テレビの視聴率が年々低下する中、TBSのドラマ『半沢直樹』が大ヒットしているという。視聴率は連日30%近くを記録し、他のドラマ番組に圧倒的な差をつけてトップを走っている。

さらに、僕のTwitterは金融関係の人を多くフォローしているのだけれど、タイムラインを見ていると、みんなが「面白い」と口を揃えて言っていた。これはひょっとして『ハゲタカ』以来のすごい金融ドラマなのか、僕も見なければ、と思い、録画している友人を見つけて、ついつい全部見てしまった。

それで、第1話、第2話辺りでは、はぁ〜、これの何が面白いの?と拍子抜けしてしまった。というのも、僕は大学を卒業すると同時に海外の大学院に行って、その後は外資系投資銀行でしか働いたことがなく、日本の会社というか、日本の銀行の理不尽さとか、そういう企業文化みたいなものを実際のところよく理解していなかったから、いまいち何が面白いのかさっぱりわからなかったのだ。

当たり前だが、外資系投資銀行にも理不尽な政治闘争はあるが、それはもっぱら金を巡るものであり、金の奪い合いであり、猿山のオス猿たちがエサの取り分やメスと交尾する順番をめぐって争い合っている様子にずっと近く、ある意味でとてもわかりやすいものだ。

僕が最初によくわからなかったのが、この銀行員たちがいったい何のために、権謀術数を張り巡らせて争っているのか、ということだった。その政治闘争に勝ち抜けば、億単位のボーナスがもらえるわけでもない。さらに驚くことは、こうした政治闘争に破れても、クビにさえならないことだ。そして、クビの代わりに、『出向』というのがあるらしいことがわかった。その出向というのは、「雇用関係にある企業に在籍をしたまま、子会社や関連会社において業務に従事すること」を言うらしく、驚くことに、給料さえ減らないのだ。ボーナスとかで1、2割減るかもしれないが。

勝っても金が貰えない、負けても金を取られない、いったい、この人たちはどういうゲームをしているのか? さっぱりわからない。いったい何を賭けて戦っているのかわからないまま、主人公の半沢直樹は、野心も能力もタフさも兼ね備えていて、時に違法行為まで犯しながら、繰り広げられる騙し合い、駆け引きの数々は、まるでスパイ映画『ミッション:インポッシブル』を見ているようだ。だとしたら、そこに賭けられているものは、数万人の人の命だったり、せめて数百億円の金であったりして欲しい、と思ってしまうのだが、そこで賭けられているのは、ささやかな出世か、出向かというせこいせめぎ合いなのだ。

そうした中、人事部に詰められた同期の仲間が、ストレスで胃潰瘍になって入院したり、大切な部下が、地方の小さな会社に出向させられたりする。政敵となった自らの上司に理不尽な状況に追い込まれながらも、半沢直樹は戦い続ける。いったい、何をそんなに守る必用があるのか? お前の給料って、受付の姉ちゃんの2倍も行かないんじゃね―の? インターネットでネットショップでも開業したほうがよくねー? いや、それより転職だろ、と思わず突っ込みたくなるというものだ。

しかし、しかしである。第3話、第4話と進むに連れて、僕もどんどんこのドラマにハマっていった。面白いと思った。それは日本の銀行の中の人事や出世の仕組みが理解できてきたからだと思う。まるで時代劇やマフィア映画を見るときのように、その組織独特の力学がというものがわかりはじめた。そして、銀行員たちが何を賭けて闘っているのか、理解した。それは、金よりも大切もの。命よりも大切なもの。

プライドだ。

実際に、銀行で出世するか、どこかに出向するかによって、銀行員だけではなく、その妻や子供の序列も、社宅の中や幼稚園の中で如実に変化する。出向させられた銀行員の妻は、他の妻たちに哀れみの目で見られ、本部に栄転した銀行員の妻には、羨望の眼差しが向けられる。行内での上司、部下の関係は、妻同士の交流でも当然のように反映される。そして、出向というのは、家族をも辱めの対象にされ、まさに死刑同然のものなのだ。家族を巻き込んだプライドを賭けた闘争というのは、まるでマフィア映画『ゴッドファーザー』のようだ。

いま、半沢直樹から目が離せない。