお願いしたい」と訴え、円高に加えて電力不足が広がる現状に「日本でのものづくりが、ちょっと限界を超えたと思う」と危機感を漏らしました。NTTデータも首都圏のデータセンターにある自社のサーバー数千台を関西地域のデータセンターに移転させる計画でしたが、関電の節電要請を受け「今後、海外を含めて移転先を再検討する」としています。その他の企業も関西での戦略を大幅に見直さざるを得ないと思います。(読売、6月11日)

僕は、日本で生まれた企業が、アジアに進出していって、アジア経済圏を発展させるのは、大変素晴らしいことだと思っています。日本という国が衰退しても、日本で生まれた企業や日本人が世界で活躍すれば、何の問題もありません。それに関西圏だって、製造業が全てではありません。原発を止めて、たまに停電して、石炭火力発電所の煙突から煙がもくもく立ちのぼる、昭和的風情が漂う街づくりをがんばるのもいいでしょう。たこ焼きなどのグルメもありますし、吉本というお笑い産業も盛んです。そういう観光業をがんばればいいと思います。いずれにしても、製造業の関西への立地は非常にリスキーなものになったでしょう。

参考資料
原子力で命を守りたい、金融日記
今、優良企業が日本から出ていくべきみっつの理由、アゴラ
再生可能エネルギーの限界と日本のエネルギー政策の今後、アゴラ