社長は労働法をこう使え! 向井蘭
著者の向井氏は、日本では数少ない会社側に立っている労働問題専門の弁護士である。つまり、社員を首にしたり、労働組合の対策をしたり、未払い残業代を請求してくる労働者から会社を守ったりするのが、著者の仕事である。
弁護士が書く法律の本は、税理士が書く税金の本と同じぐらい退屈で、つまらなく、そして役に立たない事が多い。なぜなら、学校で教わる法理論と、現実の裁判はぜんぜん違うし、また、テレビなんかの面白おかしい法律番組みたいな、ヘンチクリンな設定でこれは違法か合法かというようなことが、実際の裁判で争われることもほとんどないからだ。そして、弁護士という、いちおう社会的地位がそこそこ高い職業についている人は、どこまでも建前で話さなければいけなかったりする。
そもそも裁判官はひとりで100件とか事件を抱えていて、テレビのバラエティ法律番組に出てくるようなくだらない問題にかまっている時間がない。実際のところ、裁判というのは、離婚ならこれ、解雇ならこれ、交通事故ならこれ、というふうにテンプレート化されている。そうでなければ100件も事件を裁けない。そして、そのテンプレートにうまくはまらない訴訟は、そもそも弁護士が受けなかったり、いろいろなところで門前払いされるのである。
この本は、現実的な労働問題を司法がどう裁くのかが、しっかりと書かれていて面白かった。労働裁判の花といえば、解雇、つまり首の案件であろう。会社はもちろん、どんな理由でも社員を首にできる。明日から会社にこなくてもいい、と言ってもいいし、もうちょっとコンプライアンスのしっかりしているところを世間に見せつけたかったら、労働法に則り1ヶ月分の賃金を支払ってから首にしてもいい。
さて、社員が首になったらどうするか? もちろん、泣き寝入りが多いだろうが、この元社員が訴えて裁判になったらどうなるかというと、日本の裁判所は理論的にふたつの判決しか書けないのである。解雇が有効か、無効かのふたつだ。日本の解雇に関する裁判のテンプレートは、会社が社員を首にする→社員が裁判所に訴える→解雇有効or無効、という流れである。
ベンチャー企業の社長なんかで、よくわかっていない人がいるけど、この解雇無効の判決がどういうものかしっかり理解しておく必要がある。たとえば、まず社員が首になって、それから首になった社員が弁護士に頼んで会社を訴えて、地裁と高裁で裁判が2年かかって、解雇無効の判決が出たとする。そうすると、首にしてから判決が出るまでの給料全額をボンと耳を揃えて支払わないといけない。そして、なんとその社員はまだ社員なのだから、そこからも給料を払い続けなければいけないのだ。
そして、言うまでもなく、日本の正社員の解雇規制は非常に厳しい。だから、著者は解雇するのは、本当に最後の最後で、避けられるものなら絶対に避けるべきだという。
ところで、話は変わるが、外資系金融業界は、法令遵守、コンプライアンスというものに極端に気を使っている。専門の弁護士を雇い、マスコミや監督当局から刺されないように、非常に神経質になっているのだ。しかし、非常に不思議なことに、勤務時間、未払い残業代、そして解雇に至るまで、外資系金融業界の中は、労働法に関しては完全に無法地帯で、北斗の拳の世界なのだ。やっぱり、マスコミや監督当局よりも、労働者の方が、会社側から見ると怖くないのだろうか。
ほぼ同時に発売された、もっと教科書的な「人事・労務担当者のための 労働法のしくみと仕事がわかる本」の方も、労働問題全般に対する知識を得るのにおすすめだ。
著者の向井氏は、日本では数少ない会社側に立っている労働問題専門の弁護士である。つまり、社員を首にしたり、労働組合の対策をしたり、未払い残業代を請求してくる労働者から会社を守ったりするのが、著者の仕事である。
弁護士が書く法律の本は、税理士が書く税金の本と同じぐらい退屈で、つまらなく、そして役に立たない事が多い。なぜなら、学校で教わる法理論と、現実の裁判はぜんぜん違うし、また、テレビなんかの面白おかしい法律番組みたいな、ヘンチクリンな設定でこれは違法か合法かというようなことが、実際の裁判で争われることもほとんどないからだ。そして、弁護士という、いちおう社会的地位がそこそこ高い職業についている人は、どこまでも建前で話さなければいけなかったりする。
そもそも裁判官はひとりで100件とか事件を抱えていて、テレビのバラエティ法律番組に出てくるようなくだらない問題にかまっている時間がない。実際のところ、裁判というのは、離婚ならこれ、解雇ならこれ、交通事故ならこれ、というふうにテンプレート化されている。そうでなければ100件も事件を裁けない。そして、そのテンプレートにうまくはまらない訴訟は、そもそも弁護士が受けなかったり、いろいろなところで門前払いされるのである。
この本は、現実的な労働問題を司法がどう裁くのかが、しっかりと書かれていて面白かった。労働裁判の花といえば、解雇、つまり首の案件であろう。会社はもちろん、どんな理由でも社員を首にできる。明日から会社にこなくてもいい、と言ってもいいし、もうちょっとコンプライアンスのしっかりしているところを世間に見せつけたかったら、労働法に則り1ヶ月分の賃金を支払ってから首にしてもいい。
さて、社員が首になったらどうするか? もちろん、泣き寝入りが多いだろうが、この元社員が訴えて裁判になったらどうなるかというと、日本の裁判所は理論的にふたつの判決しか書けないのである。解雇が有効か、無効かのふたつだ。日本の解雇に関する裁判のテンプレートは、会社が社員を首にする→社員が裁判所に訴える→解雇有効or無効、という流れである。
ベンチャー企業の社長なんかで、よくわかっていない人がいるけど、この解雇無効の判決がどういうものかしっかり理解しておく必要がある。たとえば、まず社員が首になって、それから首になった社員が弁護士に頼んで会社を訴えて、地裁と高裁で裁判が2年かかって、解雇無効の判決が出たとする。そうすると、首にしてから判決が出るまでの給料全額をボンと耳を揃えて支払わないといけない。そして、なんとその社員はまだ社員なのだから、そこからも給料を払い続けなければいけないのだ。
そして、言うまでもなく、日本の正社員の解雇規制は非常に厳しい。だから、著者は解雇するのは、本当に最後の最後で、避けられるものなら絶対に避けるべきだという。
ところで、話は変わるが、外資系金融業界は、法令遵守、コンプライアンスというものに極端に気を使っている。専門の弁護士を雇い、マスコミや監督当局から刺されないように、非常に神経質になっているのだ。しかし、非常に不思議なことに、勤務時間、未払い残業代、そして解雇に至るまで、外資系金融業界の中は、労働法に関しては完全に無法地帯で、北斗の拳の世界なのだ。やっぱり、マスコミや監督当局よりも、労働者の方が、会社側から見ると怖くないのだろうか。
ほぼ同時に発売された、もっと教科書的な「人事・労務担当者のための 労働法のしくみと仕事がわかる本」の方も、労働問題全般に対する知識を得るのにおすすめだ。