無添加はかえって危ない ―誤解だらけの食品安全、正しく知れば怖くない、有路昌彦

原発やエネルギー政策に関しては、僕が金融機関に努める前の専門分野に近かったこともあり、かなり沢山の記事を書きました。エネルギー政策というのは、経済的にも莫大な金額が動き、極めて重要です。3・11以降は、日本の原発行政や、原発の定期点検のスケジュールが、市場の方向を決める極めて重大なファクターになったので、金融業界でも、一部の人は鬼のように原発にくわしくなりました(笑)。

それで僕が驚いたことは、放射能と健康被害に関するマスコミや一部の文化人の発言があまりにも常軌を逸していて、さらに興味深いことに、そんな極端に恐怖を煽るような人たちが割りと人気でなかなか淘汰されなかったことです。20年後、30年後に癌の発生確率がこんなに上がるとか、すぐには誰もわからない恐怖を煽りますから、なかなか長持ちするようで、根強いファンがいるようです。新興宗教が、お布施するとあの世でいい思いができると、これまた絶対に証明できないことで人々を惹きつけるのと似ていますね。

そこでひとつ身近で気になっていたことがあります。食品添加物です。僕たちは、食品添加物や農薬の危険性を訴えかける言説を非常に頻繁に耳にします。たしかに、戦後間もない頃は、食品添加物や農薬に関連した健康被害が出たのは事実です。しかしこの10年とか20年とかの間、こういったもので健康被害が証明されたことなんかあったでしょうか。僕は簡単には思いつきません。

スーパーにいくと、今ではあらゆる商品に「合成保存料を使用していません」「無添加」「自然農法」などという宣伝文句がでかでかと表示されています。あれって本当のところはどうなの、というのが本書のテーマです。

結論からいうと「無添加はかえって危ない」です。単純に、無添加だと食中毒の危険性が高まるからです。食中毒はアメリカでは毎年5000人も死亡する、現代人にとってはかなりの脅威です。その点、食品添加物で死亡した人などいるでしょうか?

僕が、実は食品添加物ってそんなに悪くないんじゃないか、と思ったのは、知人が飼っているカブトムシや犬や猫をよく観察したときでした。僕が子供の頃は、カブトムシにはスイカやバナナを与えていました。よく死にました。ところが今では昆虫ゼリーと言って、何年も腐らない、着色料がいっぱいの小さいカップに入ったゼリーを与えるのです。毎日毎日ゼリーです。しかしこれでカブトムシは圧倒的に健康に長生きし、素人でも安々と繁殖に成功するのです。犬や猫も、保存料がいっぱいの人工的なペットフードばかり食べさせた方が健康に長生きします。変に、人間と同じようなものを食べさせたほうが病気になってしまうのです。

また、規制上の問題で、合成保存料無添加と宣伝するためには、特定の有用な保存料が使えなくなります。現在、消費者に嫌われやすい「ソルビン酸」みたいな毒々しい名前のものは避けられ、かわりにPH調整剤や酸化防止剤などが、保存料のかわりに多量に使われます。食品メーカーも、それが馬鹿なことだとわかっていても、馬鹿な消費者が好きなので、あえて馬鹿なことをして売り上げを増やしているのです。現在の添加物は非常に厳しいテストをくぐり抜けた、極めて安全なものばかりであるにもかかわらず。

結局、添加物の恐怖を煽って、無添加商品を高値で売るという、科学的根拠がないマッチポンプ商法が蔓延しているのですよね。人間というのは、健康に関しては、かなりあっさりと騙されてしまうようです。食品添加物恐るるに足らず、が僕の結論です。