4月9日の記者会見では、小保方晴子は、ひたすらと科学に明るくない国民、つまり95%以上の国民に向かって話し続けた。逆に、世界中でSTAP細胞を再現しようとして、失敗してしまった、幹細胞研究の専門家たちには、何ひとつ新しい情報を話さなかった。つまり、新しいデータは何一つ示されず、全ては彼女の耳触りのいい言葉だけが垂れ流されたのである。これでは科学者ではなく、まるで政治家だ。

ところが,国民の多くが、彼女の言葉に聞き入り、そして卓越した表現力に見入った。インターネット調査などによると、なんと半数以上の視聴者が、彼女の「STAP細胞はありまぁす!」という言葉を、そのまま信じるとの調査結果になった。



僕はこうした大衆の、感情に頼り、まったくファクトを見ない態度にいささかうんざりしたのだが、それでも、これでSTAP細胞捏造問題はひとまず収束してくれるだろう、と思った。理研の調査委員会が捏造と判断した事柄について、彼女が何ひとつ具体的なデータを示して反論することができなかったからだ。

実験データの捏造というのは科学者としては致命的な不正行為であり、今後は理研が懲戒解雇という判断を下すと思われる。そうした将来の労働裁判に先立ち、少しでも世論を自分の味方に付けておきたい。だからこそ、このような会見を、よく弁護士と練って構想したのだろう。結果的には、たった1回の記者会見で、国民の多くの支持を得たのだがから、本当に大したものである。

しかし、彼女の捏造の悪質性、そして、彼女が研究者を続けられるかどうか、というのは結局は科学社会が判断することであり、専門家同士のピアレビューで成り立つ科学社会においては、こうした大衆の支持はそれほど大きな意味を持たないだろう。

労働裁判では、本人は建前としては、いまの組織に残り同じ仕事をやりたい、と主張することになるが、結局は金の問題になるだけである。つまり、STAP細胞捏造問題は、単なる一研究者の雇用問題となり、些末なこととなった。こうして僕は、この2ヶ月以上も吹き荒れ続けたSTAP細胞騒動も、とうとう収束し、いずれは忘れ去れて行くのだろうと思った。そして、安堵した。

あの主要局全てで生中継され、異様なほどの国民の関心を集めた記者会見は、多くの科学者やジャーナリストたちの当然の批判を呼び起こした。そして、本日、それらに対する反論を、弁護士が文章にして発表したのだ。

一読した後に、あのような感情に訴える会見は、小保方氏の声色、表情、仕草などが伴ってはじめて、多くの民集の心を掴むのであり、それが弁護士の理路整然とした文章に落とされてしまっては、まるで説得力を持たない、と思った。

主な反論は次のようなものだった。まずは、200回以上もSTAP細胞作製に成功したと繰り返したが、これは僕が思った通り、単に細胞のある種の発光を確認しただけであったし、実験ノートがないことから、200回という数字自体に全く根拠がない。次に、第三者がSTAP細胞作製に成功したという発言に対して、名前は公表できないが、理研も認識している、と反論していた。しかし、STAP細胞作製に成功することの定義が、単に細胞の発光を確認するだけなら、すでにこれを確認したのが誰だろうと、科学的にはあまり意味のない話だ。

つまり、小保方氏の言い分は、論理的な文章で読むと、一層のことその破綻ぶりが明らかになるのだった。やはり、一連のSTAP細胞騒動は終わった。しかし、僕が次の文章を目にしたとき、その考えは変わった。そして、あまりの恐怖に、戦慄した。

【 STAP幹細胞のマウス系統の記事について】

2013年3月までは、私は、神戸理研の若山研究室に所属していました。ですから、マウスの受け渡しというのも、隔地者間でやりとりをしたのではなく、一つの研究室内での話です。この点、誤解のないようお願いします。

STAP幹細胞は、STAP細胞を長期培養した後に得られるものです。長期培養を行ったのも保存を行ったのも若山先生ですので、その間に何が起こったのかは、私にはわかりません。現在あるSTAP幹細胞は、すべて若山先生が樹立されたものです。

若山先生のご理解と異なる結果を得たことの原因が、どうしてか、私の作為的な行為によるもののように報道されていることは残念でなりません。

小保方氏が発表の文書 全文、NHKニュース、2014年4月15日


これほどの恐怖を感じたのはいつぶりだろうか。僕の中で、会見での小保方氏の不自然な発言や、科学者としては、自ら墓穴を掘るような文章が、これで全てつながったのだ。

小保方氏は「STAP細胞はあります」と何度も言った。そして「200回以上も作製に成功している」とも言った。その成功の定義は、この文章で図らずしも、ただ細胞が発光しただけであり、多能性のチェックは全く行われていないことが発覚した。STAP細胞が捏造である、と強く信じている多くの識者が、事前に指摘していた通りだ。これでは、彼女が何度も会見で、「私は不勉強だ」と繰り返したように、この分野の専門家としての知識レベルを疑われるだけだ。ますますSTAP細胞が捏造である、という確証が増えたのである。

「私の不勉強、不注意、未熟さゆえに論文に多くの疑念を生み、理化学研究所および共同執筆者の皆さまをはじめ、多くの皆さまにご迷惑をおかけしてしまったことを心よりおわび申し上げます」

彼女は、会見でこのように述べ、涙を流しながら謝罪した。これがとても真摯な姿勢に見え、大衆の心を掴んだ。しかし、彼女は、STAP細胞の作製に成功するというのは、死にかけた細胞の自己発光か、Oct4-GFPの発現かどちらかはわからないが、単に細胞が発光しただけだということを自らも認めているのだ。これでは、自分で自分の研究がインチキだった、と言っているようなもじゃないか。しかし、なぜ?

ここで一気に小保方氏の恐ろしい策略が浮き彫りになるのである。小保方氏以外の共著者たちは、みな各分野での一流の研究者である。細胞の発光を確認しただけで、それが万能細胞であるという論文を発表するわけはない。なぜ共著者たちは、小保方氏の作ったSTAP細胞が、確かに万能細胞であると確信したのか? それは若山照彦氏が、キメラマウスの作製に成功したからだ。

しかし、若山氏が小保方氏から受け取ったSTAP細胞は、じつはSTAP細胞を作ったとされるマウスのものではなく、ES細胞をよく作るマウスのものだった。これは小保方氏が行った様々な画像の捏造などが発覚した後に、若山氏が自ら第三者機関に依頼してDNA解析をして発覚したものだ。これは、今回のSTAP細胞が、全て完全な捏造であるとする、極めて強力な証拠となった。

小保方氏が、どこかでSTAP細胞と偽り、ES細胞を若山氏に渡したのではないか、との推測が多くの専門家の間に広がった。両方共に万能細胞なので、それらを簡単に区別する方法はない。若山氏は、ES細胞からキメラマウスを作り、そして他の共著者全てが、今回のSTAP細胞は本物である、と誤認してしまった。そして、笹井芳樹氏が主導しながら論文をまとめたのである。これが今回の一連のSTAP細胞捏造問題に対する、多くの専門家の見方だ。



ところが、小保方氏は、当然のようにこのES細胞にすり替えた部分を全否定して、違う系統のマウスの細胞にすり替わったのは、完全に若山氏の責任である、と堂々と主張しているのだ。若山氏がキメラマウスを作れなければ、当然、STAP細胞が作製できた、と皆が信じることはなかった。つまり、小保方氏の主張は、今回の一連の捏造事件の根幹部分は、若山氏のエラーが引き起こした、と言い切っているのである。それが故意なのか、過失なのかは別にして、若山氏こそが、今回の捏造事件の主犯なのだ。

こう考えると、小保方氏の不自然な発言が全てつながるのである。私はみんなに迷惑をかけてしまうほど「不勉強な」研究者である。「未熟な」研究者である。だかこそ、STAP細胞作製に成功したというのは、単に緑色に光る細胞を作ればいいと勘違いをしていた。つまり、過失だ。故意ではない。よって研究不正でもない!

その後は、若山氏が、不勉強で、未熟な自分にはよくわからない実験をしてくれて、それから笹井氏が論文を書いてくれた。つまり、偽のSTAP細胞に信ぴょう性を持たせたのは、若山氏が、故意か過失かは知らないが、ES細胞のことをSTAP細胞と信じて、キメラマウスを作ったからだ。悪いのは完全に若山氏である。

小保方晴子は、自らを理研に招き入れた恩師であり、世界ではじめてクローンマウスを作ることに成功した、この純朴で誠実な若山照彦という世界的な研究者に、今回の捏造事件の全ての罪を被せることにより、自らの潔白を証明しようとしているのだ。

やれやれ、STAP細胞騒動は、まだまだ終わりそうにないな。メルマガには、背後の人間関係の分析でも書くことにしようか。